第9話 イケメンを抹殺する魔法《ゾ●トラーク》

 スマホで調べてみると、やや離れた場所にラブホはあった。

 案外あるものだな。

 その場所へ歩いて向かうことに。


「結局ラブホだね、両ちゃん」


 からかうように微笑む亞里栖。


「嬉しそうだな」

「稼げるから」

「お前なっ」

「冗談冗談」


 本当かなぁ。いやけど、ホテルへ向かう以上は……仕方ないかな?

 悩みながらもラブホに到着。


「ここだ」

「え。夢の国にあるようなお城にしか見えない」


 目の前にあるのはお城タイプのラブホだった。俺は見たことだけなら何度もあった。だが、実際に利用するのはこれが初めて。


「ラブホだ」

「マジ?」

「ああ、マジだ。亞里栖は知らなかったのか?」

「普通知らないって。でも、なんで外観がお城なんだろう」

「宣伝目的らしいよ。インパクトあるし」

「へえ、考えているんだね。でも楽しみかも」


 どうだろう。部屋自体はそんなに大差はないと思う。

 ともかくチェックインしてみますかね。


 受付はタッチパネルで操作。

 空いている部屋を指定し、そこにした。

 一応予備知識があって良かったぜ。



「……こんなところか」

「ここのホテル、無人なんだね~。てか、両ちゃん手際良すぎでしょ」


「ああ、こんなこともあろうかと勉強しておいた。立ちんぼを利用する以上は必要な知識だろう」


「な、なるほど……」



 妙に納得する亞里栖。まさか義妹と共に来るとは思いもしなかったけどな。


 通路を歩いて部屋を目指していると、他の客とばったり会ってしまった。……うわ、気まずい。


 そう思った時だった。



「ん、あれ。お前、相良か!」

「へ……って、永倉!」



 目の前には女を連れた永倉の姿があった。うわ、こんな場所で会うとか偶然かよ。

 彼女か分からないが、女性は異次元レベルの容姿。どこでそんな芸能人のような人を拾ってきたんだか……。

 いや、永倉なら余裕というわけか。



「相良、そっちの女の子は? ずいぶんと若いな」

「か、彼女だよ。悪いかよ」



 怪しまれないよう、俺は直ぐに答えた。

 亞里栖は顔を真っ赤にしてうつむいていた。おいおい、なんでそんな恥ずかしそうなの……!? えっちした時はそこまで照れていなかったろッ!


 いや、そんな場合じゃない。



「彼女ぉ? ウソだろ。立ちんぼで拾った相手だろ。それかマッチングアプリとか」

「ち、ちげぇよぉ!?(震え声)」



 くそ。永倉のヤツ、勘が鋭い。

 下手なことを言えばバレて通報されかねん。絶対に俺と亞里栖が兄妹であることは秘密だ。



「まあいい。俺も似たようなものだし」

「なに?」

「俺の女はマッチングアプリで会ったセフレだ」


 などと耳打ちしてきた。

 自慢かよっ!


 え、マッチングアプリって会えるものなんだ。知らなかったぞ……。

 俺は一度も会えたことがないのだ。あんなのムリゲーだろ!

 だからこそ確実な立ちんぼだとか風俗店を視野に入れていたんだ。俺レベルの雑魚ザコはそれが限界だ。


「いいな。タダかよ」

「自慢はしたくないが、顔とか清潔感だな」

「イケメン特権だなぁ」

「いやいや、相良。お前こそ、すっげー可愛い子を彼女にしたんだな。もっと早く紹介してくれよな」


 実は義妹ですなんて言えないけどな!

 だからこそ紹介なんてこともできないわけで。

 今は彼女で乗り切るしかない。


「あ……亞里栖です」


 空気を察したのか、亞里栖は挨拶をした。


「へえ、亞里栖ちゃんというのか。可愛いね! 今度、俺と遊ばない?」

「ごめんなさい……」

「マジー? 相良のことそこまでラブなわけか~」

「そ、そ、それは……」


 からかいすぎだぞ、永倉め。

 あと亞里栖、よく断った!


「もういいだろ、永倉。亞里栖は人見知りなんだ。これ以上、踏み入ればお前を“イケメンを抹殺する魔法ゾ●トラーク”で消す」


「おー、怖い怖い。今のうちに防御魔法に徹しておくか」


 にやっと笑う永倉は、亞里栖から離れた。

 よし、とりあえず消すのは止めておいてやる。命拾いしたな、永倉。あと少しでお前はこの世から消えるか、せめてもの慈悲で全身が黄金に染まっていたかもしれない。



「じゃ、俺と亞里栖は行く」

「分かったよ、相良。でもひとつだけ」

「なんだ?」

「ロールスロイスは最高だぜ……!」


「笑顔でなに言ってんだお前」



 って、永倉のヤツ聞いてねーし!

 立ち去ってしまった……。


 な~にがロールスロイスは最高だよっ! いや、分かるけど! 車の方ではなく『体位』の方だ。

 有名な男優が考案したという立派な体位。

 男女両方が気持ち良くなれるという究極の体位だという。


 やべ……考えただけで興奮してきた。……ナイス、永倉。



「ねえ、両ちゃん。なにを妄想しているのかな」

「すまん、亞里栖。今日はいろんな体位をしような」

「ヘンタイ」



 蔑むような眼差しがたまらない。ご褒美すぎるだろ。

 亞里栖は俺の腕に絡みついてきた。なんだ、期待しているのか。

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