05 冒険者登録
「うーん困ったわね。でも、もう貴族じゃないならいいのかな?」
「良くないと困ります」
一応そう返事をしておく。このまま冒険者に成れないならどこかでアルバイトでも探さなきゃならない。
「じゃあ、登録だけしとこうか。後は装備だね。ただでさえその服は目立つから、見たところ荷物も無いようだし、装備が無ければ狩りもできないから、ついでに服も冒険者っぽのにしちゃった方が良いわよ?」
「はい。ありがとうございます」
もっともな助言に頭を下げお礼を言う。
「あっ、そう言えば登録料も必要になるのだけど…」
「それなら、大丈夫です」
僕は慌てて腰の袋に入れていた金貨を1枚だけ出す。不用心に全部を出したりなどしない。
「あっ、金貨ね…ちょっと待ってね」
お姉さんが急に小声になって金貨を手早く受け取ると、銀貨を9枚、銅貨を7枚を御釣りとして返してくれた。どうやら登録料は銅貨3枚、3千円程度のようだ。
この世界では金貨は100,000ロズ、銀貨は10,000ロズ、銅貨1,000ロズ、小銅貨は100ロズとなっている。まだ記憶が戻る前の知識に照らしてではあるが、おおよそ1ロズは1円程度と見て良いとも思う。
だがお姉さんの反応を見るからに、ここで金貨を出したのは不味い事だったのだろう。
冒険者はそれこそ何億ロズと稼ぐという話だったが、冒険者登録する予定のガキが10万ロズを持ち歩いているのだ。考えれば分かったはずなのに…
「じゃあ、登録はここに血を垂らしてね」
そう言われ鋭い針がついている道具と、一枚のプラスチックのようなカードが出てきたので、その言葉に従い人差し指を針で刺し、お姉さんが指さしたカードの丸い一部に指を置いた。
次の瞬間、カードが少し熱くなった気がして指を離す。するとお姉さんがカードを取ると、小さな杖のようなものを軽く振り、それに合わせて僕の指が今度は気持ちの良い程度暖かくなり、確認すると指の傷は消えていた。
「お姉さんは治癒魔法が使えるんですか?」
「ぷっ、まさか。これは小回復が込められた魔道具よ。少し魔力を籠めれば針で刺した傷程度なら今の様に治るのよ。ってことで登録完了したけど、名前から教えてもらってよい?」
僕は慌てて自己紹介をする。もちろんただのイテイオとして…
「そう。じゃあイテイオくんはその、軽量化ってスキルで荷物持ちなんかから始めたら良いかもね」
「はい。多分それが一番生かせると思うから」
「じゃあまずは装備だよね。今は荷物持ちといっても迷宮の中に入ることになるから…どうしようかな?私まだ仕事終わりまで時間あるし…」
「いえ、場所さえ教えてくれれば…」
面倒見の良いお姉さんに、戸惑いながらも場所を聞くことにした。
「よう、ローラ。そっちは新人冒険者さんかい?御貴族様ではないってことは聞こえてきたが…」
「あ、イサックさん、そうです。まずは装備をそろえてからなんですけど、物を軽くするスキルを持ってるようで、荷物運びを頑張るそうですよ」
僕はその、受付のお姉さん、ローラさんが話しかけた声の主を確認する。
背中には大きな剣。露出の高い皮鎧を着ており、ごつごつしてそうな腹筋や太い腕からもベテラン冒険者なのだろうと思い見ていた。
「おお。新人君か。荷物持ちなら俺らのとこも募集してるし、どうだボウズ。一緒に迷宮に行ってみるか?」
もう一人、同じように体の大きな男の人がやってきてそう提案される。フルプレートアーマーと言うのだろうか、全身鎧に背中には大きな盾を背負っている。
「あら、二人がそんなに迫ってきたら、僕ちゃんも怖がっちゃうんじゃない?」
急に背後から女性の声がして、後頭部に柔らかなものを感じつつ抱きしめられる。
「ちょ、その、やめて、ください」
僕がそう言うと胸に回された手が放される。
「お前のような年増じゃだめだってよ」
「イサック!殺されたいの!」
そう言って僕の背後から、長い黒髪のお姉さんがイサックさんの傍まできて睨みつけていた。
あの豊満なお胸がさっきまで僕の後頭部にあったかと思うと、また恥ずかしくなってしまう。
「あの、僕でお役に立てるならお願いしたいですが、僕はまだレベルも上がってないんです。ダメ、ですよね?」
僕の言葉で女性もまた僕の方を向く。
「あら、御貴族様のおぼっちゃんかと思ったら、結構可愛いこと言うじゃない。大丈夫よ。戦闘は私たちが、特にこのブルゴーニが全力で守るから。だから一緒に行きましょ」
そう言って盾を背負った男の肩を、バシバシ叩きながら僕を誘ってくれていた。
その後、お互いの事を改めて紹介をしてから武器屋へと向かう。
最初に見かけた剣を背負ったのが大剣使いのイサックさん。ジョブは剣士。
大盾を背負ったのがタンクであるブルゴーニさん。ジョブは拳闘士。
そして美人のお姉さんは付与魔道師でケイトさん。ジョブは技師。
三人は5年ほど冒険者としてこの帝都で活動しており、現在C級冒険者という。「パーティ名とか無いの?」と聞いてみたが、どうやらこの世界にはそう言った風習はないようだ。
イサックのところの、とかいう呼ばれかたをしているらしい。
だが僕の提案でこのパーティに名前を付けたら目立つかな?なんて話し合いを始めていたりとなんだか楽しくなってきてしまった。
結局名前も決まらぬままに近くの武器屋へと入ってゆく。
「まずは中に着る服だな。予算はどのぐらいだ?」
「金貨1枚ぐらい、です」
あまり多くてもと思わず少なめに予算を伝える。もちろん今後の生活費も必要だから、過少申告したわけでは無い。
「そうか。もう少しほしいところだが、まあ荷物持ちだからな。宿代は別にあるんだろ?」
「あっ、はい。数日分なら」
「じゃあいいな。基本普段着を何着か購入して、それと軽鎧と短刀程度て良いだろう。どうせ戦うことはねーからな」
「はい。お願いします」
取りあえずな話が纏まると、イサックさんが奥の方に居るはずという店主を大声で呼んでいた。
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