第20話 悪親父に怒りの鉄槌!

 大学を離れ、月島家の迎えを待つ。

 あと少しで到着するとスマホに連絡があった。少々待つと気配があった。


 車ではなく――人の。


 む……。

 なぜか悪寒がした。


 とてつもなく嫌な予感がする。まさか、そんなまさかな。


 背後にいる。

 声を掛けられるよりも先に、俺は振り向いた。

 ……やっぱり、か。



「両……大学ここにいたか」



 クソ親父……!

 大学までやって来やがったか。

 二度と会いたくはなかった。だが、親父は俺の大学くらいは知っている。だから、わざわざこんなところまで足を運んできたのだろう。


 でも、そんな予感はしていた。

 連絡を遮断していても、直接会いに来られては回避できない。



「なんだ、生きていたのか」

「ああ……。ずっと借金取りから逃げ回る人生を送っているさ。だから、昨日も逃げ延びたし、生き延びてしまった」


 なにカッコつけて言っているんだ、このゴミクソ親父は。

 生きていたことには驚いたが……ここまでとはな。ゴキブリ並みの生命力かよ。

 クズの一等賞があったら、親父にこそ相応しい。


「で、俺になんの用だよ」

「分かっているんだぞ、両」

「なにを?」


「お前、月島の世話になっているだろ」


「え……」



 な、なぜそれを!

 親父には一言も言っていないし、話したことすらない。――いや、まてよ。子供の頃からの付き合いだ。察していても不思議ではない。

 こんな親父でも、俺の子供時代を見てきたわけだ。知らないはずがないのだ。

 予想はつく……というわけだな。



「誤魔化しても無駄だ」



 正直に言えと親父は、問い詰めてくる。俺はそれでもとぼけた。



「知らねえよ」

「そう言うと思った。確かに、私と月島は最悪な仲だ。家の前に立つことすら許されないだろうな」


「自業自得だろ」


「両、月島は金持ちだ。お嬢さんがいると聞いた。結婚して逆玉の輿だ」

「あ? 寝言は寝てから言え。なにを言っているのかサッパリ分からん。古代シュメール語かよ」


 適当に対応するしかない。

 そうすれば、きっと親父は諦めるはずだ。

 この状況を適当に流す。それが最善策だ。


「お前とお嬢さんが結婚すれば、この私も安泰というわけだ」

「黙れ。もう親父とは縁を切ったんだぞ」


 てか、俺もつい“親父”とか言っているが……今更呼び方を変えるのも違和感があるので、このままとする。


「まったく、両。お前も母さんに似て頑固だな」

「……なんだと」


「アイツは今どこで何をしているか知らんが、離婚をつきつけてきた。もちろん、お前達のことを考えて拒否したが……まさか行方不明になるとはな。正時、なにか知らんか?」


 俺たちのことを考えて……?


 ウソを言ったな、親父。


 お前は俺たちのことなんて一片たりとも考えていないクセに。欲しいのは金だけだ。家族なんてどうでもいいんだ。


 母さんのこともお前のせいじゃないか!


 怒りが沸いてきた。

 拳が震え、今にも手が出そうになった。

 いや、一度ブン殴るべきだ。


 この衝動を抑えられるはずがない。


 数々の暴挙……許しがたい。



「消え失せろ、粗大ゴミ!」



 拳を親父に向けるが、ひょいっとかわされた。さすが、毎日借金取りに追われているだけあるな。



「なにをする両。この私を殴る気か」

「当然だ。お前のような犯罪者は刑務所でのほほんとやってやがれ!」


「それは最終手段だ。むしろシャバより刑務所の方が安全だからな」


「なら自首しろ! この保険金詐欺野郎!」


 再び俺はグーを親父を殴ろうとするが、またも回避された。なんて素早い動きだ。



「……ほう、そこまで知っていたか」

「罪を認めるのかよ。なら、警察に通報してやる」


「いや、証拠がないさ。それより亞里栖だ。立ちんぼでもさせて稼がせろ」

「……」


 まだそんな馬鹿なことをさせようとしているのか。いい加減にウンザリだ。

 殴ろうとしても逃げられる。

 なら、フェイントをかけてやる。


 殴ると見せかけて――俺は親父にタックルした。


 腰の辺りに突っ込み、そのまま大学の壁に激突。


 俺はついに親父を確保した。

 だが、抵抗も凄まじい。



「……ッ! 両、お前……ここまでするとはな……」

「永倉に誘われてラグビー体験をさせられてな!」


「チクショウ!! 両、私を見逃せ!!」


 ジタバタと暴れる親父だが、俺は必死に抵抗した。壁際に追い詰めて動けないようにしているので、逃げるのは難しい。


 直後、執事の武蔵が現れた。



「どうなさいました、両様!」

「武蔵! この男は犯罪者だ。すぐに通報してくれ!」


「わ、分かりました!」



 助かった。武蔵がちょうど迎えに来てくれたんだ。

 これでクソ親父を成敗できるぞ。



「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「観念しやがれ、ギャンブル中毒野郎!」



 数分後、パトロールで巡回中のパトカーが駆けつけてくれた。お巡りさんが直ぐに親父を確保。

 俺は親父の罪を話した。

 するとお巡りさんは、親父を逮捕してくれた。


 未成年である亞里栖に強要して“立ちんぼ”に立たせた行為が犯罪だと判断されたようだ。

 それに、保険金詐欺の疑いもある。


 月島のおばさんが証言してくれれば、親父はおしまいだ。



 これでやっと……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る