立ちんぼに義妹がいたので拾った

桜井正宗

第1話 立ちんぼで義妹を拾った

 義理の妹『』との関係は完全に冷え切っていた。


 母さんは行方不明。

 親父は数年前に失踪した。


 だから俺が義妹の面倒を見るはずだったが、拒否られた。

 同じ家なのに別々に行動し、別々の飯を食った。……なんだこれ、意味が分からない。俺の家なのに他人の家にいるような気分だった。


 俺が大学生になり、更に関係は悪化。


 女子高生の亞里栖と言葉を交わすことはなかった。


 ただ、義妹の容姿とスタイルはアイドル並みと評され、その噂だけは耳に入っていた。

 でも。

 もうどうでもよかった。


 副業で得た金を握りしめ、俺はあまり人の寄り付かない場所へ向かった。


 夜になると“立ちんぼ”が立ち並ぶ怪しい道路。

 最近、SNSだとかで話題になっていた。


 道路に若い女の子が立ち並ぶ写真を見た。

 どうやら、彼女たちは相手を待っているらしい。金を出す救世主メシアを。いわゆる、パパ活と呼ばれるものだな。


 お店へ行くよりも可愛い女の子がいるので、人気があるという。ただまあ……病気のリスクもあるようだな。そんなことはどうでもいい。


 今はとにかく、とびきり可愛い女の子と出会いたかった。



 この歳になっても、俺はまだ未経験だった。

 でもなぜか、あだ名は“全身性欲チ●ポ人間”と呼ばれていた。ひでェ呼ばれ方だが、スマホで堂々とエロ動画を見ているせいかな。



 ゆっくりと吟味していく。

 顔はマスクで覆われ分からないが、話しかければ素顔を見せてくれる人もいる。だが、俺にそんな勇気はなかった。

 マスクをしていない子を探すか。


 ……ん、あの隅にいる女の子。


 多分、立ちんぼだろうな。


 妙に注目を浴びていて、すでに話しかけられていた。……でも、なんだ? 妙に迷惑そうというか。実はそういう目的ではなかったのだろうか。


 気になって近づいてみると、その顔に見覚えがありすぎた。


 え、ちょ……!



 お、おいおい!!



 マジかよ。



 あの顔は間違いないぞ!!




「あ……亞里栖。うぉい、亞里栖だよな!?」



 先客の前に立ち、俺は名前を呼んだ。

 すると亞里栖も気づいて驚いていた。



「……は? え……ウソ。ま、まさか……両ちゃん……」



 数年振りに俺の名を呼ぶ亞里栖。

 マジで何年振りだよ。その呼び方。


 お互いに驚いていると先客の若い男が舌打ちした。



「おい! なんだよ、お前。横入りすんなよ!」

「あぁ? この子は俺の義妹いもうとだ!!」


「え!?」


「帰れ」



 思いっきりにらむと、男は慌てて逃げ出した。

 勢いだったけど何とか追い払えたな。……ふぅ。いや、落ち着いている場合じゃないぞ。なんで立ちんぼに亞里栖がいるんだよ。



「……ど、どうしてここに」

「それは俺のセリフだ。亞里栖、お前女子高生だろうが! なにやってんだよ!」

「両ちゃんこそ何よ……。ずっとわたしを無視していたクセに」


「ち、違う。お前が俺を拒絶したんだろうが」


「そうだっけ? 覚えてない」



 覚えてないって……。会って数日後、亞里栖は俺を兄だと認めなくなった。その口で俺を他人だと言い放ち、それ以来気まずくなって会話はなくなっていたんだ。


 最初の一日だけだった。

 俺を“両ちゃん”と呼んでくれたのは。



「とにかく。こんなことしちゃダメだ!」

「両ちゃんこそ、なんで……ここに。あ、まさか! 女の子を買おうとしてたの? うわ、キモ。最低!」


「お前が言うな」


「……うぅ。じゃあ、両ちゃんがわたしを拾ってよ」

「は?」


 こ、こいつは何を言っているんだ。

 そりゃつまり、契約するってことだよな……?


「別にいいじゃん。最初からそのつもりでしょ?」

「そ、そりゃ……そうだったけど」

「じゃ、第一号で良かったね」

「へ」


「まだ初めてだったんだ、この立ちんぼ」

「マジかよ」


「だってさ、お金がないといろいろ買えないじゃん。世の中、金でしょ、金」

「お前な。まあいい、まだ救えるのなら、亞里栖を拾ってやる」


 そうだ。ワケの分からんヤツに拾われるくらいなら、俺が拾ってやる。こんなんでも亞里栖は俺の義理の妹だ。……家族だ。


 だからこんなところから去るんだ。



「じゃ、成立ね。お金ちょーだい」

「まだ早いだろ。あとだ」

「ほーい」



 全然反省してないな、亞里栖。説教してやりたいところだが、これ以上の関係悪化は望まない。

 そうだ、今は優しくしてやるべきだ。

 それに、こういう状況にしてしまった俺の責任もある。



「と、とりあえず喫茶店とか」

「違うでしょ、両ちゃん。ラブホでしょ」


「ぶふぁ!? ラ、ラ、ラブホぉ!?」


「え、だって。立ちんぼってそういうことでしょ」

「なにィ! ヤ、ヤるつもりか?」


「お金ほしーし」


「えー…」

「いいじゃん。血は繋がってないんだし」

「そ、そりゃねえ……?」



 ぐいっと腕を引っ張る亞里栖。ま、まさか本気なのか!? 本気でラブホに行くつもりかー!?



◆◆◆

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