04 乗り合い馬車
「お貴族様が独りで何の様だい?」
建物へ入ると受付をしているお姉さんからすぐにそう声がかかる。
「いや、もう貴族ではないんだよね。これ、何時頃出るか教えてもらえますか?」
そう言って木札を見せる。
「ああ。そうかい。もうすぐ出発さ。あそこにいる奴らが一緒に乗るから、一緒に待ってたら良い」
ジロジロと品定めするように見られながらも指差された場所へ行き、席がすでに埋まっているのでそのまま近くで立っている。
案の定その場にいる人たちにも好奇の目を向けられる。
そんな中で僕は今後どうしたら良いのかを考えていた。
失敗したとは言え、神様はチート能力と言っていた。と思う。いや、違ったかな?あまりはっきりとは覚えていないがそう言っていた気がする。
そのチート能力に失敗したと言うならもう詰んでしまうが、この軽量化というスキルがチートであることを期待しつつ、帝都で冒険者になろうと思っていた。
暫く待つと席に一台の馬車が帝都の方角から近づいてくるのが見える。
4頭の馬に惹かれた巨大な馬車だ。
地球で言ったら乗り合いバスだな。そう思いながら席を立ち始めたみんなに着いてゆく。
到着した馬車から降りる人と入れ替わるように乗り込むと、やっと座ることができたので小さく息をはく。
馬は樽を持ってきた男たちにより体を拭かれ、エサのようなものを食べさせられ、水を飲んでしばしの休憩をしているようだった。
御者が「じゃあ出発します」と声をかけると、馬たちはUターンするように上手に馬車を引くと、そのまま帝都までの道なりをゆっくり進んでいった。
正直どのぐらいで到着するのだろう。
考えるほど不安が溢れ出して止まらなくなる。
「おい、お前は御貴族様なのか?」
隣に座った冒険者風の体格の良い男が話しかけてきた。
「元、なんだよね。神託の儀でハズレを引いちゃってさ。追い出されちゃったよ」
少し躊躇したものの、当たり障りのない程度で返事をする。
「げっ、なんだよそれ!御貴族様も大変なんだな、ま、頑張れよ」
「ありがとう。ところで、帝都まではどのぐらいで着くの?」
「ああ、3時間程度だろうな。遅くとも夕方ぐらいまでには着くよ。まあ、途中で盗賊なんかに遭遇したらもっと係るだろうけどな」
そう言って笑う男を見て不安がまた湧いてしまった。
「盗賊?出るの?」
「ああ、たまにな。だけどここには見た限り、あー5人ぐらいか?それなりに戦えそうなのもいるから、よっぽど大規模な盗賊団じゃない限り大丈夫だろ?俺もその一人だけどな!」
そう言いながらガハハと笑う男。なんだ、冒険者がいれば大丈夫なのか。
「それに、盗賊が来たら稼ぎになるから俺としては大歓迎だ!片っ端からぶっ殺して懸賞金で一儲けだ!」
その言葉に僕は小さく笑うしかなかった。
結局、何事もないまま馬車は帝都までたどり着いた。
隣に座っていた男に冒険者ギルドの場所を聞き、別れの挨拶をするとその場所、帝都の中心部へと向かった。
てっきりあの男も冒険者ギルド直行かと思っていたが、どうやらそのまま帝都の自宅に帰って暫くゆっくりするのだとか…一人になってまた少し不安がよみがえってくる。
思い返せば父は剣聖。攻め入って言ってきた敵国を一人でその『天翔乱刀』というスキルで蹴散らし、国の武の象徴となった。
母は元宮廷魔導士を多く輩出している伯爵家の令嬢で、『大魔道』という魔術系ではトップクラスのレアなジョブで『業火』『氷雷』などの大規模攻撃スキルを持っており、戦場で父と共に戦った仲だったようだ。
親のジョブを多少なりとも引き継ぐ世界のため、生まれた時から魔力の小さな僕は、正妻の子として剣聖とは言わないまでも近いジョブになることを期待されていた。
弟はお妾さんの子であり、生まれながらに魔力を強いため魔術系のジョブになるのではと期待されていた。
だが父は自分の息子が魔術を使うことをあまり好きではないらしく、常に僕の補助をする補佐役としての教育をしていたと記憶には残っている。
それでも弟は良くなついており、僕の補佐をすることを嬉しいと言ってくれていた。
幸せな10年だと思っていたんだけどな…
そうこう考えている間に、お目当ての冒険者ギルドへたどり着く、
その扉を開け、中に入ると中にいた冒険者が一斉に僕を見た気がした。これは、服も何とかしなくちゃいけないかもしれない。どう考えても今の見た目は御貴族様だから。
途中で服屋に行かなかったことに後悔する。
色々あって忘れていたが神託の儀の時の恰好でそのままここへと来ることになった僕。
当然公爵家として恥ずかしくない服を用意して臨んだ結果、場違いな恰好でここに立っている…考えなしに足を運んだ自分が恥ずかしくなり顔が熱るのが分かる。
「僕、用があるなら早くおいで」
受付のお姉さんにそう言われ、慌ててそこまで走ってゆく。
「冒険者に、成りに来ました」
もう頭の中は恥ずかしさでぐちゃぐちゃになってしまう。それでなくても人見知りであった前世。イテイオの10年の記憶があってもそれは何ら変わらない。
「僕、何歳?御貴族様よね?御両親様の許可は取っていないとさすがに困っちゃうのよね」
「いえ、僕はもう家を出た身です。冒険者として稼がなくては、食っていけません」
僕の返答にため息交じりで何か考えている様子のお姉さん。
このままじゃ餓死フラグが立ってしまいそうだ。どうしたら良いのか思い悩みながらお姉さんを見ていた。
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