第17話 ジャック
気乗りしないアンナの手を引いて、マネは名ばかりの玄関先の扉を開けた。
「あ、痛い」訪ねて来たジャックに、思い切り扉がぶつかった。
「あ、ごめんよ。ジャック大丈夫か?」
「いたたたた。いたい」黒く日焼けした少年が、ぶつけた顔を押さえている。
「先生。あっ。アンナもう大丈夫か?っつ。今日は、畑で摂れたものを持って来たんだよ」
「おまえの方が、だいじょうぶじゃあなさそうだな。それにおまえんところも、大家族で大変だろ。今日はアンナを散歩に連れだそうと思っていたんだ。ちょうどいいところへきたな。ジャック、おまえに頼めないか?」
「気にしないでくれ。畑でたくさん採れたから、母ちゃんに持っていけって持たされたんだ。えっ?アンナと散歩っておれでいいの?そりゃ。アンナに会いたかったから、嬉しいけど‥」
終始無言のアンナを連れて、ジャックは家の周りを歩き出した。
「おれさ、アンナに読んでもらいたくて手紙持ってきてたんだけど‥」隣を歩いているアンナの顔をチラッと覗く。
階段を降りたところにある、最近設置されたベンチに座るようにうながしながら話をすすめる。
「今までは、俺は字が読めないのはあたりまえだと思ってた。下級エリアでは周りもそんなやつ多いし‥。でも、マネ先生にいろいろ教えてもらえるうちに、楽しくなっちゃって。
うちは、兄弟が六人もいるだろ。だから、そんなことより家の事を手伝って働けって、いつも親父に言われてたんだ。でもマネ先生は、俺の親に何度も会っては説得してくれたんだよ。
『ジャックの夢を、応援したいって‼』
それで、下の小さい二人を除いて妹や弟達も一緒に学校に通えるようになった。マネ先生は小さくても夢を持つのはいいことだって。たとえその夢が叶わなくたってワクワクした気持ちを持つのは大事だって、いつもクラスの生徒達に言ってるんだよ」
「家に、帰ったら手紙読むから」アンナの口から、小さな声が出ていた。
「えっ、あ、うん。字がきたないから読めるかな。無理して読まなくてもいいからな」恥ずかしそうに、ジャックは笑う。
「あの事件から、アンナはいつもテーブルに座って悲しそうだったろ。外に出られてよかったよ。俺いつも母ちゃんから言われていることがあるんだ。悲しいことや、苦しいことがあったら大きい声で泣いたり喚いたりしてもいいって。子供とか、大人とか、女とか男とか、ロボットとか関係ないんだって‼」
「‥‥」
「あと、えーと、これはマネ先生に口止めされてるんだけど‥いっちゃおうかな。マネ先生の夢って、アンナと結婚することなんだって‼ このことは、マネ先生には絶対言わないでよ!内緒だからな」
「マネが。そんなことを‥‥」ジャックの前では、泣かないと決めたのに涙がツツッとつたい落ちる。
「あっ、また余計なこと言ってアンナを泣かした。ごめんよ。アンナ」
「う、ううん、違うのよ。嬉しくて泣いているのよ。あなた達の想いが‥」そして、いったん零れた涙は大粒になり零れていった。
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