第25話お試し?

「あっ、エドモンド様、お帰りなさい!!」



え?ソフィア?


突然、背後から明るい声が響き、私たちの間に割り込むようにソフィアが現れた。何とも言えない不安が胸をよぎるのを感じた。




「いつ帰ってくるのかと、とても心配しておりました。けがはありませんか?体調はどうですか?」



ソフィアは、エドモンド様に親しげに問いかけ、彼の状態を気遣うような口調で話しかけた。


エドモンド様は少し驚いたように彼女を見つめ、そして思い出すように尋ねた。



「えーと、君は、フローリアの元同僚だったか?」


「はい!ソフィア・マイヤーです。覚えていてくれて嬉しいです」


ソフィアは満面の笑みを浮かべ、エドモンド様に向かって一歩近づいた。さっきまでの穏やかな気持ちが、一気に暗く沈んでいくのを感じた。私の心は急速に冷え込んでいく。エドモンド様に近づかないでほしい…。



「ああ、体は大丈夫だ。わざわざ、第3騎士団の出迎えをしてくれたのか?知り合いでも…」


エドモンド様は少し困惑しながらも、礼儀正しく彼女に応じた。




「え?エドモンド様に会いに来たのです。私、実は、騎士団の練習を見にきたこともあって。あら?フローリアもいたのね」


ソフィアはさりげなく私に目を向けると、驚いて言った。ずっといたわ…。



「そうだ!ちょうどよかった、ねえ、あの話、してみてもいいかしら?」


あの話?交換の話だわ…。エドモンド様は帰ってきたばかりで疲れているのに、どうしてこんな時に…私は心の中でため息をついた。



「やっぱり私、断っ…」


「エドモンド様、聞いてください!実は、宮廷薬師の先輩たち、フローリアの価値にやっと気付いて戻ってきてほしそうなのです。宮廷薬師という職は、フローリアが努力の末に手に入れたものですし、職場では使える薬草も手に入れられる薬剤も豊富なのです。功績を認められれば出世することができます。だから、フローリアを元の職場に戻してあげてください!!」



その言葉を聞いた瞬間、エドモンド様の顔が驚きと困惑で固まるのが見えた。彼はゆっくりと私の方に視線を移し、その瞳は何かを問いかけるように見えた。



「私は、戻らないって言ったわ!」


私は思わず声を張り上げ、ソフィアの提案に対して強く拒否の意思を示した。彼女が何を考えているのか全く理解できず、その言葉にどう応じるべきか戸惑った。



「意地を張らないでフローリア。エドモンド様、もし、フローリアが元の職場に戻ったら私、ここの薬師になってもいいって思っていますの。そうだわ!フローリアにも考える時間が必要だし、私がここでもうまくやっていけると知ってほしいから、私をお試しでここに置いてください!」



ソフィアは私の言葉などなかったかのようにさらりと話を続け、自信満々に自分の提案を押し付けるように言った。


お試し?その言葉に私は眉をひそめるしかなかった。



「うちは、フローリアがいればいいのだが…」


エドモンド様は困惑しつつも、私への信頼を示すように言った。その言葉に一瞬、安堵が広がるが、それもすぐにソフィアの次の言葉で打ち消された。



「室長も首にしたことを後悔しているんです。エドモンド様、フローリアの選択肢を奪わないであげて」


あまりのことに何も言えず、私は言葉を失った。エドモンド様が悪いような話し方をするなんて…。ただ呆然と立ち尽くした。



エドモンド様もまた、どう対処すべきかを迷っている様子で、苦しそうな表情を私に向けてきた。




「…団長に相談してみる。君も上司に確認をしなくてはいけないだろ。その、とりあえず今日のところは…」



エドモンド様は疲れた声で、何とかその場を収めようとしていた。



「嬉しい!是非前向きに検討してください!私もすぐに室長に言ってみます。じゃあフローリア、またね」



ソフィアは満足げに微笑み、そのまま颯爽と去って行った。


私のためを思って言っているような言葉が、なぜか私には理解できない。胸の中で渦巻く不安が大きくなり、どう対処すべきかもわからなくなってしまった。


苦しそうな顔で私を見つめるエドモンド様に何かを伝えたかったが、何を言えばいいのか言葉が出てこない。そうしているうち、他の騎士たちがエドモンド様を呼び、彼は去って行ってしまった。



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