第17話深い意味があるかないか
明日の休みに、エドモンド様とカフェに行く…これは、デートと言っていいのではないかしら。
そう思うと、つい顔がにやけてしまう。い、いいえ、勘違いはいけないわ。一人で入りにくいカフェに付き添うだけ…でも楽しみだわ。ふふ。
エドモンド様の優しさや気配りがあまりにも自然で温かいから、つい心が揺れ動いてしまう。こんなに心地よい時間が続くと、どうしても勘違いしてしまいそうになるけれど、それは絶対に避けなければならない。また、居場所を失うわけにはいかないわ。
彼が笑顔で私を見守る姿、さりげなく助けてくれる姿、どれもが私の心を温かく包み込む。でも、その優しさにきっと、大きな意味はない。あの時泣いてしまった私を放っておけないだけ…。弟と同じ扱い…そう言っていたじゃない。
それにしても、明日、着ていく服はどうしよう。9歳も年下ですもの。子供っぽく思われたらいやだわ。ああ、普段からもっと身なりに気を付けておくべきだった…。少しでも大人っぽく見せたいのだけれど。
よし、サラに聞きに行こう。
コンコンコン
「サラ、ちょっといいですか?」
「ん?めずらしいね。どうした?」
「実は、明日エドモンド様とカフェに行くのですが、どちらの服がいいと思いますか」
黄色のワンピースと青のワンピースをサラに見せる。
「ああ、明日だっけ!ほほほ、カフェねぇー。服は、左に持っている青のワンピース一択よ。それがベスト!」
なんだか不思議な笑い方をするサラに首をかしげてしまうが、青か、うん、私もこれを気に入っているからこれにしよう。
「じゃあ、そうします。ありがとうございます。明日はお土産を買ってきますね」
「はーい、楽しんでおいで」
***
次の日、エドモンド様が、寮まで迎えに来てくださった。近くに行くと、エドモンド様の目が私を見つめ、次第に頬が赤くなっていくのがわかる。
「っ!」
「どうされましたか?」
「い、いや。青のワンピースがよく似合っている。あー深い意味はないと思うのだが、その、私の瞳も青だから。深読みして、照れてしまっただけだ、すまん」
サラ!!
「私こそ、あまり考えずに選んでしまって、この青のワンピースが好きなのです。あ、でもエドモンド様の瞳はもっと綺麗な青だと、思い、ます…」
言っているうちに、後半の声は消え入りそうになってしまった。沈黙が気まずくて、どうしようもないわ。
「あー、じゃあ、そろそろ行こうか?」
「あ、はい。そうですね」
エドモンド様は、私が固まっているのを見て、少し考え込むような表情を浮かべた。その後、穏やかな笑みを浮かべて、優しく声をかけてくれた。
「さてフローリア、カフェの予約までには少し時間があるから、どうだ?この前の店に立ち寄ってみないか?新しい道具が入っているかもしれないし、何か面白いものが見つかるかもしれない」
さりげない気配りと配慮、さすがエドモンド様だわ。どうしても気まずさが残っている私に、無理なく別の話題をふり、リラックスできるようにと考えてくれているのが伝わってくる。
エドモンド様のその優しさに、内心ほっとした。
この前の店…そうだわ!小瓶が欲しかったのだった。
「はい!行きたいです!」
エドモンド様の提案に、私は感謝の気持ちを抱きながら素直に頷いた。そうよね、今日を楽しみにしていたのだから、楽しまなくては、もったいないわ。
***
「ふふふ」
欲しかった小瓶も手に入って、最新式の分離機を見ることができた。
「はは、満足か?フローリア」
エドモンド様の言葉に、はっとする。きっとニヤニヤしていたに違いないわ。恥ずかしい…。
「ええ、エドモンド様。それにしても、このお店個室があるんですね」
エドモンド様が来たいと言っていたカフェには、落ち着いた雰囲気の半個室が用意されていた。もっと庶民的なカフェだと思っていたので少し驚きながら、思わず部屋の中を見渡してしまう。
「ああ、男女で二人きりはどうかなと思ったが、壁でなく、仕切りだからいいかなと。嫌だったか?」
「とんでもない!あまりたくさんの人の前で食べるのは苦手なのでちょうどいい…あっ!もしかして気を遣わせましたか?」
彼は得意げな顔をしながらも、優しく微笑んでいた。
「いいや、ここは貴族しか使えない場所だそうだ。ほら、俺も貴族になったからには、特権を使ってみたいと思ったんだ。ちょうどいいだろ?」
貴族扱いされることを苦手としているのを知っている。でも、わざわざその特権を使って私を気遣ってくださったのだわ。申し訳…いいえ、ここは素直に感謝の気持ちを伝えよう。
「エドモンド様、本当にありがとうございます。では、注文をしましょう。私、ここのシフフォンケーキ、とても楽しみにしていたんです。エドモンド様は何味がいいですか?」
私の言葉に、エドモンド様の顔には満足そうな笑みが浮かんだ。
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