第23話温室での出会い

騎士団がフェルディア地方へと出発してから、すでに1週間が過ぎた。毎日のように情報が届くが、いまだに戦闘は終息していないという。幸いなことに、死者は出ていないと聞いてはいるが、それでも心配でならない。


エドモンド様は無事だろうか。彼の優しい笑顔が頭に浮かぶ。


人もほとんどいなく、じっとしていると嫌なイメージばかり沸いてくるので、温室へと足を向ける。薬草たちの静かな息吹を感じることで、心が落ち着いてくる。



温室に足を踏み入れると、柔らかな光が降り注ぎ、さまざまな薬草が瑞々しい葉を広げていた。この辺りでは手に入りにくい薬草を無事に育てられるか心配だったが、薬草たちは健やかに育ち、見事な姿を見せている。


エドモンド様が雇ってくれた管理人の丁寧な世話のおかげでもあるわね。まじめに取り組んでくれてとても助かるわ。




「あら?人がいるわね。あなた、ここの担当の人?」


急に背後からしたその声には、落ち着いた柔らかさがあり、思わず背筋を伸ばした。



王妃様付きの侍女の服を着ているけど、誰かしら。



「あのー、どちら様でしょう」


「ええと、侍女長かしら?」


侍女長かしら?


確か王妃様付きの侍女は伯爵以上の身分のものばかりだ。その侍女長ともなると、品位と優雅さが自然と漂うのね。



「一応責任者です。侍女長様は、どうしてこちらに?」



「ええ、新しく温室ができたと聞いて、こっそり見に来たの。私、こう見えても薬草に詳しいのよ。とは言っても美容のための効用に興味がある程度なのだけど。ふふ。」


侍女長様は微笑みながら、薬草を手に取り、その葉を優しく撫でたり、香りを楽しんだりしていた。彼女の動作ひとつひとつには、気品が感じられ、つい見とれてしまう。



「これは何?あれは何?」と楽しそうに聞くので、つい薬草の効用や育て方の説明に力が入ってしまう。




「本当に楽しい時間だったわ。でも、この温室はとても日当たりがいいから、そろそろ行くわね。あまり日に焼けると怒られるの」



侍女長様は微笑みながら言い、肩にかかる光を気にしている様子だった。侍女長様ともなると日焼けにも気を付けなきゃいけないのね。



「あら?そういえば、あなたすごく色が白いわね。見たところ薬師かと思ったのだけど…」


「ええ、そうです」


「こんな日当たりのいいところで世話をしているのに、日焼けしていないわね」


「はい、日焼け止めを塗っているので」


「日焼け止め?」


私は微笑みながら、小さな瓶を取り出して見せた。



「はい、これです。一応令嬢なので、父があまり日に焼けるのを嫌がるというか泣きそうになるというか…なので、日焼けを止める薬を外に出るときには塗っております」


「そんなものがあるの?初めて知ったわ」


侍女長様は、驚きの表情を浮かべた。



「そうだと思います。私が作ったので」



この日焼け止めは、薬師になる前に、研究を重ねて完成させたもので、いわば努力の結晶だ。



「へえ、いいわね。ちょっとぬってもいいかしら」


侍女長様は、宝物でも見るかのように小瓶を手に取った。




「よろしかったら、たくさん作ってあるのでそれは差し上げます。私の使いかけでもよければ」


日常的に使っているものだが、それが他人に喜ばれることは、自分の努力が報われたようで嬉しかった。



「いいの?嬉しいわ。…それにしても、あなた、髪も肌もきれいね…。もしかして、まだ何か作ったものがあるのかしら?」



この侍女長様、すごく目ざといわ。



「美容に関する物は作ったら自分で試すようにしています。えーと、肌はローズの化粧水を。髪はヘアオイルと最近は洗髪料も使っています」



侍女長の目が驚愕で見開かれ、その後、興味深そうに輝きを増した。



「…あなた、明日もここに来る?」


「ええ、最近は毎日来ています」



「なら、明日、作ったものを見せてほしいわ。よかったら、いただけると嬉しいのだけれど。もちろん対価は払うわ!ねえ、どうかしら?」


侍女長様は、少女のように可愛らしい笑顔を浮かべ、期待に満ちた目で私を見つめた。



「もちろんです。明日、お持ちいたしますね」




申し出に驚きはしたけど、こんなにも自分の作ったものに興味を持ってくれる人がいるのなら、是非ともその期待に応えたいわ。エドモンド様が前、言っていたことはこういうことなのかしら。ふふ、明日は何を持ってこよう。

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