08 スキルの使い方

次の日、僕は朝食時に宿の食堂で3人と合流した。


「今日はどうするんですか?」

「そうだな。今日は遺跡の方に入ってみようかと思う」

「遺跡、ですか?」

遺跡ってなんだ?と思っていたら、それはブルゴーニさんが教えてくれた。


「昨日行った森の少し東側、そこに古い遺跡があるんだがどうやらそこに赤棘蟷螂あかとげかまきりの巣が複数確認できたようで、素材確保の依頼があったから確保しといたんだ」

赤棘蟷螂あかとげかまきり…」

残念ながら聞いた事のない名前だった。


赤棘蟷螂あかとげかまきりは真っ赤な甲羅にとげとげが付いている蟷螂の魔物で、巣を作って産卵して増えるんだけど、それなりに凶暴で周りに被害がでちゃうのよ。でも固い甲羅さえ何とかなれば、それほど苦労はしないわ」

「そしてその甲羅は駆除を見越して高価買取中、っていう状況だ」

ケイトさんとイサックさんの説明になんとなく状況が理解できた。つまりは素材を大量にゲットと言うことだな。


「じゃあ、狩った後、僕が全部持って帰ればいいんですね!」

「そう言う事だ。頼むぞ、イテイオ!」

「はい!任せてください!あっ…それはそうと、後でちょっと試したいことがあるんです」

「どうした?」

「いえ、ここではちょっと…」

イサックさんの言葉に僕は少し言い淀む。


「分かった。じゃあ道中で少し時間を作ろう」

「はい!お願いします!」


こうして今日の予定を決めた僕たちは遺跡を目指して移動を開始した。

そんな僕の足取りは驚くほど軽かった。


そして遺跡近くの開けた場所で休憩がてら作戦会議を始める。

とは言っても僕がさっき言えなかった話をするだけだ。


どうしても食堂のような場所では言いずらいことであった。本当にチートな能力だと分かってしまったから…


昨日、宿屋の部屋で一人寝ようと思ったが、何の気なしに短刀を握って構えたりしていた。自分の中の蔓延っていた闇の意思に従ったまでである。という中二病が再発したようで、短剣を握り一人シュッシュと振り回していた。


もちろん『剣技』により身体が動き、華麗な短剣さばきとなっていたのに多分かなりのドヤ顔をしていたことだろう。正直記憶が戻ってから初めて『剣技』が発動したのだから、貴重な初体験であった。


そして、この短剣に『軽量化』をしたらどうなるのだろう?と思ってしまった。

オーク肉に軽量化は効いたのだから当然効くだろう。だとしたら…その好奇心のまま短刀を軽量化する。


もうつまようじでも握っているかのような軽さで、返って操りづらくなってしまった。それなら、と身につけている靴や服、ついでに軽鎧にも『軽量化』を掛けてみた。

すると予想通りに何も身に付けていないかのような感覚になり、夢が広がったような気がした。


だがまた懸念はある。僕は短剣をそのまま手放した。すると短剣はカツっと良い音を立てて床に刺さる。どうやら『軽量化』により軽くなった質量は僕にだけ、あるいは付与しようとした人にだけ効果があるようだ。

その付与された人にだけ、というのは昨日ブルゴーニさんが肉を軽く運ぶ際にも、同じように『軽量化』の効果があったことからも予想できた。


それに解体場で降ろすときにはドシンと凄い音がしていたし…

その事からも質量は変わっていないのだと推測はできていた。そしてそれが今、ちゃんと立証ができたんだ。


僕は床に刺さった短剣を抜き、『軽量化』を解除するよう念じると元の重さに戻ってくれた。そして同時に考えてみた。イサックさんの大剣や、ブルゴーニさんの大盾にこれを使ったならどうなるだろうと…


そんなワクワクした気持ちを抱えながらも何とか寝た僕は、かなり早朝から目が覚めてしまい今日を迎えたのだった。


3人にその話を軽くして、イサックさんに大剣を構えてもらう。そしてイサックさんにも軽量化が効くように念じながら大剣にさわり『軽量化』を発動する。


「おわっ!」

イサックさんの声と共に剣先が大きく上がる。急に軽くなったからだろう。


「これは…凄いな。まるで普通の剣を持っているような感覚だ」

そう言いながらイサックさんは片手で大剣をブンブン振り回す。


さらに地面を叩くと凄い音と共に地面に亀裂が走る。


「俺も、俺の盾にもやってくれ!」

ブルゴーニさんが興奮するように大盾を背中から外しドシンと地面に立てた。


同じ様に大盾にさわり『軽量化』を発動する。


「おお!すげーぞ!」

ブルゴーニさんが子供のように大盾を振り回しながらはしゃいでいる。もちろん想定どおり、大盾をドンと地面に立てると、凄い音と共に地面が抉れしっかりと固定されるようだ。


「あの、ケイトさん、その…少し腰にその、さわっても、いいですか…」

羨ましそうに2人を見るケイトさんに、顔を真っ赤にしながら話しかける。


「あっ!変な意味じゃないんです。その、今は、ケイトさんにできるのはその腰周りのそれ、ぐらいかなって…」

ケイトさんは自分の腰に装着している頑丈そうなベルトのようなものを見る。


「ふふ。ありがと。これも結構重いのよね。万が一にも魔法の袋が取れちゃったりしたら困るから、じゃあ、優しくさわってね」

舌を出しながらそんなことを言ってくるケイトさんにドギマギしながら腰のベルトにさわり『軽量化』する。


「あっ!ほんとにいいわねこれ。なら道具箱だって使えるかも!」

「道具箱ですか?」

「うん。魔法の袋って容量が大きくなるほど見た目も大きく重くなるでしょ?だから備え付けのボックスを背負えるようにして、軽量化したらいっぺんに色々な道具も運べるし、なんなら素材丸ごと持って帰ってこれちゃう!」

「いいですね!今日戻ったら試してみましょう!」


ケイトさんのアイデアに盛り上がっていると、イサックさんとブルゴーニさんが興奮したように「早く行こう!」「これで狩りつくしてやる!」と僕らを急かしているので、2人で苦笑いしつつ遺跡へと歩き出した。

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