21 ウルズの迷宮

迷宮探索の日々は続く。

双剣スタイルにして2週間。順調に狩り進め、すでに30階層を主戦場にしているため、稼ぎも上々。


本当は双剣を魔法剣にしたいが、金貨40枚はさすがにと今は諦めている。

その代わり魔法の箱、金貨50枚は手に入れようと毎日迷宮にこもって稼いでいる。


そして遂に30階層のボスに挑んだ。


結果は快勝であった。

30階層付近にでる火吐き蜥蜴ファイアリザードの上位種である小型火竜リトルファイアドラゴンが1体のみだったため、ブレスが出る前に2人で一気に倒してしまう。

攻略済みの迷宮なので予備知識は確認済みだったため、出現と同時にやってしまった。


あきれ顔で「簡単過ぎて若干引くよね」とカタリナが言うのも最もな迷宮攻略となった。


だがいつもの様に目の前に初回特典の宝箱が出現すると、思わず喉が鳴ってしまう。かなり中身に当たり外れがあるようで、緊張感が半端ない。


「あ、開けるよ?」

カタリナの合図でいつもの様に二人で宝箱にふれる。


宝箱に中身は魔導書だった。


それを見ながら2人共固まってしまう。

魔導書と言えばよっぽどの屑スキルじゃないかぎり白金貨1枚はするレアなやつだ。それがまさかこんな田舎の小さな迷宮で出るなんて…


恐る恐るその背表紙を見る…

『連撃』と書いてあった。


「どうしよう、ね…」

「いや、カタリナこれほしいでしょ」

「いやいやいやいや!」

首をブンブン振り拒否をするカタリナ。


「連撃って武闘家の憧れのスキルでしょ!レベルが上がれば1度の攻撃が2撃3撃って勝手に増えるって…」

「だって!私いずれ自力で覚えるかもしれないでしょ!そしたら無駄になっちゃう…それにイテイオが使うって手もあるし…」

カタリナがかなり遠慮している。


それもそうだろう白金貨は金貨100枚分。つまり1千万ロゼだ。売れば欲しかった魔法剣も魔法の箱も両方買える。

さらに言うと『連撃』はそれなりに当たりなスキルだ。

もしかしたら白金貨3枚程度なら買い手がいるかもしれない。


だけど…


「僕は、もう死んでもいいって思った時にカタリナに救われた。だからカタリナには幸せになってほしいんだ」

「イテイオ…」

カタリナが真っすぐに僕を見るのでドキドキしてしまう。


これはきっと『イテイオ素敵!私を幸せにするのは魔導書じゃない!あなたよ!こんな私で良いならお嫁さんにしてほしいな!』と思っているに違いない。そう感じて思わずゴクリと喉が鳴った。


「分かった…でも、私はイテイオに幸せにしてもらいたいんだよ?」

「えっ?」

「じゃあ、今回は使わせてもらうね。代わりに私が、イテイオをいっぱい幸せにして見せるから!」

「ええっ?」


こうして、本当にドキドキが止まらない僕を置いてけぼりにし、魔導書を開き無事『連撃』を覚えたカタリナ。


冗談でもドキドキしちゃうからやめてほしいな。カタリナの『私がイテイオをいっぱい幸せにして見せる』と言う言葉が何度も脳内で繰り返されていた。


結局その日は帰還用召喚陣で入り口に戻ると、ギルドに戻らず再度入った迷宮の30階層付近で、カタリナの気が済むまで『連撃』を使いまくるのを眺めていた。

そしてお腹が空いてきた夕刻頃、再度入ったボス部屋で小型火竜リトルファイアドラゴンを『連撃』の一撃で倒し満足したカタリナ。


やっとギルドへ戻ることができた。


◆◇◆◇◆


「おい、気のせいかもしれんが、最近体が重い気がしねーか?」

俺は根城にしている宿屋の部屋で、ブルゴーニとケイトにそう話をする。


「そ、そんなことある訳ないじゃない…」

「最近B級の依頼とは言え、受けすぎで疲れが溜まってるんだろ?気のせいだきっと…」

否定する2人だがその顔はあまり良いものでは無かった。


「そ、そうだな。疲れがたまっているだけだよな…」

そう強がっていたのだが、明らかに動きが悪くなりそれによりA級の依頼を失敗することが多くなってしまった。


B級の依頼を大量に受ける羽目になったのはその為だ。

日に日に体が重くなってきたように感じる。


いや、体ではない。

今も自慢の大剣を持つ手が震えている…

ケイトの魔法の箱はとっくの昔に背負えなくなってケイトの部屋に置きっぱなしだ。


軽量化が、解けかかっている?

何度も頭に浮かんだそのことを頭を横に振り打ち消してゆく。だがそうも言っていられないだおう。


早く何とかしなくては…


「おい、イテイオの行方を探すぞ…」

僕の言葉に二人もコクリと頷いた。


二人とも口にはしていなかったが薄々そう思っていたのだろう。


思えば当たり前かもしれない。

物質の重さを変えるスキルが、永遠に続くはずなどないのだ。アイツを追い出した時には有頂天となっていてそれを考えないようにしていた。Aランク目前でイテイオが只々邪魔に思えたのだ。


この大剣を作る時、1週間以上イテイオと離れていたが変わらなかった。そのことに永遠に効果があると思い込んでしまった。

そうだ。勘違いさせたあいつが悪いんだ!


これが俺は逆恨みだという事も分かっている。だがあのスキル以外は全く役に立たないアイツが悪いのだ。そう責任を擦り付けるしか、今の自分を保つのが難しくなっていたのだ。



それから1週間、イテイオに関する情報を情報屋などに調査させるも、特に目ぼしい情報は集まらなかった。


そして遂には、装備は重く持っていられないほどになり、ケイトの部屋の魔法の箱に全てを収納した。


代わりにと前に使っていた装備を持ってみるがそれでも重く感じてしまうほどで、結局新たに安物の大剣と大盾を買うことになった。

ただでさえ金銭的にギリギリのところで余分な出費。


その恨みは全てイテイオに向けられることになった。

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