第9話目的があると

「よし、頼まれたのは傷薬と痛み止め、あと、初級ポーションね」



仮の作業室を用意してもらい、さっそく薬づくりに取り掛かる。


仕事を始めると、自然と集中でき、手の動きも軽やかになる。作業台の上には、薬草や瓶が整然と並べられ、まるで私のための小さな実験室のようだ。


あんなに簡単に採用してもらったことが、今も信じられない。多分、同情もあったのだと思う。だって、エドモンド様にあげた胃の痛みを和らげるポーションの効果だけで採用されたのだから。


だからこそ、役に立つ薬師だと思われたいわ。



気持ちが乗ってくるかしらと思っていたが、やはり目的があると作業の進み具合が違う。2時間があっという間に過ぎて行った。完成した薬瓶を並べながら、達成感でいっぱいになる。



コンコンコン 



「はい、どうぞ」



ドアを開き、エドモンド様が顔を覗かせた。



「フローリア、そろそろ休憩しないか?今日来たばっかりで、疲れた、だろ…え?」



エドモンド様の目がテーブルに並べてある薬に釘付けになっている。少なかったかしら?



「すみません、もう少し時間があればもっと作れるのですが…」



「は?あ、いや。え?ポーションが10本もあるぞ?」



「はい、初級ですから?あれ?中級をお求めでしたか?」



聞き間違ったのかしら?そうだとしたら、薬草を無駄にしてしまった…



「違う違う、爺さんたぶん1本のつもりだったと思うぞ?いや、作りすぎという意味ではなく、たくさんあった方がいいのだが、普通1日に5本作れればいいと聞いた気がする…すげえな宮廷薬師」



確かにノルマは一日5本だったわね



「とにかく休憩しよう。爺さんが、話をしたくてうずうずしているようだったぞ」



完成した薬を、エドモンド様が持ってくれ、2人でアルバン様の待つ医療室へ向かった。


***



「爺さん見ろよ、さすが宮廷薬師だろ」



元気よく言うエドモンド様に、私は少し照れくさくなる。




「おお、もうできたのかって、この数はいったい…」



あ、あれ?エドモンド様は褒めてくださったけど、医師のアドバン様から見たら、この数はやはり期待外れなのかしら…。




「爺さんその言い方だとフローリアが勘違いする。見ろ、俯いてしまったじゃないか。フローリア、思っていたより多いって意味だからな」


「あ、ああ、勿論。すまなかった。しかし、フローリア。疑っているわけではないが、ちょっと鑑定をしてみてもいいだろうか」


医師の中には鑑定資格を持っている方が多いと聞いていた。私はその資格を持っていないので、鑑定してもらえることに少し緊張しながらも、了承する。



「ええ、もちろんです。是非」


アルバン様がポーションを手に取り、色を見たり検査紙に垂らしたりする。その姿を見守りながら、心の中で願う。どうか、アルバン様の求めるレベルの効果がありますように。




「おお、これは全て問題ない。すまんが、このポーションを1本飲ませてくれ」


私が頷いたのを見ると1本を手に取り一気に飲み干す。


「ふむ。おお、わしの腰とひざの痛みが楽になった。はは、こりゃすごい。フローリア、これは初級ポーションではないな。中級レベルだ」


中級?驚きと共に、わずかに不安も感じる。



「いいえ、そんなはずは…。手順も薬草の種類も初級ポーションのものですから」


「いや、優秀な薬師は薬草の効能を最大限に出せる。つまり中級用の薬草を使わなくても、同じレベルにまで高めることができる。まあ、逆も然り。初級ポーションのAランクと初級ポーションのEランクと言った方が早いかのぉ」




首をかしげて聞いていたエドモンド様が、不思議そうに言う。


「よくわからんが、材料をただ混ぜただけだとパンができないような感じか」


確かに、ただ薬草を混ぜ合わせるだけでは良いポーションは作れない。それぞれの成分が持つ特性を引き出し、調和させる技術が必要なのだ。例えに、少し笑いが込み上げる。



「中らずとも遠からずってとこだな。エドモンドにしては」


「一言余計なんだよ爺さんは」


「それにしても、このレベルの薬師はなかなかいないだろうに、宮廷薬師たちも馬鹿だな」



アルバン様が軽く肩をすくめながら言うと、アルバン様は深く頷いた。お世辞とはわかっているが、彼らの優しさが胸に響いた。

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