32 ギルマスの依頼

50階層を目指して迷宮に入り浸る僕たち。

そんなある日の朝、ローラさんが僕たちにギルドマスターが呼んでいると声がかかった。


僕は過去のギルマスを思い浮かべ腹の中がモヤっとしてしまう。

ローラさんもそれを分かっている様子で「断られたって言っとく?」と言ってくれたので、それがまた嬉しくも思った。


「大丈夫ですよ。何があっても2人がいますから…」

そうは言ってみたが、その言葉に2人がニマニマしてるで恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かる。


ここはさっさと移動しよう。そう思ってギルマスの部屋に案内してほしいとローラさんにお願いした。


案内された部屋で、あのギルマスが奥のこちらに向いているソファーに足を広げ座っていた。その姿に少しイラっとした。さすがギルドマスター様だ。僕の『精神耐性』を軽く超えてくるようだ。


「呼びだててすまんな。ひとつ依頼がある」


僕はその声に「どうも」とだけ答え、対面のソファーに腰掛けた。2人もその両隣に座っている。過去に事情を説明済みのカタリナも、ギルマスを見る目は冷たかった。

クローリーはテーブル上の焼き菓子に手を出していた。


「今回は、東の砂漠の奥、遺跡近くのギンヌンガの森に異常発生した森オーガを討伐してもらいたくて呼んだ」

「ギンヌンガの森?」


少し前にアダマントガーデディアンを採ってきたあの遺跡の先に、確かに森が見えていたことを思い出す。


「ギンヌンガの森の中ほど、開けた場所があってな、そこで集落を作っているようだ。こんなことを頼めるのは、今や泣く子も黙るS級冒険者様しかいないからな。まあ、無理なら他をあたるが…」

ギルマスの言葉に棘が見え隠れしてまたイラっとしてしまう。


「報酬しだいですね」

カタリナが怒りを籠めつつそう伝えた。


「はっ!S級になった途端、つけ上がっているようだな。いいだろう。森オーガの村を全滅させること、それが成功の条件だ。白金貨1枚、あとは森オーガを1体につき金貨10枚で買い取ってやる。20体ぐらいだというから良い稼ぎになるだろ?」

「ふん!ギルドマスターだからって偉そうに!すぐに終わらせてくるから、報酬用意して待ってるのね!」

「待ってるでーす!」


そして喧嘩腰のカタリナと、便乗して盛り上がっているクローリーにひっぱられるようにその部屋を後にした。

一緒に居たローラが笑うのを堪えていたので、僕はつられるように笑ってしまった。その結果ローラさんが吹き出してしまったので、後で誰かに告げ口されて怒られないか心配になる。


早速多少の食料を買い足し、森へと移動する。

もちろん長居するつもりは無いが、万が一に何かあっても良いように備えるのは大事だろう。僕は意外とトラブルに巻き込まれやすいのでは?と薄々気付いてしまっている。


「ここ、かな?」

2時間程度で指定されている場所と思われる森の中の開けた場所に到着する。


周りをきょろきょろと見渡しながら確認する。

その場所は、依頼書の地図どおり開けてはいたが、集落どころかオーガの影すらなかった状態だ。


「えーいです!」

突然クローリーが声をあげ、周りに『結界』を作り上げた。


背後の方からガンガンと何かが当たる音がした。


良く見ると光の矢のようなものが…その見覚えのある攻撃にオークションでのことを思い出す。落札したのは王国の男爵様だ。マリストル男爵家、つまりはロウデスの母、セリーヌの実家であった。


でもそこで考えてしまう。

なぜ今更あの人の実家が出てくる?それも高価な武器を使って。


そんなことを考えているうちに、背後の方からゾロゾロと冒険者と思われる男たちが出てきた。そしてその反対側からも…

見た感じ30名ほどの男たち。


どの冒険者も人相が悪い。

理由を考えるのは後にして、さっそく襲い来る矢と、攻撃魔法を迎撃しようと身構える。相手は殺しにきてるのだろう。そんな冒険者、つまりは人を返り討ちに、殺す覚悟も必要だ。


だが、その僕の思いは無駄に終わった。


先ほどから繰り出されている攻撃は、クローリーの結界により全て防がれている。大きな体の冒険者が剣をガシガシぶつけてきてもびくともしないようだ。


「これ、どうするです?」

頭の後ろに手を添え、呑気にそう言うクローリーに、どう返せば良いのか迷ってしまう。


「もう少ししたら疲れて帰るんじゃない?」

その場に座り出したカタリナが、呑気にお弁当を出していた。


「そう、かな?」

その横に座り、お肉を要求するクローリー。


僕も便乗して「ここは豪勢にお肉だな」と追加で肉弁をお願いする。


3人でかなり早い昼食タイムをしていると、周りの冒険者は真っ赤な顔で激しいリズムを刻んでいた。


なんだこれ。

そう思いながらも美味しいお肉に自然と頬が緩んでくる。


「クローリー、これどのぐらい持つの?」

「持つとはどういうことです?」

「いや、結界ってどのぐらい張ってられるのかなって」

「ああ、この程度なら自然回復分で賄えるでーす」

つまりは永久にということなのだろう。腕輪のお陰かな?


「でもお腹がいっぱいになったら眠くなったです」

それは困った。まさか寝てても発動できるとは思えない。


「じゃあ仕方ないよねー。よいしょっと」

食事を終え、少し眠そうに眼をこするクローリーの言葉に、カタリナが答えるように立ち上がり準備運動を始めた。


周りにいた冒険者たちはもう諦めムードなのか、たまに結界に何かをぶつける程度になっていた。


「もう解除していいよ」

「寝るです」

その瞬間、結界は消え、クローリーは取り出していた大きなクッションを枕にして寝始めてしまった。


すでにカタリナは飛び出していて呆気に取られていた冒険者たちを蹴散らしていた。

僕はどうしようか迷った末、倒されてゆく冒険者を見る仕事に没頭した。


こっちに来れたら柄で気絶させる感じでいいかな?

そう思っていたがついにその時はこなかった。


さて、一番騒いでいた体の大きな男に、事情を聴こうと毛布に『重量化Ⅲ』をかけてのせ、顔をパシパシやって目を覚ましてあげた。

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