13 ギルマスの判断

「イサックさん、ブルゴーニさん…ケイトさんも、その話は本当に本当なんですか?」

僕を守るように前に立ってくれたローラさん。


「なんだよ!疑うのか?受付のくせに!」

「冒険者の何たるかも分かってない奴が何難癖をつけてんだ!」

「そうよ!ボス戦をクリアするのがどれだけ大変かも知らないくせに!」


3人が威圧するようにローラさんに文句を言っている。


「僕を、薬で痺れさせて30階層に放置したくせに…」

可能な限り大きな声を絞り出す。


3人が苦虫をすりつぶしたように顔を歪める。


「何を騒いでいる!」


突然大きな声がして集まっていた冒険者の人垣が開き道ができた。

その先には、大きな体でギルドの制服を着ているおじさんが見え、こちらへと歩いて来ていた。


「ああ、ギルマス!ローラの奴が難癖をつけてきたからな!少し説教をしてやってたんだ」

「それはどういうことだイサック!説明しろ!」

そして2人がゴニョゴニョと体に似つかわしくない内緒話をした後、ローラを呼び少し離れたところで話し始めた。


それを見ている僕だったが、3人からの威圧的な視線に負け、目をそらしてしまった。

その後、ローラさんは少し顔を歪ませながら受付へと戻ってしまった。


ギルマスと呼ばれたおじさんも「後は当人通しで話し合え」と言ってギルドの奥へと消えていった。


「生きていてよかったわね!」

あの女が涙ながらに抱きしめようと手を伸ばすので再度その手を払う。


「まだ…混乱してるのね」

そんなことを言ってくるので、もう何を言ってもダメなんだと感じた。


ローラさんに目を向けると、悔しそうに唇をかむようにしてこちらを見ている。

だめだ。きっとこれ以上ここに居るとローラさんにも迷惑がかかる。そして傷付けてしまうと思った。


僕は失意のままギルドを出た。

ふらふらと覚束ない足を引きずりながら街を出る。この門は西側だったかな?どこにつながってるんだっけ?そう思いながらも足をすすめる。


悔しくて、悲しくて。4人で冒険したあの時間も偽物だったのだと気づいてしまった。

そして膝をつき声を出して泣いてしまっていた。


僕の『軽量化』は、一度発動させると僕が居なくてもずっと軽量化された状態となる。だからもう、僕は用済みとなったのだ。


今の僕に残されたものは何も無い。お金もない。レベルも上がっていない。装備もパチンコと短剣のみ…


このまま足を進め、魔物か盗賊に襲われ死んでもいいのかな?

そしたら今度はどこに転生するのだろう?

また地球がいいのかな?


記憶が残ってるから辛いんだ。今度は平和な世界にまっさらな気持ちで生まれ変わりたい…


「おいぼうず!こんなところで何をしてるんだ」

背後からかけられた声に反応して後ろを向くと、小さな荷台を詰んだ馬に乗ったおじさんがこちらを心配そうに見ていた。


僕はそのおじさんが黙ってこちらの話を聞いてくれることを良い事に、泣きながら裏切られたことを話していた。


「冒険者も大変なんだな」


そう言って同情からか「荷台に空きがあるから乗ってきな」と言うおじさんの好意に甘え、重たい足をなんとか上げて荷台に乗り込み隅にうずくまった。


「この先はウルズと言う商業都市だ。下働きなんかからもう一度人生をやり直したら良い。まだ若いだろ」


そんなことを言われながらもその言葉に返す言葉もなかった。


『お前なんて大人しく商人にでもなればいい』


善意の言葉が皮肉に聞こえてしまうほど心はやさぐれてしまっていた。


さすがに街についたらお礼を言って別れる。


おじさんの「元気出せよ」の言葉が心にささる。

そして教えてもらった商業ギルドへと足を進めたが入り口で足を踏み出すことができず暫く立っていた。


「じゃまだ」


商業ギルドに入ろうとした一行が僕を突き飛ばすようにして中に入って行く。

この街だってきっと冒険者ギルドもあるだろう。

そう思ってさらに先へと歩き出した。


予想通り大通りをさらに歩くと、すぐに冒険者ギルドの看板が見え、今度は躊躇せずに中へと入ってゆく。


帝都ほどではないがそれなりに人がいる室内を、きょろきょろと見渡し、依頼の張り出されている板の場所を見つけそこまで歩いてゆく。

疎らな人の隙間から依頼書を見ながらたたずむ。


商業都市だが依頼は多数あるようだ。

攻略済みで魔物の湧きは大人しい小さな迷宮はあるようだし、近くには魔物の住み家になる遺跡もあるようで、それらの討伐や素材確保の依頼もあった。


薬草採取や護衛任務、荷物の運搬手伝いもあったので、ここで細々と日銭を稼いて…そんなことを考えていると目の前がまた滲み手で拭う。

みじめな人生だと感じ、この世界に転生させた神を呪った。


「ごめんね。少しだけよけてくれる?私にも見せてよ」


背後から女性の声が聞こえ、慌てて右にずれる。

そして再び流れ落ちそうな涙をぬぐった。


「あれ?キミ、泣いてるの?」

僕は恥ずかしくなってその場を逃げ出した。


「あっ、ちょっと!」


結局僕は、逃げ込んだ路地でつかまり、その女の子に話を聞かれる。


「話したくないことなら聞かないけど?話してスッキリすることもあると思うんだ」

路地に座り込んだ僕は、その女の子にそう言われて少しづつ今までのことを話した。

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