第13話どうしたら… sideエドモンド
sideエドモンド
コンコンコン
「失礼します。団長この報告書ですが…なんだ、サラまた来ていたのか、お前は本当、神出鬼没だな」
「人聞きが悪いわね。今日はお使いで来たんだから」
その割には、ソファにふんぞり返って、お茶まで飲んでいる。なぜ、団長室でリラックスできる…まあいいや。
団長に報告書の確認をしてもらい、部屋から出ようとしたところでサラに引き止められる。
「あ、そうだ。エドモンド様に話があるから、ちょっと座って」
だから、なぜこの部屋でお前が一番偉そうなんだ。
「あまり時間はやれないぞ」
渋々サラの向かい側に座る。
「ねえ、エドモンド様、フローリアに最後に会ったのはいつ?」
フローリア?なんだ唐突に。
「1週間前だが…はっ、まさか、体調が悪いのか?」
「そんなわけないじゃない。私の料理のおかげで、以前に比べたらいたって健康的よ」
なんだよ、脅かすなよ。
「そうじゃなくて、今フローリアの髪は、めちゃくちゃ綺麗で、肌にも艶があるのよ。すごくいい匂いもするし」
おお、俺が言った通り自分で試しているのだな、うん、うん。なんて感心なんだ。
「いいことじゃないか?何が言いたいんだ?」
「…エドモンド様が、美容の物を自分でも試したらって提案したんでしょ?それも、私はどうかと思っているけど。遠回しに、美容に気を遣えって言っているもんじゃない、私ならブチギレるわよ」
な、なに!そんなつもりは…。
「しゃ、謝罪をした方がいいのだろうか」
「自分で考えなさいよ、そんなこと。私が言いたいのはね、自分でライバルを増やしてどうするんだってこと!」
ライバル?サラの言葉に困惑を覚えた。
「何のライバルだ?騎士に美容に気を遣っているものなど、ああ、居るかもな?いや、俺は興味ないから品物を取り合わうことなどしないぞ」
理解できないままに反論する。
「え?嘘でしょ。唐変木だとは思っていたけど、まさか、自分の気持ちに気付いていない…うわぁ…団長ぉー」
サラはあきれたように叫ぶ。なんだ色々失礼だが、よくわからん。
「あー、エドモンド…。先週、洋菓子店のボヌールに、早朝から並んでいたと聞いたが、いったい何時間待ったんだ?」
ああ、あの洋菓子店か。何で話が変わったんだ?
「4時間ですが、それが何か?」
その瞬間、部屋にいた二人が顔を見合わせて目を見開いた。人気店だぞ?並ばなかったら買えないだろう。
その反応に少し苛立ちながらも、次の言葉を待つ。
「…朝早くから、騎士のあなたが、あの可愛らしい店構えのボヌールに並び、『女性への贈り物だからラッピングしてくれ』と頼んだ、街の噂よ。フローリアにあげたんでしょ」
「いや、お前が謝罪しないと嫌われるって言うから」
説明するが、サラは納得していない様子で続ける。
「普通の店のお菓子でもいいじゃない」
「何言ってるんだ?どうせなら喜んでもらいたいじゃないか。すごく幸せそうに食っていたぞ」
「そう、それよ!!エドモンド様、もし私に謝罪するようなことがあったとき、同じようにボヌールでお菓子買う?」
サラの問い詰めるような言い方に、一瞬思考を巡らせる。
「は?なんで俺がお前のために」
ん?何かが引っかかる。
「エドモンド、いいか?フローリアは、グリムハルト子爵家のご令嬢だ。あの、グリムハルト子爵家だぞ?姉2人は、社交界の華と呼ばれ、それぞれ婚約者がベタぼれだという噂だ。いまだに虎視眈々と令嬢たちを狙っている者も多いらしい。フローリアは、社交に出てこないため、美しき病弱な令嬢、深窓の令嬢と噂され、誰も顔が分からないのに、大量の縁談が届いているそうだ」
まじか、知らなかった…大量の縁談?自分がフローリアについて何も知らなかったことに衝撃を受けつつ、冷静に考えようとするが、思考が追いつかない。
「あの分厚い眼鏡は、父親からもらったらしい。おそらく顔の認識を阻害するように特殊な加工がしてある」
「きっとそうね。フローリアは、じっと目を見られるのが苦手と言っていたから」
目が悪いんだと思っていた…
「姓をあまり名乗らないし、第3は平民が多いから気付いていない者も多いが…」
「絶対美人よ!よく見たら、顔の輪郭も整っているし、鼻や口の形もいい。あの、眼鏡をとったら、いいえ、取らなくても、美容を気にしだしてスペックが上がっているし、何より性格がいいもの、ライバルはたくさんよ。知ってる?最近フローリアが医療室を手伝っている時間帯、騎士たちが用事もないのに足しげく通っているのよ」
なんだと!私でも最近忙しくて会いに行けていないというのに!
「…叩きのめしてやる」
「馬鹿ね、けがをしたら、これ幸いと医療室へ行くじゃない」
くっ、どうしたら…
「はっきり言うわ。普段、眉間にしわを寄せてにこりともしないあなたが、フローリアの前では優し気に微笑んでいるの。忙しい合間を縫ってフローリアの様子を見に行く。人に謝ることが苦手なあなたが、嫌われたくないからと謝罪の品まで用意する。フローリアの喜ぶ顔が見たいと訓練狂のあなたが、朝の鍛錬をやらずに4時間も店に並ぶ。恋よ!あなたは、フローリアに恋をしているのよ!!」
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