26 3人の本気

3人はフル装備…とは言い難い装備だ。どう見ても安物の装備に見える。


「なあ、戻ってきてまた俺たちにあのスキルを使って、さらに高みを目指さねーか?」

「お断りよ!」

都合の良いイサックさんの言い分に、カタリナが反応し抗議の声をあげる。


「お前には聞いてないわよ!」

そんなカタリナにケイトさんが声を荒らげる。


「俺たちがこうなったのはお前のせいだ!見ろよこの貧弱な装備…軽量化のスキル効果が切れたから買いなおしたんだ。まるで、駆け出しの冒険者のような装備だ。よって!お前は僕らのために尽くす義務がある!」

「あんたバカなの!人間のクズね!いいわ!私がきっちり処分してあげる!」

イサックさんの意味不明の主張にカタリナがマジ切れしている。


「いやカタリナ?ここは穏便に、ね?物騒な言葉、カタリナには使ってほしくないな?」

慌ててカタリナを止めようと説得を始める。正直今の3人には負ける気がしないから、まずはこっちを止めるべきだと判断した。


「迷宮内の死亡は冒険者にとってつきものでしょ?」

「そうです!やっちまえでーす!」

ヤル気満々で笑顔を見せるカタリナと、それを応戦するクローリー。


「僕は!カタリナがあんな人達のために手を汚すのは見ていられないよ?」

「イテイオ…」

両肩を掴んで必死の説得が効いたのか頬を赤らめるカタリナ。


「何してるんですか!やっちまえでーす!」

はしゃいでいるクローリーは無視することに決めた。


「お前なんかが!私たちを見下すな!」

ケイトさんの火の玉が飛んできたが、僕とカタリナはさらりと躱す。


その直後、僕にはイサックさんの大剣での攻撃が横から迫ってくるが、それを剣を滑らせるように難なくいなす。地面に打ち付けられた大剣にふれ、『重量化』を掛けるとイサックさんは大剣から手を離していた。

痛そうに右手を握り呻いている。多分手首でも痛めたのだろう。


カタリナがそのイサックさんの肩を踏んづけ踏み台にしながらブルゴーニさんへと飛び掛かり、構えていた大盾の上に手を置くと、くるりと回転するようにしてブルゴーニさんの後頭部に膝を直撃させていた。

それでもブルゴーニさんは高レベルの冒険者の意地だろうか?

声をあげ痛みをこらえながらもカタリナに向き直り大盾を構えなおすが、そこに十分タメを作って放ったカタリナの『正拳突き』の『連撃Ⅱ』が叩き込まれ盛大に吹き飛ばされていた。


「死んでないよね?」

「多分?」


イサックさんの着ている鎧に手を置いて『重量化』を掛けながらカタリナに確認する僕の言葉には、なんとも適当な返事が成され不安になる。

そのカタリナの言葉を聞いたからか、「ひっ!」と声を漏らしたケイトさんが怯える目でこちらを見ていたが…


「あ…」

僕は目を背けカタリナに全てを任せた。


不快な水音だけが聞こえてきたが耳に手をあて距離をとる。


「おもらしでーす!」

クローリーは余計なことを言わないでほしい。ケイトさんが声を上げ泣いているのがふさいだ耳でも聞こえてしまい、どうしたら良いかと胃がキリキリと締め付けられる気がした。


ストレス半端ないです…


結局、3人とお互いに『もう二度とかかわらない』と約束し、僕たちは帰路を急いだ。


◆◇◆◇◆


あれから1週間。

結局3人の事はギルドに報告はしなったが、僕たちは20階層のボスを目指してレベル上げの日々を送るっていた。

今のところ何事もなく平和な日々が続いている。


主に20階層付近でレベルを上げ、僕はレベル43となっている。

レベル40の時には、お約束どおりの『重量化』が『重量化Ⅱ』にランクアップした。


――――――

『重量化』→『重量化Ⅱ』触れればどんなものでも重く、念じれば打ち合う得物すら重くする

――――――


なんと剣で打ち合いの最中に『重量化Ⅱ』を発動することで、少しづつではあるが相手の武器が重くなるという、明らかな対人チートスキルになった。


20階層のボスは棍棒を持ったトロールだったはずだ。ぜひこの能力を使ってみたい。とは思っているが、今はカタリナとクローリーの2人で突破できるよう修行中だ。その時には僕もソロで突入してみよう。


そのカタリナはレベル47となり、能力値もかなり上がっている。

クローリーについてはレベル30まで養殖を続け、レベル20では『結界』、レベル30で『光の剣』という攻撃スキルが発現した。


――――――

『結界』攻撃を弾く光輝く衝撃

『光の剣』聖なる力を籠めた光の剣

――――――


『光の剣』を覚えた結果、クローリーを養殖することも無くなり効率が良くなった結果、クローリーもレベル33までアップしていた。


そして遂に試しにではあるが2人で20階層のボス戦に挑む時が来た。


僕は2人がボス部屋に入った後、追いかけるように一人でボス部屋に入った。

相性の問題だろうが3体のトロールが武器を失い戸惑っているうちに、かなり簡単に倒すことができてしまった。

そして2人と21階層につながる階段で合流する。


クローリーの遠距離からの『光の剣』に気を取られたトロールたちが、カタリナのいつものコンボで倒してしまったようだ。クローリーは無い胸を張ってドヤっていた。

そして初回特典の宝箱には、高そうな弓と槍、少量の宝石が出たようだ。


21階層に上がり、槍を試して見たが、いまいちしっくりこなかったのであきらめた。2人も同様に槍と弓まで試してみたが、同じくしっくりこないようで今回は買取に出すことになった。

運が良ければ強い属性が付与された武器の可能性もあるので、高くあれ!と強く願いつつカタリナの背負っている魔法の箱へ収納した。


弓の方は矢は魔力で矢が装填され打ち出されるもので、密かに高額確定では?と思っているが相場がいまいち分かっていない。鑑定結果が楽しみだ。

そんなこともあり、ギルドへ戻る足取りも何時もより何倍も軽かった。

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