第5話 あなた達は、家族

 ソマはいつものように2回目の階段を上り、右側の30世帯はある住居の真ん中あたりの我が家の前で立ち止まる。茶色の扉には、白い文字で各々の名前が大きめに書いてある。

この部屋を割り当てられた当時、アンナが「これじゃあ、どれが誰の家だかわかんないわよ。私に任せて!」と言った2日後には、3色のペンキを調達してきていた。そして、アンナは家族5人の名前と、その名前を囲むように可愛い花を数本画いた。それは、他の住民からも羨ましがられ、同じように書いて欲しいと頼まれそのお礼にと、もらった作物や籠やらで我が家は少し潤った。アンナは、何をしてもセンスがよく部屋の模様替えも、それらの貰った物やリサイクル品等を駆使して皆が羨ましがるような部屋に仕立てあげた。


そんなことを思い出しながら扉の前に立ち、大きく拳で叩きながら「ただいまー、帰ったわよ」

扉を開けると、ケラスと錬が戦いごっこをしている。

錬もこの頃は1人で留守番も出来るようになってはいるがロボット達は、錬を気にかけながら仕事のシフトを入れてくれているようである。

「おかえりー、ママ」錬は、私のことはママと呼び、他のロボットは名前で呼んでいる。この年頃になると、人間とロボットの違いも分かってきたようだ。

「おかえりー、ソマご苦労さん。何か飲む?」肉体派のケラスは、小さい頃から体を使って錬と遊んでくれていた。

「ありがどう。紅茶が飲みたいな」アンナが仕事先でもらった紅茶だ。飲みたいときに飲んでねと、可愛らしい瓶に入れておいてくれた。流石にメイドロボットだけに、他にもすぐ食べれるお惣菜やおかずなども作り置きしておいてくれている。


「いつもありがとう。ケラス。仕事で忙しいのに…」私専用カップに紅茶を出してくれる。彼らと家族になって、私がモットーにしていることがある。それは口に出して感謝を伝えること。

「俺達こそ、ぼろ屑同然にすてられていたのに、家族同然にいさせてくれてうれしいんだ。なのに、あの我がまま娘のアンナときたら‥」

「もうそんな昔のことは、いいのよ。そういえば、アンナは最近ちょくちょくお泊りしているけど、どこに泊まっているのかしら?」

「金持ちに気にいられたらしくて、ウキウキだぜ。まあ、腐ってもロボットだから心配はないだろうが」

「とはいえ、もう2日目よ。心配だわ。アンナは、若い人間の娘そのものの思考だから」

「今回は,前準備と合わせて4日間泊まり込みっていってたぜ。いまだに、上流階級の家にいたことが忘れられないんだよ」ケラスは、少し嘲笑気味にいう。

「明日、ママ休みでしょう?お姉ちゃんが、どこにいるかだけ探してこようよ」錬は、ロボット達が大好きだった。

それに、大学院並みのAI知能のマネに小さな頃から教育されているからか傍から見ると小学生低学年のあどけない2人だが、話している内容はかなり大人びたことだったりする。

「そうね4日も家を空けるなんて今までなかったものね。心配だわ」

「俺は別にどうでもいいよ。どう考えてもおかしいだろう。金持ちなら新品をかうだろうに、あんなボロボロを気にいるだなんて」

「こら、ケラス言い過ぎよ」

彼女の目も、片腕がもげてるのもこの家にいる以上いつまでも直せないのが現状。いつもすまないって心の中で思っているけど…本人はもっと元の体に戻りたいって願っているはずなのに、そんなこと一言も彼女の口から聞いたことがない。もちろん彼女が願う幸せが手に入ったなら、いつでもここを出て行っても構わない‥。ただ彼女の口からそれを確かめなくちゃね。





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