15 ランクアップの効果

期待を胸に『軽量化Ⅱ』を発動した僕。


発動した瞬間、多分だけど自分の体が軽くなった感覚がする。

試しに軽く走ると本気で走った時より早く走れてしまう。これが僕の新しいスキル…


「すごいね」

「うん!カタリナにもかけてみる?」

「お願い!」

僕は気持ちが高揚しながらカタリナに提案し、カタリナに手を伸ばし…手を止めた。


「あ、その、さわりますね」

「ぷっ、なんで敬語」

女性の肌に触れることに躊躇してしまった僕を、カタリナは一度吹き出し、お腹を押さえながらも笑いをこらえていた。


「だって…」

「もう。いいから私にもかけてみてよ!」

僕は顔に熱が集まるのを感じながら、カタリナの腕に軽く手のひらでふれると、カタリナの体が軽くなることを願って『軽量化Ⅱ』を発動した。


「うん。だめそうだね」

「ごめん」

「謝らないでもいいってば。でももっと上がればもしかしたら、もしかするよきっと!」

「そうだね!なんだか希望が湧いてきた。ありがとうカタリナ!」

ガッツポーズをしてしまった僕を見て、またカタリナが笑っていた。


それにつられて僕も笑った。

こんな僕でも、こうしてまた仲間とまた楽しく冒険ができるんだ。


「ところで、イテイオの能力値の上がり方って変だよね」

「やっぱりそう思う?」

「うん。なんで均等に上がるの?私もバラバラに上がるし、多分他の人もそうだよ?」

「初期値が一緒だからとかかも。普通ならレベル1の時ですでにバラバラでしょ?」

「確かに」

初めてのレベルアップを経験してからずっと考えていたことだ。


だが多分神様が失敗したのだろうとは言えない。


「僕も10才になるまでだって、それなりに頑張ってきたんだよ。だけど神託の儀で授かった能力値は全部1だった。やっぱりおかしいよね」

「そうだよね。でもそれって、多分それだけ『軽量化』のスキルがチートなんだ、って考えたらなんか納得しちゃわない?」

「やっぱりそう思う?」

僕も考えていたことを言われ思わず顔がにやけてしまう。


とりあえずその考察は後にして、新しくなったスキルを実践で試すことにした。

カタリナもすでにレベルが13となっているので、楽勝であればもっと深い階層、なんなら10階層のボスに挑んでみたい。その為にも今の力量を確認しておきたい。


暫く歩いてゴブリン3体を見つけた。

武具と同じように今の僕は身軽なままだ。


ゴブリンの前に立ちはだかると、濁音交じりの汚い声で鳴き始めたので、鉄剣を構え『剣技』を使って一気に切り込む。

まるで時代劇の世界のように体が軽くあっという間にゴブリンたちの首を刎ねてしまった。


「すっご…」

背後から聞こえてくるカタリナの言葉に同意する。


それどころが自分が一番驚いている。

たかがゴブリンだがされどゴブリン。これなら他の魔物でも狩れると思った。


カタリナと話し合い、10階層まで降りてきた。

ここではゴブリンの他にコボルトと言う犬の顔をした魔物も出てくる。

たまにオークも出てくるが、この迷宮では滅多には遭遇できないとウルズの冒険者ギルドからは聞いていた。この階層では本当に稀な魔物なのだと。


オークを狩りたければ11階層以降か、森の中の遺跡などを探せば良い。

だからこの階層で狩る必要はない。それなりに強いし。


でも僕の運は相当悪いのだろう。

ボス部屋の扉の前にオークがうろうろと獲物を待つように彷徨っていた。


「ねえ、あれ狩れると思う?」

「分かんないよ。前のパーティで飼っているのを見たけど…参考にならないよ。解体は出来るようになっちゃってるけどね」

皮肉交じりに答えると、何やら考えている様子のカタリナ。


「ねえ、11階層以降で戦うなら、オークがそれなりに出るんでしょ?」

「そうなんじゃない?」

「じゃあ、単独で出てるあれ狩るのも良い練習になるんじゃない?」

カタリナの話に少し考え同意する。


「そうだよね!いざとなったら帰還の魔道具を使えばいいし!」

僕は腰の袋に入れておいた魔道具を取り出し見せながらそう話すと、カタリナもうなづき行動を開始する。


「まず私が行ってみるから、隙ができたらお願いね」

「分かった」


そして走り出したカタリナが、ジャンプしてオークの顔に打撃を放った。あれはスキルなんだろうか?

そう言えばカタリナのスキルなんかは教えて貰ってなかったなと思いながら、態勢を崩しながらカタリナを凝視しているオークに向かって走り込む。

横っ腹に鉄剣を叩き込むとオークは「ぐぼっ」と唸って膝をついていた。


その後、低くなった頭をカタリナが殴りつけ、さらに僕が上から鉄剣を叩きつけると、ぐらりと揺れた後そのまま横に倒れるオークを見て、大したことなかったと安堵した。


カタリナはオークの解体については分からないようなので、僕が慣れない手つきではあるが短刀で解体してゆく。

そしてそれなりの大きさとなったオーク肉を布にくるむと『軽量化』をかけて手に持った。


もちろんそれほど重みのある量ではないが、ゴブリンやコボルトの魔石の入った袋と一緒に持つので邪魔にならないように『軽量化』しておいた。今日はこのまま帰ろうと迷宮入り口まで適度に魔物を狩りながら戻った。


「以外と簡単に勝てたから、これならボスも行けたかもね?」

「そうだね。でもまずはオーク肉を売ってもう少しちゃんとした装備がほしいかな?僕の剣とかカタリナのナックルとか…」


2人ともほぼ駆け出し冒険者並みの武器しか所持していない。

もちろんまだ駆け出しというのは間違い無いのでおかしくはないのだが…


思ったより高く売れた報酬に頬を緩ませながら、僕たちは近くの武器屋へと入っていった。

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