23 新たな出会い
王都へ向かっている馬車は何事もなく順調に進んでいる。
護衛任務だというのに途中寝てしまった僕は、反省して頬を叩き眠気を飛ばした。それを見てカタリナが笑っていた。
もうすぐ王都という森に比較的近い道に差し掛かった時、目の前の馬車が横転しており、馬が暴れている。そして周りには盗賊らしい男たちが馬車を攻撃しているのが見えた。
「おじさんはこの場で、念のため少し距離を取ってください」
「あ、ああ。だが2人で大丈夫かい?」
「大丈夫です。でも何かあったら、躊躇なく逃げてくださいね」
「分かった」
そんな感じで馬車から飛び降り、2人で早足でその場へと向かう。
馬車は結界に守られてはいるようだが、多分結界ってそんなに長くは魔石がもたないだろうと考える。
「どうする?」
「盗賊は10人ぐらい?でも動きはそんなに良くないよね。たぶん大丈夫じゃない?」
「よし!行こう!」
カタリナにもお墨付きをもらい、僕らは全力で近づき一気にその盗賊たちの者までたどり着く。
まずは不意打ちで手前の盗賊3人に手早く剣の腹を横から叩きつけた。
やっぱり殺してしまうのは躊躇してしまうよね。
そう思いながらカタリナの方を見ていると、すでに足元には2、4、6、8人ほど盗賊と、なぜかメイド服の女性も倒れている。
その倒れている盗賊の1人に足を置いてガッツポーズしているカタリナを見て、思わず笑ってしまう。
そんな中、馬車の結界が消え、中から一人の少女が…小さいな。まだ神託前ぐらいだろうか?そう思っていると僕たちに頭をペコリと下げた。
「クロウスと言うです。よろしくです」
クロウスという少女が独特の挨拶をしてから、キョロキョロと周りを見渡している。誰かを探しているのだろうか?
「あっ!いたです!」
倒れている盗賊の一人の顔を近くで確認し、その男の胸元をはだける。
すると中にはクロウスと同じような白と水色のラインが入った服が見えていた。そしてその男の顔面を何度も踏みつける。
「死ね!死ね!死にやがれです!」
「ちょ、ちょっと!クロウスさん何してんの!」
カタリナ慌てて後ろから羽交い絞めしてその行為を止める。
「こいつ、うちの派閥と対立してる神官でーす!裏切りものです!」
なるほど…別派閥の神官がクロウスさんを殺そうと…一旦落ち着いたようでカタリナの緩んだ手から抜け出し、再びキョロキョロするクロウス。
「あっ!あそこにいやがったでーす!」
また誰か見つけたのだろうか…頭痛が痛い。
「こいつ!よくも!裏切ったです!」
そこにはメイド服を着た女性が倒れていたのだが、クロウスはその女性の顔をガシンと蹴り飛ばした。
そしてその女性が「ぎゃ!」と悲鳴をあげた。
今度はその女性が暴れ出したのでとりあえず押さえつけているが、正直カタリナに代わってほしい。ちょっといい匂いするし柔らかいし…そんな僕をカタリナが冷たい視線で見ている。
カタリナの方はクロウスさんを再度羽交い絞めにして止めているから、こちらも対処するのは無理なのだろう。
回りを確認すると距離を取っていたおじさんも、すでに近くまで馬車を進ませこちらの様子をうかがっている。
「ク、クロウスさん!もう危害を加えるのは無しで!その、この女性を拘束するなり、なんなり、なんとかして下さーい!」
「よし!殺すです!」
「いや待っててば!」
カタリナに羽交い絞めされているクロウスが、地団駄を踏みながら答えた怒りに満ちた言葉を聞き、やっぱり相当な厄介事だと思った。
仕方なしに僕は『重量化』でそのメイド女性のメイド服を重くした。
「くっ!なんで!」
急に重くなった体に混乱しながらも逃れようとモゾモゾとしているが、重くなったそれを跳ね除ける筋力は無かったようだ。
念のため魔法のバッグから着替えを出して女性に載せ、『重量化』を使うとやっと大人しくなってくれた。まあ多少苦しそうに呻いているが…
効果が切れないよう定期的に『重量化』をかけておこう。
その後、おじさんが持っていた荷物を縛る用の荒縄を借り、倒れている全員を縛り上げてひとまとめにし、クロノスの話を聞くことができた。
クロウスは一つ年下で、帝国の北にあるエーリューズ聖教国の田舎町の平民だったと言う。だが最近神託の儀で『聖女』となり、聖都ユグドランの教会に囲い込まれたのだとか…
そこで貴族出身の派閥のさっきの神官と、平民出身の別の神官との派閥間のあれやこれがあるのを聞き、自分はその平民出身の実力主義の派閥に組み込まれたのだという。
そして聖女としての修行もそこそこに、早速決まった他国への巡礼を教会トップの教皇様に命じられ、このメイドの女性と護衛が2名で出発したという。
最初の目的地の王都には無事到着し、聖女として仕事と言う名の『意味のないご挨拶』をして訪問したという事実を作った後、王都へと馬車を進めてすぐのこの場所で、盗賊に囲まれたという。
次の瞬間、このメイドがクロウスを馬車から蹴落とし、護衛に助けを求めたらその護衛まで襲い掛かってきたという惨事…
慌ててそのメイドを引っ張り落として中に篭り、備え付けられた魔道具で『結界』を張って凌いでいたと…
「でも無事でよかった」
「とりあえず一緒に王都まで言って、あとはそのまま正教国までクロウスが戻れば解決だね」
そう言って2人で安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます