06 冒険者始めます。
イサックさんの声にこたえるように奥から厳つい親父さんが出てきた。
「うるせーな!そんな大声出さなくても聞こえてるよ!ってイサックかよ。どうした?また装備ぶっ壊れたのか?」
「ちげーよ。こいつの軽鎧と短刀、普段着いくつか、予算は10万ロズ。もちろん負けてくれてもいいんだぞ」
「御貴族様か?」
「いや、今は違うらしい」
「ほお。御貴族様は残酷なことをするもんだ」
「ほんとにな」
そんな会話を聞きながら、商売をしていると1を聞いて10を知ることができるんだなと驚いてしまう。
きっとあれだけで僕が訳アリで捨てられたか何かなんだろう、とおおよその正解が導き出されたのだろう。
「それはそうと、その高そうな服、まだ必要か?」
店主がそう聞いてくる。
確かにもう不要ではあるな。第一僕の趣味ではない。
日本での記憶もあるので尚更なのだろうが、中世ヨーロッパの貴族が来ているようなフリフリした派手な服は。もう一生着ることはないだろう。
「これ、もう不要なんですよね。買い取ってくれたりします?」
多分そう言う事なのだろうと試しにそう言ってみるが、店主の笑みを見てどうやら正解しているようで脳内でガッツポースをしていた。僕の直感もまだ捨てたもんじゃないなと。
「じゃあ、良く見てからにはなるが、おそらく金貨5枚程度では買い取れるから、良かったら売ってくれ」
「は?中古だろ?金貨5枚って…」
店主の言葉にブルゴーニさんが驚いている。
「どう見ても上級貴族が来ている服だよ。下級貴族に中古で卸してもそのぐらいは出してくれるはずだ」
「お前、すげーとこの子だったんだな…」
イサックさんが値踏みするように見るので少し戸惑う。
「二人がジロジロ見るから困っちゃうでしょ。ねー」
そういってまた僕に抱き着いてくるケイトさんにドキドキして「あの、その」しか言えなくなってしまう。色々と柔らかくて良い匂いがするから仕方ないよね。
僕が恥ずかしくて無言になっている間に、別の女性店員がやってきて店主に普段着を何着か持ってきていた。店主の手には別の皮鎧と短剣も握られ、近くのテーブルの上へと並べられてゆく。
「これで金貨1枚。着替えたら貴族服の査定をして差額を渡す。それでいいかな?」
その言葉に、服や装備の相場が分からずイサックさんを見ると、うんうんと頷いていたので「それで大丈夫です」と答えた。
「じゃあ、とりあえずどれかあっちで着替えてきてくれるか?」
そう言って後ろの方にある部屋を指す店主。
「じゃあ、イテイオくんは私と着替えに行こうか」
「いや、自分で着替えれますから!大丈夫です!」
そんなやり取りをしながら、適当に取った1着の普段着を持って試着用の部屋へと入り鍵をかける。
ドキドキする心臓を深呼吸で落ち着かせながら着替えてみる。
少なくともさっきまで着ていた貴族服よりも良いなと思った。当然のごとく質が悪いからかゴワゴワしてるけど…
「うん。やはり良い品質だ。何回も着ている物でもないだろう。おまけして金貨6枚、買ったのと差し引いて金貨5枚の返金となるが、どうだ?」
「はい!ぜひよろしくお願いします!」
思いがけない臨時収入を得た気がして顔がほころぶ。
オマケで下着類を3セットほど貰って店を出る。
3人が拠点として泊っているという宿屋へ行くことになった。
ケイトさんが僕を女将さんに紹介し、1泊銅貨4枚、朝食付きなら5枚、月で借りるなら朝と夜が付いて金貨1枚だと教えてくれた。
格安のビジネスホテルぐらいの金額かと思ったが、部屋は広く、月なら朝夕の食事付きで月10万ロズは、かなり安いと言えるだろう。
とりあえず買ったばかりの残りの服を部屋に置くと、まずは初心者向けの森へ行くのだと言う。
まだ戦闘をしたことのない僕に、3人の戦いを見て邪魔にならない程度の動きをするための予行練習らしい。
帝都の南側の森にたどり着いてすぐ、ゴブリンの群れと遭遇する。
「結構多いわね。イテイオくんは私の後ろに、少しだけ背後に気を付けていてね。後、何かの音や気配に気づいたら教えてね」
「は、はい!」
そうして始まった戦闘は、特に何の問題もなくイサックさんがバッタバッタと大剣で切り伏せ、たまにそれを逃れて突撃したゴブリンをブルゴーニさんが大盾で叩き潰していた。
「まあ、訓練にもならなかったな…ウルフでも出てきたら少しは連携の練習にもなるんだが…」
そう言いながら頬を掻くイサックさん。
さすがC級の冒険者ともなるとこの場所では準備体操にもならなそうだ。
でも僕がそこまでビビっていないことを確認できたということで、もう少し深いところまで行くがと確認され「大丈夫です」と答えておいた。
その後、森の奥でウルフ数匹、さらには単独のオークと出会ったが、特に何の問題もなかった。
オークを瞬殺したものの、解体に多少時間がかかると少し休憩を命じられる。ゴブリンは胸に手を突っ込んで魔石を取っただけだったし、ウルフの時も同じように腹を裂いて魔石を回収していた。
オークは肉なども取れるのだと皮を剥いで肉をいくつかに切り分け、魔法の袋に仕舞いこんでいた。
僕も解体を教えてもらおうとしたが、「1体だけだしすぐに終わるから」と今回は教えてくれなかったが「すぐにその時はくるから」と言われ「今度は絶対ですよ!」と念を押しておいた。
このままじゃ足手まとい以外の何物でもないのだから。
そして夕刻、森のかなり深くまで入った場所でオークの集団と出くわした。
少しビビってしまった僕に、ケイトさんが「大丈夫よ」と後ろから抱きしめてくれた。僕はオークにビビるよりも、ケイトさんにドキドキしすぎて大変だった。
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