第35話 義妹と妹の行方

 春の終わりを告げるように蒸し暑くなってきた。


 親父事件や借金取り事件から一ヶ月が経過した頃。

 俺の大学生活も、生活の為にはじめた事業も順調に進んでいた。そして、亞里栖の高校生活。今は通信制で上手くやっている様子。

 それはとても良い事だ。


 本日、亞里栖は瀬奈と出掛けて不在。

 二人は仲がよく、本当の姉妹のような関係になっていた。


 俺は母さんの面倒を見たりした。

 相変わらず目を覚まさないが、生きてはいる。

 きっといつか起きてくれるはずだ。そう信じている。



 月島家の――俺の部屋。


 絶賛ぼっちタイム中の俺は、新事業立ち上げの為のプランを練っていた。


 これから、なにをしようか。

 趣味に走るべきか、手堅くいくべきか……。

 永倉のようにメイド喫茶もありだ。

 トレカショップをやるのも楽しそうだ。


 どうせやるなら、亞里栖と共にやれる仕事がいい。いろいろ考えるとワクワクが止まらない。


 ベッドでゴロゴロしていると、外の様子が変わった。

 黒い雲が集まり、次第に雨を強めた。


 今日の天気予報を見ていなかった。スマホでチェックすると大雨となっていた。……マジか。


 亞里栖は瀬奈と出掛けている。

 傘とか持っていないだろうし、ちょっと心配だな。


 電話してみるか。


 俺はスマホを取り出し、亞里栖にかけた。



『………………』



 だが、電話が繋がることはなかった。

 なんでだよっ!


 それとも、今は出られない状況にあるのか。……しばらく待つしかないか。



 ◆



 雨はどんどん強くなった。

 夕刻を迎える頃には、空も夜のように暗くなってしまった。

 相変わらず電話は繋がらない。

 亞里栖は瀬奈もなにやってんだか。


 さすがに心配になってきた。


 部屋を出て、外の様子を見に行こうとすると武蔵とばったり会った。



「両様、ご機嫌麗しゅうございます」



 いつもの堅苦しい挨拶をされ、むず痒くなった。突っ込むのがだるくてスルーしていたが……そろそろ頃合いか。



「……まて、武蔵。俺は別にお嬢様じゃない。挨拶は適当でいい」

「そうはいきません。両様はマダムのご子息ですので」


 マダムって……。

 それも慣れないなっていうか、なんて言い方させてるんだ……!

 いやしかし、今はそれよりも。



「武蔵、車を出して欲しい」

「分かりました。では、こちらへ」

「対応が早くて助かる」



 車へ向かい、街まで向かってもらった。

 道中も大雨は続く。


 もしかしたら、亞里栖も瀬奈もどこかで立ち往生しているのかな。だとしても、連絡くらいは取れるはずだが。


 車はゆっくりと街中を走る。

 すっかり夜となり、街中のネオンが窓に鈍く反射する。

 傘を差す人々の雑踏。

 この中に亞里栖たちの姿はない。

 そんな簡単に見つかったら苦労はしないか。



「連絡はつかないのですね」

「ああ。二人ともなぜか連絡がつかない。メッセージアプリも既読スルーだ。さすがに心配だよ」


「お二人が行きそうな場所に心当たりなどありますか?」


 亞里栖と瀬奈が生きそうな場所か……。どこだろう?

 女子同士で行くお店……やべ、分からん。


 そして、なぜか俺は『立ちんぼ』のあの場所を思い浮かべてしまった。……いや、ありえんだろ。二人してあの場所は。


 いや、だが亞里栖ならワンチャンあるかもしれない。アイツは“あの場所”を待ち合わせにした過去があるからな。



「うーん……。この近所のある場所へ向かってくれ」

「この先ですか。ですが……」

「分かっている。行ってくれ」

「はい。それでは向かいます」



 この先はラブホや大人のお店も多い。こんな先にいるわけないと信じたいが……万が一もある。

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