第2話同期のやる気
ソフィアは声を弾ませながら、書類の山の中から一枚の紙を引き抜き、興奮を抑えきれない様子で声を上げた。
「つまり!隣国の論文によると、ラックウッドの森に生息しているカゼカゲソウに、保湿力に優れた成分やのハリを与える成分があることがわかったの。その話を王妃様にしたらね、試したいから早急に開発を進めてっておっしゃってくれて!すごいでしょ」
ラックウッドの森、王妃様、早急に開発…
「隣国の論文まで見ているのかい?すごいな、ソフィアは。王妃様をお待たせするわけにはいかないね。よし、さっそく取り掛かろう!」
「い、いや。ちょっと待って2人とも。ラックウッドの森に生息って言っても、薬草採取の依頼にも時間がかかるし、すぐには無理だよ」
ソフィアは驚いた表情で私を見つめたが、すぐににっこりと笑った。
「やだわ、フローリアったら。商会に頼まなくてもラックウッドの森はここから2時間くらいじゃない」
「そうだな、森に行き慣れているフローリアだったらすぐ見つけられるだろうし」
「え?私が行くの?でも今日は…いえ、今週は少し忙しくて、2人のうちどちらかが行ってくれれば…」
今日は本当にやることがたくさんあるのに。
「はぁ、フローリア?君の努力は買うけど、もっと効率的に仕事をこなす方法を考えたほうがいいぞ。」
「そうね、例えば、書類整理に時間をかけすぎると他の重要な作業に支障が出るでしょ?まずは優先順位を見直して、緊急度の高いものから片付けるべきよ。」
…行く気はないのね。ちなみに、私の中で緊急度の低いものは、この共同開発なのだが。
正直に言えば、この開発はできればやりたくない。さらに言えば、王妃様に献上する美容液の開発には興味が湧かないのだ。ソフィアと違って美容にこだわりはないし。
研究室での地道な研究、医療の薬品開発が好きな私にとって、森に行く時間を使ってまでカゼカゲソウを探すこと、そして美容液を作ることは、無駄に思えるのだ。
「…この美容液開発の役割分担を今決めたいわ。」
「そうね。薬草をフローリアが取りに行っている間、私たちは他の薬草を探して用意しておくわ。」
「王妃様に献上するのだから容器にもこだわらないと、その注文は任せておけ」
2人のやる気と引き受ける仕事の内容のアンバランスさに、ため息が出そう。
「…薬剤の比率の計算は誰がするの?」
「それは、フローリアが実験をしながら試してくれるといいわ。もちろん、できたものを試したり効能の結果をまとめるのは任せて!なんでも手伝うわ」
実験の中心も私ってことね。
「薬草の乾燥や粉砕は、やっておくぞ!足りなくなったらいつでも言ってくれ。俺もサポートは惜しまない」
ウィリアムも力強く言った。
「…でも…」と、口を開きかけたが、二人の期待に満ちた目を見て、言葉を飲み込んだ。私にとってこの開発がいかに煩わしいかが、どれだけ説明しても、彼らには伝わらないだろうから。
「よし!決まりね。さあ、さっそく取り掛かりましょう!」
「ああ、そうだな。」
ソフィアが嬉しそうに言うと、ウィリアムも笑顔で応じた。
…手つかずの書類整理は、明日にしよう。頼まれていたポーションづくり、断れるかな…、足りなくなっていた薬草の採取は、ついでにやってこよう…
そもそも、提案したのは私ではないのに、サポートってどういうことだろう。
ラックウッドの森の奥深くに咲くカゼカゲソウが、私の手によってどんな奇跡をもたらすのか、それにはもちろん薬師として興味はある。
でも…ああ、やっぱり心の深い部分に何かが引っかかる
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