第22話 立ちんぼへ向かった義妹

 月島家に戻ると、玄関前には月島のおばさんが立っていた。まるで俺を心配するように、深刻そうな表情を浮かべていた。


 ……なんだろう。

 涙ぐんでいるし、まさか母さんになにかあったのか?


 車から降り、おばさんに話を聞く。

 すると、俺に抱きつてきて安心していた。

 まるで子供を心配するような親の安堵感。

 でも、俺はおばさんとは親戚。ここまで親心を向けられて困惑した。


「おばさん、大丈夫です?」

「それはこっちのセリフよ、両ちゃん」

「? どういう意味です?」


 詳しく聞くと、おばさんは俺と親父のトラブルを既に把握していた。

 どうやら、武蔵が連絡を入れていたようだ。

 いつの間に。


「あの人、逮捕されたのよね」

「はい。もう安心です。元親父は罪を重ね過ぎました。当分は刑務所暮らしでしょうね」


 もう二度と会いたくない。

 いやもう他人だ。アイツは親ではない。


「良かった。両ちゃん、あなたが無事で」

「そんな心配なさらないで。俺は平気ですよ」


 邸宅いえの中へ。

 自分の部屋に戻ろうとすると、おばさんは俺を呼び止めた。


「あのね、両ちゃん。話があるの……」

「改まってどうしたんです? おばさん、さっきから変ですよ」


「実はね……。両ちゃん、あなたのお父さんは……本当のお父さんではないの」


「え……」

「お母さんも別の人なの」

「な、なに……言っているんですか。俺は元親父と、あの部屋で治療受けている母さんの息子です」


 だが、おばさんは顔を横に振った。

 意味が分からなかった。

 確かに、今まで家族らしい家族ではなかったけど、家で過ごした時間は本物だった。


 けれど、なんだろう。

 唐突に違和感を感じ始めていた。


「違うの。両ちゃん、あなたはね……。私の息子なのよ・・・・・・・


「………………」


 おばさんは何を言っているんだ。

 そんな、そんなはずはない。


「ショックでしょう。でも事実なの」

「じゃ、じゃあ、元親父も母さんも何者なんですか……!?」


「あなたの母であり、私の妹でもある彩絵さえは子供が産めない体だったの。だからね、私が代理出産したの。生まれてきた子供が両ちゃん」


 代理出産。子供が作れない夫婦は取る最終手段。

 つまり、月島のおばさんは母さんの為に代理出産。俺を生んだというわけか……。

 だから、子供の頃からあんなに気にかけてくれたわけか。


「じゃあ、元親父は……アイツは何者ですか?」

「あの人は彩絵の夫で間違いない。でも、彼自身も種がない病気だったの」


 元親父は種無しだったわけか。

 本当の父親は別にいるんだ。


 どうしようもなかった二人は、母さんの姉を頼ったわけだ。

 そして、俺が生まれた。

 俺は元親父と母さんの息子になった。


 ……なんだよ、それ。


「元親父はどうしようもないクズで、母さんのをDV。あんな目にして家庭は崩壊……って、ワケですか」

「そういうことね……。両ちゃん、ショックでしょうけど、あなたは……私の子よ」


 でも、それでは母さんがあまりに可哀想だ。

 だから俺は……俺は。


「二人とも母さんです。それではダメですか?」

「いいわ。彩絵はどう思うかわからないけど、覚悟はしていたと思う」


「すみません。わがままで」


「いいのよ。それにね、両ちゃんが元気なら私はそれで嬉しいの。これからも家にいてくれる?」

「もちろんです。俺はおばさんの……いえ、あなたの息子だから」


 本当の母さんの言葉には嘘偽りはないだろう。この人が嘘をつく人だとは思えない。


「もし不安ならDNA鑑定しよっか」

「うん。それでサッパリできると思うから」


 俺は返事をした。

 信じていないわけではないが、本当の答えが欲しかったから。


 ◆


 亞里栖の姿が消えた。

 またか。またどこかへ行ってしまった。


 でも。

 そう、俺はなんとなく分かっていた。


 アイツは……亞里栖はあの場所で俺を待っている。


 ああ、分かった。

 そこへ向かえばいいんだな、亞里栖。

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