第16話私たちは同期ですもの sideソフィア
sideソフィア
「つまり、大事な配合や手順の確認、薬草の選別は全てフローリアがやっていたということか」
室長の確認に、ウィリアムと顔を見合わせ頷く。
「ええ、でも、効用のある植物を調べ、提案したのはソフィアです。だから一番の功労者で代表なのです」
そうよね、フローリアだって、代表者は私でいいって言っていたわ。
「では、フローリアがいなくなってから、共同研究の製品の質がどんどん落ちているのは、どう説明する」
「私たちは、フローリアの書き残した分量や手順通りにやっています!でも、前より質が落ちる物しか作れないのですわ…きっとフローリアが間違えて書き残したのよ。あんなに先輩方に仕事を頼まれていたのなら、疲れていただろうし…」
やらなきゃいけない仕事も抱えながら、先輩たちの仕事もしなきゃなかっただなんて。私たちの共同開発に支障が出るほど疲れさせるなんて、許せないわ。
室長は頭を抱え、深いため息をつく。
「…この研究ノートを見た限り、そうではないだろう。薬草と言っても、季節や生息地が違えば、細粉の仕方や取り扱う温度も微妙に変えなきゃならない。そこを見極めて絶妙な加減をすることこそが、薬師の腕の見せ所だ」
室長の言葉に、ウィリアムが強く反論する。
「つまり、フローリアの薬師としての腕より、私たちの腕が劣っていると言いたいのですか?美しい肌になる美容液などのアイディアを考え出したのはソフィアです。賞賛されるのはソフィアです」
私のひらめきがなければ、製品にならなかったのに…室長のいい方傷つくわ。確かにフローリアの技術には、叶わないかもしれないけど…適材適所ってあるでしょう?3人ともすごいでいいじゃない。
「あのなぁ、空を飛べる乗り物があったらいいな、と考え出した者が、実際に作り出した者より偉いとでもいうのか?試行錯誤し、苦労の上で成果を出した者が賞賛されるべきだ」
ウィリアムは、また反論しようとしたが、そのまま言葉を飲み込んだようにみえた。
これまで自分が積み重ねてきた努力が無意味のように言われるなんて辛いわ。豊かな発想が私の持ち味なのに。
「私だって、たくさんの論文を読んで調べた知識の提供をしましたわ。私とウィリアムはいつも学院で首位を争っていましたの。知識は私たち、実技はフローリア。ちゃんとお互いの長所を出し合っての共同研究です」
なんでわかってくれないのかしら。
「知識か…知識のことを言うなら、いや、知識も実技も、フローリアの宮廷薬師の試験結果は、お前たちより上だ。フローリアを首にしたのは、コミュニケーションを取るのが苦手で、作業の協力が難しいのではないか。質はいいがノルマの達成が遅く、薬剤も使い過ぎる。主だった成果もこの一年出せず、試験結果の割に見込み違いだったと判断したからだ。結局、判断ミスだったがな」
「そんな、嘘よ!」
学院にも行っていないのに、私たちより上なんて…
「ソフィアが論文で知りえた薬草など、そんなに詳しく話さなくてもフローリアは理解していたのではないか?」
‥‥‥。
「フローリアは、ここを首になった後、すぐに第3騎士団で働きだしたと聞いた。こちらから首にしたのだ。今更、呼び戻すのはさすがに難しい。ああ、新しい部門もあるというのに、どうしたらいいんだ…」
え?フローリアは、まだ王宮にいるの?
なんだ、じゃあ、話が早いわ。
私たちは同期ですもの。職場が違ったとしても、困っていることを伝えたら、いつものように喜んで力を貸してくれるわ。そうに決まっている。
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