16 新たな装備

翌日。気持ちの良い朝を迎えた。

ベットから抜け出すと机の上の剣を握って頬を緩ませる。


昨日カタリナと一緒に入った武器屋で、持っていた剣より少しだけ長く厚くなった剣を購入した。本当は大剣なんかの方が僕の『軽量化』を活かすことができ、攻撃力アップとなるのだが、どうしても買うことができなかった。

どうやら僕のトラウマは『精神耐性』では乗り越えれないレベルのようだと、少しだけ落ち込んでしまった。


だが今はこの剣にして良かったと思っている。

さすがに大剣だと風をビュンビュン切る感じになり、『軽量化』したとしてもそれなりに重みを感じるのだ。だがこの少し長い程度の剣であればそれこそ空気を切り裂くように振り回すことができる。


何事も程々が一番だという事だろう。


僕には『軽量化Ⅱ』で身体が軽くなり素早く動くこともできるようになった。『剣技』もあるので剣を自由自在に操ることもできる。まあそれは僕の子供時代の努力の賜物ではあるが…

僕は我慢ができず装備を整えると部屋を出た。


隣の部屋のドアをノックすると、すぐにドアが開き、笑顔のカタリナが「おはよう!早く食堂行こう!」と言って手を引いてくれる。


カタリナも新調した少し大きめのナックルをすでに装備して、準備万端のようだった。

それよりも同年代だと言うのに弟のように手を引くカタリナに、少し恥ずかしくなって手を離そうと引いてみると、カタリナの動きも止まり手を握っていることに気づいたようでゆっくりと手を離してくれた。


「なんだか、弟というか、何と言うか、ついね…」

「カタリナって弟いたの?」

「いや、いなかったけど」


そんなやり取りでちょっと変な空気にはなったが、今の僕は早く迷宮に行きたい気持ちが勝ってしまい「いこっか」と照れているカタリナに告げ、うなづくカタリナと食堂へ急ぐこととなった。


今日の朝食は魚料理にパンとコンソメスープのようなものだったが、食べている間にさっきまでの空気も緩和され、今日の予定を話し合うことができた。

まずは10階層で様子見ということで、食堂で少しお腹を休めてから出発した。


本当は食べ終わったらすぐにでも行きたかったけど、そこは冷静になったカタリナに止められてしまった。カタリナと一緒で本当に良かったと思う。


30分程度でお腹も休まりいよいよ迷宮へ!と言ったところで僕たちの席に訪問者が現れた。


「カタリナ、今日も荷物持ちと一緒に迷宮か?」

「イテイオは荷物持ちじゃないわ!」


どうやら如何にも冒険者というゴテゴテの鎧に人相の悪い男が3人、僕たちの席の周りに集まっている。

知り合いらしいその男は、カタリナに諭されると僕の方を睨む。


「お前が望むなら一緒のパーティに入れてやるって言ってるんだ。ついでにそいつも荷物持ちに雇ってやるよ。それなら良いだろ?」


その男の言葉に、カタリナは無言で席を立ち僕の手を引きその場を後にしようとしたが、それは男に阻まれてしまう。


「おい!無視すんな!」

「五月蠅いわね!あんた達のパーティには入らない!これでいい?」

その瞬間、その男はカタリナに殴りかかってきていた。


だがカタリナはその拳に新調したナックルで迎え撃つ。


「ぐぅ!」

拳がぶつかり合い男は声を上げしゃがみこむ。


僕はそれを見て同じように声が出そうになった。

あれは痛いよね…見ているだけで体の中がキュっと閉まる感覚になる。


カタリナのあの大き目のナックルにも当然の様に『軽量化』がかけられている。だから何も付けていない様に鋭いパンチが繰り出されて男の拳を迎撃したのだ。


カタリナは笑顔でこちらを向いて「行こっ」と可愛くウインクしていた。

ドキドキした。


「はースッキリした!あれで暫くちょっかいかけてこないと良いけど、あっ、迷惑かけちゃったらごめんね?」

「えっ?良いよ。今度は僕が、その、守る、ことができたらいいなーって…」

ここで恰好の良いセリフが出てきたら良かったのだが、戸惑う僕にはこの程度の言葉しかかけれなかった。


そんな僕に「ふふ」と笑い、俺の腕に柔らかい自分の腕を絡ませるようにしたカタリナ。


「その時はお願いね」

「う、うん」

どうやら精神年齢ではカタリナの方がずっとお姉さんのようだ。そしてその扱いになんだか懐かしさを感じてしまった。


「でもホントこれ、いいよね。昨日寝る前に興奮しちゃって1時間ぐらいはこのナックル付けたまま、エイ!ヤー!ってやってたもん」

シャドーボクシングのように拳をワンツーと繰り返しながら話すカタリナ。


あの重そうなナックルを何も付けていないようにあのスピードで繰り出されたら…今日の冒険の楽しみがまた一つ増えた。


10階層までは軽く流して進んでゆくが、僕の剣もカタリナの拳もかなり良い感じであった。

軽くなった体でコボルトの首を刈り取る。

1度だけ遭遇したオークはカタリナの腹への『正拳突き』で倒してしまう。


解体後の素材が布袋に詰められ背中に背負っているが、早々に魔法の袋ぐらいはほしいと思った。


昨日の買い物で購入した僕の剣、手持ちの剣を下取りと言う名の処分で差し引いても銀貨3枚、30000ロズだった。

対してオーク肉は1体分で銀貨1枚、10000ロズ。魔石なんかも合わせれば銀貨2枚にはなったけど赤字だ。もちろん残りはかろうじて残っていた所持金を使った。


カタリナの購入したナックルも、初心者向けの簡素なものから大きく固いものに買い替えを行った。銀貨2枚程度だったらしい。さらに近くの雑貨店で食料と念のための回復ポーションを購入したので、2人とも所持金がかなりやばい。


それでもこれなら行けると笑顔になりながら、自信をもってボス戦へと挑むことにした。

初回踏破得点の宝箱を目当てに、10階層のボス部屋、その大きなドアをカタリナと2人で開き、中へと入っていった。

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