12 スキルの効果

Side:イサック


31階層の待機部屋。

3人で話を詰めて行く。


イテイオは元々ここで切り捨てるつもりだった。

アイツ一人で21階層の転送陣までは戻れないだろうし、普段から帰還用の道具も持たせてない。あいつはお人好しだから結局分け与えた報酬も全部俺たちの装備に化けた。


元々持っていたであろう金貨もケイトに貢いでくれたようだし、どうやらケイトに気が有ったように見えた。お陰でアイツの装備は未だに初心者冒険者並みだが僕たちはもう歴戦の勇者なみの装備だ。

しかも『軽量化』された神話級と言っても良い装備を手に入れることができた。


念のため南の街まで移動して、1週間様子を見てみたが、元々使っていた装備も『軽量化』がずっとかかりっぱなしで特に変化は無かった。であれば、アイツはもう用済みってことだ。


「なあ、万が一アイツが死んだらスキルが無くなるってことはねーのか?」

ブルゴーニが言った言葉に空気が凍り付く。


だがまあ今更そう言ったところで後の祭りだ。そもそもが軽量化なんで聞いた事のないスキルだ。


「死んでも続くことを祈るしかないな」

「そうね…」


俺たちは少しだけ重たくなった空気を感じながらも帰還用の転送陣にのって無事帰還する。


さて…一芝居打つとするか。


◆◇◆◇◆


Side:イテイオ


僕は3人がボス部屋に消えていくのを悔しさに歯噛みしながら見送った。


試しに『軽量化』を解除するようその背中に震える手を向けるが、3人の足取りは軽いまま去ってゆき、ボス部屋の扉が閉まった。


悔しい…


今の僕はあの3人に装備を買い与え、お金もほとんど持っていない状況だ。

僕一人ではここから21階層の期間転送陣までたどり着けないだろう。


僕が死んだら、彼らの装備の『軽量化』は解けるだろうか?

そんな悲観的な考えが浮かぶが、かろうじて動かせる右手を動かし、太ももをつねった。


「死んで、やるもんか…」

絞り出すようにして出た言葉も震えていた。


僕は這うようになんとか体を動かしながら、近くの壁に寄りかかり息を潜めて痺れが治るのを待った。1時間ほどだろうか?やっと痺れが収まり、立ち上がることができるようになった。

とは言え装備は短刀とパチンコのみ。残数は50発ぐらいかな?とても戦える状態ではない。ボスなんて以ての外だ。僕は周りを警戒しながら21階層の転送陣を目指し、壁沿いに移動を開始した。

せめて途中で他の冒険者と遭遇したら…そう思う時に限って誰とも遭遇していない。いや、もし変な冒険者にあたれば、なんなら身ぐるみ剥がされ、裸で放置されるかもしれない。


そんなことを考えながらひたすら21階層目指して歩く。


命からがら魔物から逃げる。時には身を潜めながら迂回する。なんとか逃げのびることだけを考え、21階の帰還用の転送陣を目指し進み続ける。

何度も魔物に襲われ傷だらけになりながら、その度に死を覚悟した。だが「死んでやるもんか!」と何度も口にして短剣を振り回しながら逃げのびていた。


『剣技』があるので短刀の扱いも様にはなっているが、所詮僕はまだレベル1。

この階層の魔物には切り傷を付ける程度でしか無かった。それでも牽制には効果があるようで、必死で攻撃しながら耐えれば諦めてくれる魔物も多かった。


そして遂に21階層の召喚陣へと帰り着く。

思わずホッとしてその場で気を失いそうになるのをこらえ、召喚陣に乗り迷宮の入り口へと転送された。


周りにいた数名の冒険者や、管理をしている兵士がボロボロになった僕を訝しげに見た後、すぐに興味を失ったように視線を外された。所詮冒険者とはその程度、他人に興味は無いようだ。

僕のようにボロボロになりながらも、迷宮から逃げ帰ってくる冒険者は少なくはないのだから、当然の反応だろう。


入り口近くの壁にもたれ休憩すると、そのまま寝てしまいそうになる。

それでも目を擦りながら必死で堪え、体力の回復を待つ。


30分程度たっただろうか。

大きく息を吐き出し足に力を籠めて行く。


この迷宮から冒険者ギルドまでは200メートルぐらいだろう。

あの長い21階層への道のりを思えば何と言うことも無い。そう思って歩いた。


たどり着いたギルドに入ると、冒険者たちがにぎやかに騒いでいる。

その中心にあの3人がいた。


周りの歓迎を受けて笑顔を見せている。

そんな僕に受付もお姉さんが大きな声が聞こえた。


「イテイオくん!」

受付を飛び出し僕の元へ駆け寄ってくれた受付のローラさん。


何度も「良かった」と言って抱きしめてくれたので、僕は涙を止めることはできなかった。


「イテイオくん!無事だったんだね!」

一拍遅れてあの女もこちらにやって来て僕に抱き着くように手を伸ばす。


僕は思わずそれを手で払った。


「何を…」

そんな声を聞き、思わず胃の中の物が込み上がってくる感覚になってしまい、口元を押さえ口の中がすっぱくなるのを感じながら耐えた。


「イテイオくん、何があったの?3人からは迷宮内で魔物におびえ、混乱しちゃって予備の剣を振り回して居なくなっちゃったって聞いたけど…」

その言葉を聞き、さらに混乱してしまう。


「そ、そうよ!何とか保護しようとしたけど危なくって…その後必死で探したけど見つからなかったの。だから今、状態異常回復のポーションを買って捜索を依頼しようと思ってたところよ!」

焦りながらもそう言う女を見て、我慢できず胃の中の物を吐き出してしまった。


そんな僕の背中をローラさんは優しく声を掛けながら摩ってくれていた。


『なんだ?捜索依頼なんて出してたのか?』

『さっきまで<イテイオが暴れて大変だったよ>って笑ってなかったか?』

『イテイオの様子を見たら、どっちが本当のこと言ってるのか怪しくなってきたな』


そんな声が聞こえてきた。


「イテイオ!混乱するのは分かるよ!恐怖で俺たちに剣を振り回しちゃったんだからな!だが大丈夫だ!俺たちをお前を許し、保護しようと探し回ったんだ。だが見つからなくてな」

「そうだぞ。だから戻るより早いと決死の覚悟でボスを倒して戻ってきたんだ。依頼はこれから出そうと思ってた。なんせ俺たちもボス戦で疲弊してたからな!」

目の前までやってきた2人が頬を引きつらせてそんな嘘を口にする。


すでに3人は装備を解除している。

あの女も魔法の箱すら身につけていない。その用意周到な3人を見て悔しさにまた歯噛みする。あれを装備したまま僕にふれるなら『軽量化』を解除できたのに…


僕の目の前にいるのは『人間ではないモノ』なのかもしれない。

そう感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る