異世界転生した伊藤は二度捨てられても生き残る

安ころもっち

01 神託の儀

「これより、神託の儀を執り行う。ダグラセイド公爵家、御子息、イテイオ・ダグラセイド様、どうぞこちらへ」


王都の中央にある教会の一室。

視線の先には先ほど僕のことを呼んだ神官と、そのすぐそばには父、ヘルボメス・ダグラセイドが笑顔でこちらも見ているのが伺える。


背後には、父の招待で集められた複数の貴族当主たちが、僕がどんな素晴らしい職を与えられるかを、期待に胸を膨らませ見ているのだろう。


これは困った…


僕はイテイオ・ダグラセイド。

ダグラセイド公爵家の長男であることは覚えている。


優しい父であるヘルボメスと母のハレルヤに溺愛され、妾の子ではあるが一つ違いのロウデスという良く懐いた可愛い弟もいるのも分かっている。

いつも優しく見守りつつ甘やかしてくれる執事のヨデスがいることも、専属メイドのエリーナは綺麗でそしてお胸が豊満だという現実も脳内にこびりつくほど理解している。


そして迎えた10才の神託の儀の最中であり、これにより一生を左右する職業と最初のスキルを神様より賜るのだと理解している。


この神託の儀により賜るそのジョブとスキルにより、新たに発現するスキルが決まるため、まさに一世一代の大事な儀式と言っても良いだろう。


そんなことは分かっている、分かっているのだが…

僕は思い出してしまったのだから仕方がないと思う。


前世の…

まだ地球で生きてきた時の記憶を…


◆◇◆◇◆


伊藤直樹。高校2年。ゲーム部に所属している。

…とは言っても放課後他の部員2名と一緒に、只々ゲームをしているだけのゆるい部活動であった。


僕は部長。

同級生で幼馴染の加藤あかねが副部長。

後輩の工藤梨々花は書記長と言う、全員が無駄な肩書だけがある部であった。


その日も3人が自分たちのパワーエンタメポータブルを手に、ファンタジークエストⅢというMMORPGで青春の汗を流していた。


「これを倒せばいよいよランクインが見えてきたね!」

「うんそうだね!ナオキの敵は全部私が粉砕するから、最後はバシンとよろしくね!」

「ナオキ先輩は私がしっかり守るです!安心してやっちゃうです!」

「じゃあ、アッカにリリー、最後は僕がドカンとやっちゃうから、それまで頼んだよ!」


互いのキャラ名を呼びながら、成り切りバトルで画面内のボスキャラを倒し終わる僕たち。


「はー。今日のところはこれで終わろうか?」

「そうだね。でもまた夜にはINするでしょ?」

「ああ。僕も10時ぐらいにはINできると思うよ」

「リリカはその前にINして待ってるです!」


同い年だというのにお姉さんポジで、何かと僕の世話を焼くお隣さんのあかね。

1年後輩で僕とあかねに懐いていて、子供っぽい性格でちょっと喋り方が痛いが裏表のない梨々花。

3人だけの部活動だけど気が許せる相手ともあって、それなりに楽しく仲良くやっている。


僕たちは部室となっている視聴覚室のカギを閉め帰ろうとしたが、廊下で顧問を引き受けている佐々木先生に声を掛けられた。


「加藤さん。こないだの生徒会の議事録の件なんだけど…」

そう話し始めたあかねと先生。


どうやら生徒会での話のようだ。


あかねは以前、生徒会主催の予算委員会に出てもらい、なんとこんな部に予算が5万円も付けてもらうという快挙を成し遂げた。

その予算は視聴覚室に設置するという条件付きで大型テレビに化けたのだが、そんなあかねの弁舌っぷりに次の生徒会の会議に呼ばれ、アドバイザー的ポジを獲得していると話してくれた。


佐々木先生は生徒会の運営にも関わっており、あかねに前回の議事録で見直す点がないかなどを見てほしいという内容が、こちらまで聞こえてくる会話でなんとなく分かった。


「ナオキにリリカ、私、ちょっと議事録見直し頼まれたからから先に帰ってて」

「わかったです!」

梨々花が即座に手を上げ返事をする。


「僕、待ってようか?どうせ暇だし」

「うーん、今日は良いよ。もしかしたら結構かかるかもだし…でも10時には色々準備終わらせて、間に合うようにするね」

「わかった。じゃあ、頑張って」


そんな会話の後、あかねと佐々木先生と別れ、梨々花と一緒に学校を出る。


「じゃあ先輩!また夜にー、バトルでーす!」

「うんうん、分かったよ。バトルでーす!」

僕も少しだけ口調が移ってしまい可笑しな返答をしながらも、梨々花とも笑顔で別れ夕暮れ時の道を歩く。


のんびりと20分程度の道を歩き続け、自宅近くの歩道橋を渡る。

そして階段を降りる時…


背中がドンっと押され身体が前へと放り出され思わず「うわっ!」と声がでる。

そしてそのまま僕は固いコンクリートに叩きつけられ、全身が痛み、何が何だか分からない中、意識は途絶えた。


そして次に目が開けた時、僕は漫画の世界のような白い空間に立っていた。

これは夢か現実か…


そう思いながら目の前にテンプレのように神様だというお兄さんが立っている。

夢じゃなきゃ神様だろうな。


そう思いながら話を聞くと、今だけランダムチャレンジという企画で選ばれた僕が、異世界でチートライフという栄誉を受けることができたとか…まったく可笑しな話だ。夢なら僕も相当中二病が進んでるなと思う。


そしてとりあえず「異世界で適当にやってよ」と言われ、さらには「いっくよー!」という間の抜けた掛け声と共に転生が始まる。

そして頭がぼやっとするのを感じる中で「あっヤベっ、あれ、なんで?まー、頑張って」という神様の焦る声を聞きながら、意識が無くなるのを感じた。


◆◇◆◇◆


そんな前世の話を、今まさに思い出し混乱していた。

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