33 大丈夫ですよ

目を覚ました男に事情を伺う。


事情を丁寧に伺うと、その男は泣きながら「男に金を渡され、美味しい仕事だと言われのこのこやってきた」と言う。

そして「まさか双剣様だとは思わなかったが、すでにお金を貰ってるので必死だった」とも言っていた。

最後に「その男の持っていた『無限の光矢』については知らない」と…


その説明に、カタリナがこめかみを引くつかせながら近くの地面を拳で抉り、「ギルマスは?」と言うと、「その依頼を持ってきたのがギルマスですぅ!」と涙ながらに告白してくれた。

さらに依頼主だという仮面の男を紹介され、一緒に付いて先制の弓を放ち、その攻撃が通じないと分かると逃げて行ったのを見ていると言う。


カタリナと僕で、その証言をあとでギルドでもちゃんとするように、とお願いすると快く了承してくれたので全員を解放する。さらにクローリーが『回復』をバラ撒いていたので「聖女様ー」と拝まれていた。


「さて、ギルマスやりに行く?」

「カタリナ?やりすぎはダメだよ?」

僕は一応念を押しておくが、カタリナは小首を傾げとぼけている。やや心配だ。


そしてクローリーはいつものように「やるです!やっちゃうでーす!」とテンション高めだ。ローラさんにも協力してもらおうと思う。2人を止めるのは一人では無理そうだ。


ギルドに戻ると、すでに戻ってきた何人かの冒険者がカウンター前に正座待機していた。その様子にローラさんや他の職員もが困惑していたようだ。


ローラさんに事情を話してアドバイスを聞く。

今回は正式な依頼書があるので、不正な依頼であれば言い逃れはできないのでは?ということで冒険者ギルドの管理する大元、つまりは国を対して報告書と言う形で送ってみようという事になった。


その報告書には、正座待機している冒険者たちも協力してくれ、依頼をギルマスから回されたことを書いてくれた。後は国宛の指定便で商業ギルドに持ち込めば良いので、ローラさんがこのまま出しに行くというので、念のため僕たちも護衛として同行した。

これで何らかの処分があれば、カタリナも納得してくれるだろう。


何事もなく商業ギルドで受け付けられた手紙。

どうなるかまだ分からないが、これでギルマスに何かしらの処分があることを願いつつ、ギルマスに依頼についての報告をせずに3日ほどのんびりと過ごしていた。


今日も昼間は借りている宿の部屋でダラダラと過ごし、昼過ぎに3人で買い物がてら買い食いしたりして戻ると、宿の食堂でローラさんが待っていた。

食堂で一緒に夕食を食べながら話を聞くと、ギルマスは本部に栄転、と言う名の一般職に降格、雑用業務に回されるということを聞いた。


実は何度か国から派遣された文官により、ギルマスとあの冒険者たちの聞き取りがあったようで、相当酷い言い訳を繰り返し、速やかに対処が行われることになったのだとか。

冒険者たちは今での不満も溜まっていたようで、過去の彼是をボロボロ話し、ローラさんも過去のあの3人のことなどを暴露し、裏取りのためにあの3人も招集されていたとも…


後任のギルマスについては近日中に派遣されると言う。

今度はちゃんとした普通の人であれば良いなと思うしかなかった。


その夜、カタリナがギルマスに「鉄拳制裁できず残念だ」と言っていたが、すんなり処分となったのだから良いじゃないかと思う。

それにしても裏で手引きしたのは男爵家だろうし、まだ何か起きそうな気がするが今はどうしようもないだろう。


そんな事を思いつつ、翌朝、やっぱり面倒ごとが転がり込んでくるのだった。


朝一で冒険者ギルドに訪問し、まだ出していなかった素材を解体所に吐き出しておく。


戻るとすぐに受付にいたローラさんに呼ばれ、ダグラセイド公爵家からの手紙が来ていると手紙を手渡された。予想外の出来事に思わずため息をつく。


「なぜイテイオさんに公爵家からの手紙が?あっそう言えば初めてここに来た時…」

「まあ、色々あるんですが何なんでしょうね…」

昔の事を思い出されたようなので、そそくさと受付前から移動する。


手紙が2人にも見えないように壁際に立って、手紙の中身を確認する。

そこには父であるヘルボメス公爵の名が記載されていた。


要約すると『許してやるのですぐに帰ってこい。見込みがあれば当主となるチャンスをやろう。見込みがなければ弟の補佐でもやれ。一生不自由のない生活をできるようにする』といった物だ。


「イテイオ、大丈夫?」

経緯を知っているカタリナは心配そうであった。


クローリーは僕の腰に手を回し「大丈夫ですよ」と優しい声をかけてくれる。予想外の行動にちょっと戸惑う。そして対抗するようにカタリナが抱き着き、柔らかいものを押し付けられるので手紙の事を忘れ恥ずかしさに悶えていた。


ちらりと受付の方に目をやると、ローラさんもこちらの様子を伺っていたようで、安心したような笑顔を向けてくれたため、さらに恥ずかしさで死ぬかと思った。


「とりあえず何かアホみたいなことが書いてあるけど、今は放置しとくよ」

「それがいいよ」

「いいでーす!」


気を取り直し2人に声を掛け離れると、依頼を確認するため掲示板へと歩いて行った。


◆◇◆◇◆


「ちゃんと渡したんだろうな」

私はまたあの男を呼びつけ、確認する。


折角手紙を認めたのに、未だにイテイオからなんら返答がない。


「渡した時はどのような様子であった?しっかりと頭を下げたのだろう?」

「は、はい。ですが、あまり良い顔はしておられませんでした…」


男の言葉に深く息をはく。


何が不満だと言うのだ。侯爵家の嫡男ともなれば、いずれ国の重鎮ともなれる。冒険者として小銭を稼ぐより何十倍も良い生活が出来るというのに…


もしかすると、手に入れたぬるま湯につかり、このまま長い余生を過ごすつもりか…まったく嘆かわしい。一度失敗した程度で、人生を諦めてしまったのか。

これは喝を入れないといけないかもな。


そう思ってまた筆を執る。


対立しているとはいえ、公爵家として帝国にも伝手がある。

それを使ってまずはイテイオを王国へ引き戻そう。


目の前で汗を流している男を追い出し、じっくりと考えながらイテイオを引き戻すための道筋を考える。

これは他の者には任せられないだろう。明日城へ赴く前に出すとしよう。


そう言いながら、帝国の王族の血筋でもある旧知の友に宛てる手紙を書き綴った。

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