19 風のように早く

魔法のバッグを手に入れた僕たちは、迷宮攻略に戻った。


遺跡でも無双できていた僕たちは、迷宮の11階層以降も苦戦することはまったくなかった。

オークはもちろん、新たに出現した毒持ちの大蝙蝠や、炎を吐く火蜥蜴を難なく倒して行く。大蝙蝠は小さな魔石と毒袋、火蜥蜴は魔石の他には少量の蜥蜴肉と喉にある発火装置にあたる喉の部分を素材として回収した。

20階層に近づくと、たまに出るという風鼠という50cm程度の鼠の『かまいたち』による奇襲も、警戒はしていたので何とか躱し倒すことができた。

風鼠も魔石以外に風魔法の発動器官が喉の部分にあるので、それを切り取り回収しておく。やはり知識というものは大切だと改めて思った。


カタリナも関心していたが、僕に任せれば大丈夫と思っているようで、「これからもよろしくね」と素材回収係に任命された。

多少納得いかない部分はあるが、笑顔で「さすがイテイオ。頼りになるね」と言われてしまえば悪い気はしない。思わず「任せてよ!」と力強く返してしまった。


無駄なく素材が魔法のバッグに収まっているので、戻ることなく20階層までたどり着く。

そして遂に僕のレベルが20に上がった時、『軽量化Ⅱ』が『軽量化Ⅲ』へとランクアップした。予想はしていたがその説明文を確認し、これまた予想通りで頬がゆるんだ。


――――――

『軽量化Ⅱ』→『軽量化Ⅲ』触れればどんなものでも軽く、念じれば己や相手の身でさえも軽くする

――――――


「カタリナ、予想通り他の人にも軽量化ができそうだよ」

「やったねイテイオ!」

カタリナが飛び上がって喜んでくれた。


「私で試す?」

「うん、やってみていい?」

「もちろん」

緊張しながらカタリナの腕に手をあてる。柔らかい肌に少し照れてしまう。


「ねえ、早く…私だってちょっと恥ずかしいんだけど…」

「ご、ごめん。行くよ!」

恥ずかしさに顔を熱らせつつも軽量化をカタリナに付与するように願って発動する。


「あっ…」

カタリナは小さく声を漏らした後に走り出す。


あっという間に30mほど先の壁の端までたどり着き、振り向いて僕に笑顔で手を振っていた。


「凄いよカタリナ!風のように早くて見えなかったよ!」

「もう!そこまで早くはなかったでしょ!」

少し顔を赤らめながらこちらへと高速で戻ってくるカタリナ。


こうして、身軽になった僕たちは、あっさりと20階層のボス部屋と思われる扉の前までたどり着く。


「カタリナも準備はいいよね?」

「もちろん!」

僕たちはこのまま進むことを決めその扉を開けた。


目の前で光る召喚陣からは筋肉モリモリの角持ちの青い奴が召喚される。

手には金棒のような太い刺々しい得物を持ちこちらを見降ろしている。


「あれってオーガ?」

「うん。それなりに強いって話だけど、単独だから大丈夫だと思う。パワーはオークよりかなり上。表皮は火蜥蜴並みで、動きは風鼠だってさ」

「ちょっとだけ強そうだけど、まあ大丈夫そうだね。当たらなければ問題ないし…」

「うん。僕たちなら躱してドカンで行けそうだよ。あと『肉体強化』で数秒だけ力と速度が上がることがあるから、それだけ気を付けて」

「なーる。了解。イテイオも気を付けてね」

僕の返事を待たずにカタリナは一気にオーガとの距離を詰め、それに反応して振り下ろされたオーガの得物を躱し、開いた横っ腹に『爆裂拳』を叩き込んだ。


レベル20となったカタリナが新たに覚えた『爆裂拳』は火傷の追加ダメージが付くスキルだ。

さらに多少の遠距離にも炎が広がるため、当たらなくても微量のダメージが入るというので、かなり使い勝手が良いようだ。


カタリナの一撃をくらって顔を歪ませるオーガは、カタリナに狙いを定めて反撃しようと態勢を整えている。

僕だって負けてはいられない。カタリナに意識を集中しているオーガの背後に回り込み、その背中に向かって渾身の力で鉄剣を叩きつける。


大きな悲鳴を上げて膝をつくオーガ。


当然低くなったその顔に、カタリナの『正拳突き』がきまり、そのままオーガは後ろへ倒れ込んだ。相変わらず頭を打ち抜く痛そうな音に体がキュっと強張ってしまう。

カタリナを怒らせてはいけないなと改めて思う。


「「イエーイ」」

ハイタッチで喜ぶ僕とカタリナ。オーガ相手でも思った以上に余裕があった。


「この分だと30階層だってすぐに突破できそうだね!」

「そうだね。ちなみにこの迷宮は30階層で終了だよ?」

「えっ?そうだったの?じゃー私たちも迷宮踏破者って言っても良いよね?」

「いや、まだ30階層突破してないけど?」

ぴょんぴょん飛びながら喜んでいるカタリナに突っ込んだあと、僕の目線はやはり出現した宝箱に移る。


「あっ宝箱!」

「そうだね。もう、開けちゃう?」

カタリナがうなづきながら宝箱の前にしゃがみこみ、指でツンツンしている。


そして2人で宝箱に手をかけ『良いの出ろ』と念じながらゆっくりと開けると、仲には大剣と大盾が入っていた。

魔法の箱のようにそれらをニュっと取り出すと、宝箱が消えてゆく。


「大剣、イテイオなら使えそうだけどどうする?」

「うーん。正直あまり使いたくない、かな?」


結局二つとも売り払うことに決め、オーガを解体して大きな魔石と喉の魔法器官、2本の角を頭ごと回収する。ちょっとグロいがそれなりに慣れたもの。さらに持っていた鉄の棒も魔法のバッグに入れる。


「これぐらいかな」

「よし!行こう!」


汗を拭って解体を終わらせた僕と、まだ元気が余ってそうなカタリナは、21階層から入り口まで戻るとそのままギルドへと向かった。


「高く売れたらいいよね」

「まあ、あまり期待してないけどね」

そんなことを話しながら解体所に向かい、素材と一緒に宝箱の中身を提出する。


査定を待ちつつまた依頼を確認するが、今回は目を引く依頼は見つからなかった。

今回はカタリナも一緒に見ていたようだが、カタリナもまた良いものは見つからなかった様だ。


そして受付のレイティアさんに呼ばれカウンターまで歩き出す。


――――――

イテイオ ジョブ:掌る者 LV.20

攻撃:39

防御:39

敏捷:39

魔力:39

魔攻:39

魔防:39

器用:39

パッシブスキル 『精神耐性』

アクティブスキル 『剣技』『軽量化Ⅲ』『射撃』

――――――

『軽量化Ⅲ』触れればどんなものでも軽く、念じれば己や相手の身でさえも軽くする

――――――


――――――

カタリナ ジョブ:武闘家 LV.26

攻撃:112

防御:62

敏捷:89

魔力:12

魔攻:8

魔防:24

器用:30

アクティブスキル 『正拳突き』『爆裂拳』

――――――

『正拳突き』一撃必殺の力で撃ち抜く拳

『爆裂拳』炎を纏った強烈な一撃を放つ

――――――

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