第12話 3日目 派遣-夢
アンナのことが心配でソマは、この日は錬とアンナの仕事先へと向かった。
仕事先の建物は、掘っ立て小屋に近い小さな事務所だった。
『派遣ー夢』とルリ(紙)にお世辞にも上手とはいえない字で書いてある。
「アンナちゃんかい。今日は、依頼先へ行ってるよ」50代前半といった白髪交じりの責任者は、私たちを珍し気に見るとそっけなく言う。
「4日間泊まり込みで仕事何てことは初めてのことなんで、心配で。依頼先でも確認出来たら安心するかもと思って来たんです」
「心配って。ロボットのかい?珍しいねぇ。ただ、こちらとしても守秘義務があってね。詳しいことは、あまり教えられないんだよ。まあ、アンナちゃんは先方に気に入ってもらえてるみたいだしね」
「別に、乗り込もうと言う訳でもないんだから。ちょっと、顔見に行って帰ってくるだけなんだよ」錬も、その男に訴える。
「顔見にって、仕事先にいちいち心配で顔出されたらたまらないだろう。子供じゃないんだから。それに‥依頼人は、障害ロボット達でもいい値で仕事をまわしてくれているんだよ。そんなことされて仕事をまわしてくれなくなったら、こんな小さな事務所なんてすぐ潰れちまうよ」責任者は、内情を吐露する。
「だけど、あんただって警備ロボットを派遣されて何か問題が出てきても困るんじゃないか⁉」
「警備って、難しいこと知っているな。君もロボットかい?」外見の幼さをしげしげと見入る。
「最近、ロボットにも最低限の人権を持たせるって法で決まったんだよ。俺は、ロボットじゃないけど。おっちゃんの出方次第で、穏便にすませることもできるんだけどね」その口調はまるで、マネをみているようである。
「わ、分かったよ。地図は書いてやる。ただ、俺が教えたことは言わないでくれよ」錬の脅し⁉が効いたのか、渋々書いてくれた地図と錬に促されて書いた派遣先をくれた。
それを見ると、ここからだと随分距離があった。
ちょっとの間、錬は思案していたがいい知恵が浮かんだようである。
私の派遣先のメルナ 中利様に今回の件を相談したらどうかという話だった。
いきなり、下級エリアの俺たちが行っても玄関先で追い払われないとも限らない。そこで、中利様に知恵を貸してもらえるかもと言うことだった。
(確かに時間的に急いだ方がいいに違いないけど、中利様には無下に断られるに違いない。いつも、下級エリアの貧乏人ってバカにされているもの‥)それでも、他の方法も浮かばなかったので、責任者に連絡を取ってもらった。他の利用者様まで巻き込むのをあからさまに嫌がっていたが、錬の有無を言わせない態度に渋々従っていた。
(本当に頼もしくなってきたものだわ)そんな錬を見てソマは、誇らしく思った。
他の派遣先との連絡手段に、事務所では、テノ(携帯カード)を使っていた。名刺ほどのカードには各々の情報がインプットしてあり、選んでボタンを押すと電話番号などが自動的につながるのである。
「もしもし、中利様ですか?私、派遣-夢の責任者モジノでございます。実は、うちはロボット派遣専門なのですが、うちのロボットのことであなた様に連絡を取りたいというものが来ているものですから、かけさせて頂いております」ソマ達と態度が一変して、相手側から姿はみえないのにやたらとペコペコしている。
「あ、はい、実は今日はそちらのメイドのソマが事務所に来てまして、中利様にお願いごとがあるそうなんです。あっ、はい、すぐ代わります」と言うと、テノを私の額にベタッと貼り付ける。別にどこでも張り付くし音声も鮮明にひろうようにできているが、目障りなので腕に位置を移す。
「もしもし、急なことですみません。実は、あの、そのお、家族同然にいるロボットの心配で‥」ソマは、しどろもどろに話し出す。
「突然のことですみません。僕、弟の錬と言います。今日は、家族同然のロボットが4日間泊まり込みで仕事が入ったのですが、心配で。顔だけでも見に行きたいんです」要領をえないアンナと代わって錬が要領よく話す。
「はい、僕たちが行っても追い返されるかも知れないと思って。はい、はい、そうしていただければ助かります。ありがとうございます」そう言ってアンナに代わる。
「立派な弟さんだね。一体いくつ何だい?えっ?六歳?!これは驚きだね。あっ、そのロボットの件は、こちらにまかせな。今ちょうど頼もしい男がきているからね。彼の指示で飛行ロボットで迎えに行かせるよ」それだけ言うと切れた。
「‥‥」錬は、首を横に振った。
もともと、せっかちなところがある中利様であるが、頼もしい男?! あと、飛行ロボットって?派遣先に連れて行ってくれるという意味合いなのか?よくわからないまま、とにかくここで待っているしかないということになった。
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