11 30階層突破

遂にオーダーメイドの装備が完成。

ドワーフの親方を尋ねると、すでに完成している装備を館の庭に置いてと言うので庭まで歩く。


「うおー!凄いなこれは!」

「普通じゃ装備できそうになり物ばかりだな」

「ホントにね」


3人が驚くのも無理はないだろう。


長さは今までより少し長い程度だが厚みが3倍程度になった大剣。

同じく厚みが倍以上になって4人が丸ごと隠れることのできるような大盾。

そしてイサックさんとブルゴーニさん用の重そうな手足の強化装備もテーブルの上に置かれている。


そして、僕が一番楽しみにしていた、ケイトさん用のフルアーマーもちゃんと完成していたようだ。

僕はそれらを一つ一つ手を置いて3人の事を思いながら『軽量化』をかけて行く。


イサックさんとブルゴーニさんは早速手足の強化装備を装着し、体を動かしてみた。その笑顔からは問題は無いようだ。


イサックさんは大剣を握り軽々と持ち上げると、ブンブン振っている。その度に大きな風が巻き起こり、ドワーフの親方たちも目を丸くしてそれを見ているようだ。

同じようにブルゴーニさんも大盾を片手で持ち上げ、敵を想定しているであろう動きで左右に大盾を動かしており、地面にそれを立てる度にドカンドカンと音がして庭の地面が抉れていた。


そしてケイトさんがゆっくりとフルアーマーを着こんでゆく。

思わずその姿に見とれてしまう。


「ケイトさん!カッコいいです!」

「ふふ。イテイオくんありがと」

装着が終わったケイトさんがこちらを見てほほ笑んでいた。


まるで『こんな素敵な装備を作ってくれてありがとう!代わりに私をプレゼントするね!』と言っているように感じた。だがここは人様の屋敷だ。決してそんな不純なことをする場ではないと自分を抑え込んでいた。

そして傍に置いてあったこちらも改造した道具箱を背中に装着する。

ケイトさんのフルアーマーの背中には取り外しも簡単なジョイントが付いているので、背負うための鎖などを取っ払って改造した道具箱が簡単に装着できるようになっている。


その出来に僕も親方もうんうんと満足そうに眺めていた。


「じゃあ、さっそく行っちゃう?」

「そうだな」

ケイトさんも待ちきれないと早速迷宮行きを決めた。


すでに道具箱には大量に食料や魔法薬などが入っている。

装備は万全だ。このパーティーなら一生楽して生活できるぐらいの装備となった!


僕たちは休んだ1週間を取り戻すべく迷宮の21階層からサクサクとまた30階層のボス部屋までたどり着いたのだった。


2時間程度であっさり30階まで到達する。


「さて、今度こそアイアンゴーレムをたたき壊してやる!」

「なんだか負ける気がしないな」

「私の出番は無いかもしれないね」

「そんなこと言ったら、僕なんて最初から何も出来ないんですから」

そんなことを言いながら笑顔を見せ合う僕たち。


一旦ボス部屋の近くの開けた場所で、周りに気を付けながら昼食を取ることにした。

この30階層を突破できれば、名実ともにA級冒険者となる。


もう一生安泰だね。

そう喜び合いながら道具箱から昼食を取り出し食べ始めた。


僕がお弁当を食べていると、ケイトさんが「作ってきたの」と言って別の弁当箱を取り出すと、肉炒めのような物が入っていた。ケイトさんの手作り…とても美味しそうだ。


ケイトさんはお肉をフォークに刺して「あーん」と言うので、戸惑いながらも口を開ける。

お肉を口に含むと照れながらも口を動かす。ケイトさんが「ふふ」と笑顔を見せるのでさらに顔が赤くなる。スパイスが聞いてて美味しい!びりっとした辛みで食欲が増すような気がする。

結構ピリ辛なんだな。下が少しだけヒリヒリして、さらには体がしびれるほどに…なんで?手足も動けなくなりそのまま横に倒れてしまう。


「よし!効いてきたな」

イサックさんがそう口にする。


「もうこの装備で十分だ。お前が居なくても効果は継続されるだろ?」

ブルゴーニさんもそう言って僕を冷たい目で見ていた。


「触れられなきゃ解除もできないのよな。イテイオくんはもう用無し。結構楽しかったけど…ここでさよならだね」

ケイトさんが笑顔のままで僕をのぞき込みそう言った。


僕は…もういらないの?


「あっ、そうだ…」

ケイトさんがそう言うと、僕の手足に装着していた赤棘蟷螂あかとげかまきりの装甲の留め金部分を素早く外された。


咄嗟の事に動きが鈍く、痺れもあってケイトさんの手にふれることは出来なかった。せめてこの女の『軽量化』だけでも消したかったのに…


「じゃあね」


僕の装備していた装甲を手早く回収して箱に放り込むと、3人がボス部屋へと入ってゆく。取り残されてしまい体が動かない僕は見ている事しかできなかった。


また僕は、捨てられるのか…


◆◇◆◇◆


Side:イサック


作戦どおりイテイオを置き去りにしてボス部屋に入る。

前回と同じようにアイアンゴーレムが3体召喚されて戦闘が始まった。


多分大丈夫だとは思うが念のためケイトにいつも通りの付与を行わせた。

ブルゴーニと俺に強化が付与される。


ブルゴーニが『挑発』でゴーレムを引き付ける。

そして『一閃』、新しい大剣を叩きつける。


アイアンゴーレムは真っ二つに破壊された。

その威力に俺自身がビビってしまう。それと同時に頬が緩んで仕方ない。これなら俺は英雄にもなれる!


結局の無傷で3体を破壊しケイトの箱に収納し終わると、興奮しながら初回得点の宝箱を開ける。

報酬は宝石類と『身体強化魔法』の魔導書と、魔力強化剤だった。これは大当たりだ!中途半端な装備類なら売るしかなくなるが、魔導書と強化剤はどれだけあっても良いものだ。


宝石類と今回の素材買取についてはは俺とブルゴーニに分配し、ケイトには魔導書を使わせ『身体強化魔法』を取得させた。

さらに魔力強化剤もケイトに使わせる。売れば金貨50枚は固いが、使えば1割程魔力が増える。魔導士としてありがたい魔力強化剤は中々手に入らない貴重な魔法薬だから今後を考え使わせた。


そして31階層に降りた俺たちは待機部屋でしばし休憩をする。

そしてイテイオの件を口裏を合わせるべく、念入りな打ち合わせをもう一度行った。

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