14 新たな冒険

路地で座り込んだ僕。

女の子は僕の前にしゃがみこむと、吐き出すように話し出した僕の話をだまって聞いていてくれた。


話が終わると、その女の子も自分の事を話し始める。

その女の子、カタリナは僕と同じ10才で、宿屋の娘として生まれ、神託の儀で『武闘家』となり、冒険者として活動をし始めたばかりという。


「じゃあ、良ければ一緒に冒険する?」

「話聞いてた?僕はまだレベル1だよ?戦力になんてならないよ?カタリナさんはもうレベル10なんでしょ?足手まといだよ?」

同じ年齢、前世の記憶を合わせればはるかに年下の女の子に向かって、自分は役立たずだと諭さなくてはいけない自分に泣けてくる。


「いいんだよ。誰でも最初は1なんだ」

そう言って笑顔を見せてくれた。


「最初って言うけど…僕はもう半年近く冒険者として…」

「でも狩らせてもらえなかったんでしょ?」

拗ねたように反論する僕にはすぐに反論が返ってきた。


「そう、だけど」

「最初っからおかしいんだよ。野良パーティじゃあるまいし、パーティ組むならさ、少しでもレベルを合わせるために最初は優先的に低いレベルの人にこそ、最後の一撃を入れさせるんだよ?」

確かにそうだよな。ましてはレベル1なら上がるのも早いしそれで新たなスキルなんてこともある。


そうか。そうだったんだ…


「僕は、最初からカモにされていたってことだね」

「ご、ごめんって。そう言う意味で言ったんじゃない…いやそう言う意味なのか…」

カタリナさんは困った表情を浮かべ、そして僕を抱きしめてくる。


あの女と違って慎ましい柔らかさだが、その優しい抱擁にまた涙があふれてきた。


Side:イサック


「いやー飲んだ飲んだ!」


俺は根城にしている宿の部屋で上機嫌でそう口にする。

迷宮の30階層を突破し、皆から祝われ酒をたらふく煽ってもうぶっ倒れそうだった。


「イサックは少し飲みすぎだぞ?死んでも知らんからな」

「なんだよ!俺はあの程度じゃ死なんぞ!お前こそかなり飲んでたんじゃないか?」

俺の反論にブルゴーニもにやりと笑う。


「まあな。身が軽くなった」

「そうね。やっと重荷から解放されたんだからね。スッキリしたわ」

俺は二人の言葉に昼間の出来事を思い出す。


イテイオの奴が生きてたのを見た時は心臓がとまりそうだった。

一応ギルマスには根回ししてたけど、あの受付、ローラにはイラついた。思わずぶん殴ろうかと思ったぐらいだ。


「それにしてもアイツ、勝手にいなくなったようだな」

「ああ。街を出ていくのを見ていた奴がいた。しつこく付きまとうなら今度は本当に迷宮に連れ込んで魔物のエサにしなくちゃならなかった。逃げ出したっていうんだからこれで一安心だろう」

俺も、ブルゴーニも、ケイトも…お荷物が消えたことに心からスッキリしていた。


明日からまた稼ぎも上がる。

イテイオが残した俺たちの神装備で、目指すは迷宮制覇だ!


俺は明日からの事に気持ちを躍らせながら、そのままテーブルに体を預け眠りについた。



Side:イテイオ


「もっと!腰を入れて!」

「えい!このっ!」


僕は迷宮で必死に短刀を叩きつけている。

ゴブリンを地面にすりつぶす勢いで迷宮の地面に押さえつけているのはカタリナだ。


ゴブリンはすでにカタリナによりボコボコにされ、戦意は喪失している。

僕は短剣で首を何度か突き刺しながらやっとの思いで切り落とすことに成功した。


初めての討伐。

そして体の中で何かがあふれてくる感覚がして…なんだろうこれ!


「多分レベルあがったよね?」

「あっ!そうか!すっかり忘れていた!確認するね!」

僕は少し興奮気味に暫くぶりのステータスボードを出すと、確かにレベルが2になっていた。あまり感覚が変わらないけど能力値も少し増えている。


「ありがとうカタリナ!」

「いいのいいの!でも攻撃が3になってるね。レベルが5ぐらいになったら『剣技』でゴブリンぐらい倒せそうじゃない?」

「そうだと、いいけど…」

嬉しそうに言うカタリナの言葉に、少し嬉しくなるが不安も大きい。


どう考えても能力値が低すぎる。

いくら上がっても元が低ければ上がり値は少ないと聞いていたから。


そして久しぶりに確認したステータスボードに、今になってスキルに『精神耐性』が付いてることに気づいた。


――――――

『精神耐性』精神的苦痛の軽減

――――――


「カタリナ。『精神耐性』が増えてたよ」

「あーまあ、そうだよね。でも多分レベルアップしたからじゃないよね。まだ2だし…」

僕もそう思う。


どう考えても修練スキルだ。好きで修練したわけじゃないけど。


それでもカタリナに協力してもらいながら一日中同じように狩り続け、レベルは4まで上がり攻撃が7となったので、2日目からはゴブリン程度なら新たに買った粗悪な鉄剣でも狩れるようになっっていた。

もちろん鉄剣には『軽量化』がかけられている。


そして3日目、遂に僕はレベル10という2桁のレベルになった。


――――――

イテイオ ジョブ:掌る者 LV.9→10

攻撃:17→19

防御:17→19

敏捷:17→19

魔力:17→19

魔攻:17→19

魔防:17→19

器用:17→19

パッシブスキル 『精神耐性』

アクティブスキル 『剣技』『軽量化Ⅱ』『射撃』

――――――

『軽量化』→『軽量化Ⅱ』触れればどんなものでも軽く、念じれば己の身でさえも軽くする

『精神耐性』精神的苦痛の軽減

――――――


「カタリナ…軽量化が、ランクアップしてる…」

「えっ?」

ランクアップは所持していたスキルがパワーアップするものだ。だがレベル10でランクアップなんて実家の本にも書いて無かった。逆にレベル10だと言うのに他にスキルを覚えてはいない。


僕の『掌る者』というジョブは一点突破で軽量化のみが強化されるジョブなのだろうか?そんな疑問が浮かんだ。


「あっ、ホントだ。ねえ、己の身ってもしかして…」

スキルボードをカタリナにも見えるように念じて出したので、それを覗き込んだカタリナから当然の質問がきた。


「多分、そうだよね。ちょっと使ってみちゃおうかな?」

口元がにやける。


そして身が軽くなるように願いながら『軽量化Ⅱ』を発動する。

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