34 魔剣の出来栄え
あの手紙を無視して数日たった夕刻。
迷宮から戻り冒険者ギルドを訪れると、ローラさんからラドダルグさんより『できた』と伝言があったことを伝えられる。
急いでラドダルグさんの元を尋ねると、何時もの庭でうっとりとした表情で鞘から抜いた剣を眺めているラドダルグさんと目があった。
「ラドダルグさん!できたんですね!」
僕の声に反応し、満面の笑みを浮かべるラドダルグさん。
「ああ!最高のできた。今も腕がぷるぷるするがな!」
そう言うラドダルグさんの腕は、確かに血管が浮き出るほどに強く握られ、ぷるぷると震えながらなんとか持っているようだった。
ラドダルグさんがガシンと持っていた剣を鞘に戻すと、もう1つの剣が置いてあるテーブルに優しく並べていた。
「では…」
僕は『軽量化』を発動しつつその二振りの剣を持ち、鞘を帯刀ベルトに装着する。
左の腰には赤い宝石が埋め込まれた鞘の剣が、右の腰には黄色いラインが入った鞘の剣が装着される。
そして赤い鞘の剣を抜く。
「魔剣『業火』だ。攻撃力増強、魔力を流せば業火を纏わせ、さらに自己再生する優れものだ。お前以外だとそうやって軽々と持てはしないだろうがな。本来は空想上の剣だ。どうあってもその付与だとその重さになる」
僕はその説明に頬が緩みっぱなしである。
試しに軽く魔力を流すと、赤みがかった炎がユラユラと刃の上に出現した。予想以上のカッコ良さである。
2人も目を輝かせてその炎を見ている。
一旦『業火』を鞘に戻すと、反対の剣を抜く。
「魔剣『雷鳴』だ。剣速の向上、魔力を流せば雷撃を飛ばす。もちろん自己修復付きだ。俺はこっちの方が好きだ」
またも男心をくすぐるワードをちりばめた説明。
魔力を少量流すと、刃にバチバチと電気が走ったようになって少しビビる。だがカッコ良い。
僕は『雷鳴』を鞘に戻すと頭を下げる。
「ありがとう、ございます」
これ以外の言葉が浮かばない。これが一番シンプルに気持ちを伝えられるだろう。
頭をあげるとラドダルグさんが良い笑顔をしていたので、気持ちはしっかりと伝わったのだろう。
「じゃあ、さっそく迷宮に行こうか!」
居ても立っても居られず迷宮へ行こうと2人に伝える。
「イテイオ、もう今日は遅いからやめない?そりゃ私も見たいけどさ」
「行かないのです?」
カタリナの言い分はもっともだ。確かに空は薄暗くなっていくる。
僕は一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。再度「ねえ、行かないのです?」と僕の袖を引っ張りながら聞いてくるクローリーについては、さらりと無視をすることに決めた。
もう一度ラドダルグさんにお礼を伝え、宿へと戻ることにした。
その帰り道、クローリーが少し悲しそうな顔をしていたので軽く頭を撫で、「ごめんね。明日にしよう」と謝っておいた。
そして宿の食堂で夕食を取って部屋へ戻った僕は、さっきからため息をつきながら何度も魔剣を眺めている。
「ねえ、それって呪いの魔剣とかじゃないよね?」
カタリナが心配そうにこちらを見ている。
「いや、違うよ?違うよね?…でもなんだか今すぐにこれで暴れたい気になるけど…あれ?違うよね?ねえ、クローリーはどう思う?」
「じゃあ『浄化』するです!」
そう言ってクローリーが魔剣に手をかざし『浄化』の光が降り注いだが、当然のごとく何も起きなかった。
結局、僕はそのまま魔剣を抱いて眠りについた。
翌朝、さっきまで黒いドラゴンと激しいバトルをした気もするが、多分気のせいだ。と眠い目を擦りながら布団から出ると、迷宮へ行く準備を始めた。
よし、一気に50階層を目指すぞ!
気合十分で1日が始まる。
食堂で朝食を食べた後、かなり早い時間だが迷宮へと向かう。
41階層の召喚陣から早足で歩き、最初の餌食となる魔物を探すようにキョロキョロ辺りを見回していた。
「いたでーす!」
クローリーの運命レーダーが反応したようで、第一魔物を発見した。
僕は軽い足取りでその
まずはと左手で右のホルダーから『雷鳴』を抜き魔力を流す。
バリバリという音と共に斜めに振り下ろすと、2m程先にいた
「あっちでーす!」
間髪入れず次のターゲットを見つけたようで、クローリーの指示が飛ぶ。
今度は3体の
そして3体の
どうしよう。もっと強い敵はいないか!と脳内の何かが僕を支配する!
早く敵を!屠らなくては!
「ちょっとイテイオ!」
僕の顔に柔らかい何かがぷにゅんと押し付けられる。
どうしよう。息ができないけどこのまま死んでも良いと思ってしまう。
そう思っていたら、僕の顔を両手で挟み込むようにされ、柔らかな何かが遠のいてゆく。そしてカタリナの心配そうな顔が見えた。
「もう!暴走しないの!」
「ご、ごめん」
少しはしゃぎ過ぎたようだ。
「アホでーす」
そう言うクローリーに尻を杖でつんつんされている。変な癖に目覚めるるかもしれないのでやめてほしい。
「いやー思った以上にすごくてさ。我を忘れちゃったよ」
「まあ凄かったけども」
そんな会話をしながらも、寄ってきた
「なんかまだ余裕あるよね」
「そうだね。どんどん行こうか」
素材をちゃんと回収しつつ、先へと急ぐ。『運命』により次の階層への階段まで最短距離でたどり着く。
さすがにもう暴走することはなかったが、若干使い勝手の違うそれぞれの魔剣に慣れるのはまだまだだと思った。だが圧倒的パワーで危なげなく進んでいくことができていた。
そして45階層ぐらいまでたどり着き、階段付近で遅めの昼食を取る。
「なかなか癖があって難しいよ」
「でもまだ初日だからね。見た感じ結構様になってるよ?」
「カッコイイでーす!」
2人に褒められ照れながらも昼食の焼肉弁当を頬張る。
「よし、今日のところは行けるとこまでいったら帰ろうか」
「そうだね。少し手強くなってきてるし…かなり素材も溜まってきたから一旦吐き出さないと…」
「そんなに?」
「今日は率先して魔物を倒してたからね」
カタリナがジト目で僕を見ている。
「はは。明日は気を付けるよ」
たしかに今日は遠くで見かけた魔物を積極的に狩っていた。攻略目的ではなくレベル上げの時のようであった。
そして夕刻までに47階層まで進むと、今日は終了ということで帰還用魔道具を使って入り口まで戻り、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
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