09 道具箱

遺跡にたどり着き狩りを始める。

だがそれは一方的な展開になって僕はあっけに取られながらそれを見ていた。


赤棘蟷螂あかとげかまきりは僕の想像の倍ぐらい、僕の背丈ほどの魔物だったが想像通りの見た目ではあった。それをイサックさんが特攻し、近寄ってきたものはブルゴーニさんが盾を振り回して倒してしまった。

ケイトさんは「今日は出番がないわね」と少し嘆いていたが、討伐後の2人が砕いて回った赤棘蟷螂あかとげかまきりを広げたネットの上に4人で集めると、僕がまとめて背負って帰路についた。


またもビルド内は騒然としていたが、その稼ぎは金貨3枚ほどとなり、僕が受け取ったの銀貨6枚、6万ロズだった。さすがに貰いすぎでは?


「いやーまたこんな美味しい依頼がきたらいいだけどな。そうそうある依頼でもないからな」

「それに粗方狩りつくしたから、暫くはそんなに湧くこともないだろう」


確かにそう嘆くほどに美味しい依頼ではあった。


「はー。確かにイテイオのスキルはヤバイ。でもそうだな、もっと大きく、固い大剣があれば…もしかしたら迷宮の20階層を突破出来るかもな」

「そうだな。俺ももっと強く分厚い盾があったら、どんな敵からも守ることができるのに…」

僕は2人の言葉を聞いて思い出す。


「そうだ、道具箱!道具箱を見に行きませんか?ついでに2人の武器とかも新調したりなんかしちゃったり…」


その言葉に反応した2人。

僕は昼間ケイトさんと話した内容を説明する。


そして昨日訪ねた武器屋へまたやってきた。

昨日と同じ用意イサックさんが大声で店主を呼んでいた。


店主に聞くと、今ある置き型の物は1m四方程度の物しかないという。

金貨10枚だと言うのでケイトさんが僕に「諦めるしかないわね」と言っていたが、僕はそこで袋から金貨10枚を取り出しテーブルに置いた。


実家から追い出される際に渡された10枚の金貨。僕はその他に5枚分の予算が残っている。どうしてもケイトさんに何かしたかったのだ。決して下心からではない!はずだ…

僕がそれを背負える様になんとかできないかと聞くと、サービスだと言って金具と頑丈な鉄のベルトを付けてくれたが、「こんなの付けてどうするんだ?」と作業中にも何度も確認された。


そして改良が終わった重そうな道具箱。


「で、どこに配達したらいい?」

当然の様にそう言ってくる店主。


それは当然だ。これをここに運んでくる際も店員が2人でよたよたと運んできたぐらいの重さだったから。

僕はさりげなくその箱に手を置き『軽量化』を発動する。そしてケイトさんに視線を送る。


「じゃあ、私が持ってみるわね」

ケイトさんの言葉に店主は思わず吹き出していた。


そして軽々と持ち上がる道具箱。

ケイトさんの背中に綺麗に背負われた。


あまりの事に店主は腰を抜かして尻餅をついていた。


「ケイト、お前、そんな力持ちだったんだな…さすが冒険者…」

そんな言葉を聞きながら少し笑ってしまいそうになったが、次の瞬間僕はケイトさんに抱きしめられ…顔が柔らかい膨らみに包まれ恥ずかしくなってしまう。


なんとかその谷間から抜け出すと、目の前には笑顔のケイトさんの顔が、きっと『なんてかわいい子!この子ならすべてを捧げてもいいわ!さあ、抱いて』という瞳で見つめてくる。

勇気を出して抱きしめようとした時、ケイトさんは僕から体を話すと、店主に箱のデザインを少し変えてほしいと言い始めた。まあ今はまだ…と言うことか。


その後、イサックさんとブルゴーニさんにも金貨2枚ずつなら出せますので、とこの店で一番大きな大剣と、一番分厚い大盾を購入して同じように『軽量化』をかけておいた。

元の装備は持ち帰り、もしもの予備として保管するのだとか…

こうしてほぼ所持金が消えてしまった僕だが、無いのならまた稼げばよいと、冒険者らしい発想で夕食を堪能し、部屋に戻って体を休めた。


そして布団に入ると、ケイトさんの喜んでいた顔を思い浮かべ顔が熱くなるのを感じる。

道具箱を喜んでくれた。


それもそうだろう。

この世界は大きさが大きいほど沢山入る。お姉さんが愛用していた手に乗る小さな袋では、せいぜいポーション20個程度しか入らない。

だがあの1m四方程度の箱であれば、ポーションだろうが予備の武器だろうが狩った獲物だろうが、だいたい20畳のワンルームぐらいは入るらしい。それがリュックのように軽々と担ぐことができている。


付与魔術師という職業柄、好きな時にポーションや強化薬など出し、杖も本当は属性によって切り替えたいがかさばるしと思っていたから捗るとも言っていた。

これでさらに狩りが楽に行える。


だからこそ、僕の何かしてみたくて、3人に内緒で銀貨1枚でパチンコのような道具を買っておいたんだ。

玉は200個サービスしても貰ったから、気に入ったら今度は毒や視界阻害などの効果のある球でも買ってみよう。それでみんなの役に立つんだ!

そう思うと、やっぱり寝られなくなってしまい布団から這い出ると、こっくりと寝落ちするまで近くの的を狙い撃つ練習を始めてしまった。


そんな日も有りつつ、翌日からはさらに強い狩場、遂に迷宮へと移動して冒険を続けた。


快進撃を続ける僕たちは、超えられなかったという20階層のボスを楽々と撃破してしまった。僕もさっそくパチンコで後ろから援護射撃。役に立っているかは分からないけど気にしている必要はない位にみんな喜んでいた。

20階のボスを倒しせば、やっと一流と呼ばれるB級冒険者なんだと教えてくれた。


そしてもう一つ、イサックさんが少し興奮気味に「初回ボス部屋制覇の特典宝箱だ!」と目の前に出現した箱を指差していた。

僕はまたも初めての経験に胸が躍るように興奮してしまった。

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