28 思わぬ収穫

ローラさんから鑑定結果を確認する。


「弓は『無限の光矢』っていう光属性の矢を魔力で放てる魔道武器ね。これ、一応ギルマスに報告するけど多分オークション、かな?」

「やっぱり?そうなります?」

予想はしていたけどオークションという言葉に思わず頬が緩む。


「多分だけどね。あと槍の方は普通の鋼の槍かな。迷宮産で装飾付きだけど御貴族様向けかな。金貨1枚だって。どうする?」

「じゃあ2つとも買取お願いします。カタリナもクローリーもいいよね?」

「うん。それでいいよ。私は使わないし」

カタリナはすぐにOKを出してくれた。


「どうなるか楽しみでーす!」

ワンテンポ遅れてクローリーもOKのようだ。その間の悪い返答に、話を聞いていたのか心配になる。


「分かったわ。オークションの方は結構時間かかりそうだけど、日程が決まったら報告するね。もしオークションにならない場合はそれはそれで報告するから。その時にまた買取かどうか考えてね」

「分かりました」


そんなやり取りをしている中、気付けば近くに寄ってきていた冒険者から『オークション』という言葉が広がっていて、ギルド内がざわついてきたのを感じた。


僕たちがその場を後にすると、ローラさんがその冒険者たちに「他のパーティの鑑定結果を聞こえても、吹聴するのはルール違反です!」と注意していた。

だが、結局はオークションになれば僕たちの名前も出るので同じことだろう。そう思って気にしないことにした。


それにしてもオークションか…今から楽しみだ。



それから一週間、オークションが開催された。

帝都の冒険者ギルドからは少し離れた場所、城のすぐ近くにある神殿のような場所で開催されたオークションは、高そうなゴテゴテの派手な服を着た御貴族様がいっぱいだった。


派手な見た目に若干引くが、思えば僕も1年半程度前はあんな恰好でギルドの受付を訪ねたんだったなと、今更ながら顔が熱くなる。


「では、最後の出品。『光矢の弓』です!僅かな魔力で光属性の矢を装填でき、遠距離から無双できる逸品!鑑定ランクはS!帝都の迷宮産で、冒険者イテイオ様、カタリナ様、クローリー様より持ち込まれたものです!」


自分の名を呼ばれ逃げ出しそうになる。

想像していた何倍も恥ずかしかった。


カタリナも同様に顔を真っ赤にして両手で覆っていた。

クローリーは目をキラキラさせていたので、ある意味凄いなと思った。


「開始は白金貨1枚から!」

その掛け声で始まったが、まさか白金貨から始まるとは思っていなかった。


それでも金貨が10枚単位で追加され、気付けば白金貨5枚で王国の男爵家が落札したようだ。

男爵家か…聞いた事のある家名だ。そもそも男爵家がなぜ必死にあの弓を…気になってしまうが王国に戻るつもりはないので考えないようにした。


手数料が2割引かれ僕たちの元には白金貨4枚、4千万ロゼだ。一気に装備を充実させることができるだろう。2人ともじっくり相談しなくてはならない。

そう思いながらまだ帝都に居るというドワーフの親方のお兄さんに、未だ会っていないことを思い出す。


「あのさ、明日はドワーフの親方のお兄さんに会いに行ってみない?」

「そういえば忘れてたよね」

「まあ、来て早々色々あって忘れちゃってたよね。手紙だって貰ってたのに」

カタリナと顔を見合わせ、明日こそ行かなきゃさすがに失礼だよねと考える。


「親方のお兄さんです?」

クローリーも話を聞いていたようだ。


「ああ、帝都に来る前だけど、ウルズって街にいたのは言ったよね?」

「聞いたです!」

「そこの鍛冶職人のドワーフの親方から、帝都にいるって言うお兄さんへの手紙を預かってるんだ」

「ドワーフの鍛冶職人!会うです!今すぐ行くです!」

クローリーがおかしなテンションになっている。


それでも会いに行くのは決定事項なので、はしゃぐクローリーに苦笑いをしつつ会場を後にした。


翌日の朝、冒険者ギルトに寄るとローラさんが笑顔で待っていた。

居合わせた周りの冒険者がチラチラと僕らを見てるので、すでにオークションの噂が出回っているようだ。


そんな中、ローラさんの提案でオークションの分は冒険者ギルドの口座に全額預けることになった。知らなかったがCランク以上の冒険者は口座を作ることができ、冒険者カードで何処のギルドでも降ろせるようだ。

あらかじめ『Aさんに100万ロゼ』、なんて事を申込用紙に記載しておき、その半券をその相手に渡す。そしてその半券を持ってきた相手にギルドで指定金額を払う。なんてことができるようだ。

もちろんギルドの口座に預けてある金額の範囲でだが。


2人にも相談し、そのまま白金貨4枚を預かってもらうことにした。

2人が口座名義は僕で良いというので、そうすることにした。


「よし!次はドワーフの親方のお兄さんに会いに行こう!」

「おー!」

「でーす!」


僕は手紙と一緒に受け取っていた地図を頼りに、帝都の外れの方まで歩いた。もしかしてイサックさんたちと訪れたあの館では…なんて思っていたが、そもそも方向がずれていることに早々に気づきホッとする。

別にあのドワーフのおじさんが悪いわけでは無いが、またあの屋敷に訪問したら気が滅入りそうな気がしたから…


「あっイテイオ、ここじゃない?」

「そうみたいだね」

「ドワーフ!」

まだ可笑しなテンションのクローリーの扱いに、若干困惑しつつもその屋敷の門をくぐる。


玄関横の縁側のような場所にこれまたドワーフという体格の良いおじさんが、ウトウトしているように腕を組んで頭を揺らしていた。

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