第11話 102 ニキュ

 ちょっと小太りのニキュは、らるに聞いていたこれからおきるイベントが楽しみだった。指示された部屋は、とてもこじんまりとしていた。

座って待っていようかとも思ったが、一瞬見逃しそうな扉がソファの後ろの方にあるのに気が付きニキュは好奇心を隠せなかった。


(別にいいわよね。ちょっとだけ)

その扉は思ったより簡単に開いた。そして中がよく見えるように、入っていった。

その光景は今までの部屋と比べて異様としか思えない。黒一色で塗り潰された部屋は、先に入った部屋に比べると3倍位の広さを感じられた。薄暗く感じられたのは、壁の色だけではなく上の方に小窓が一つしかないのも要因だった。そして、そして、その壁にはのこぎりやら、斧、大きなハサミといった工具類⁉がたくさんかかっていた。

(な、なんなの。これ?! いったい何のために‥)初めて見たものもあったが、見ただけで体中がゾオッとしてくるのが分かった。


その時、ガタンという音とともに

「なんだい、だめじゃないか。勝手に他の部屋をのぞいちゃあ。悪い子には、お仕置きしなきゃあね」マスクで顔が見えなかったが、太った体形は目立っていたので覚えていた。そう、この時代にこの体形は稀にみる希少な体だった。


「おまえも、俺に似てデブだなあ。俺はこの体のせいで皆に、嫌われていた。この時代いくらでも、作り替えられるなずなのに‥数十年前の人類が無茶をし過ぎたせいで病気以外に人工的に体を作り変えるのは法にふれるようになった。俺は、いくつもの自然療法ていうものを試したがだめだった。だが、その劣等感を払拭するために身体を酷使して仕事に打ち込んだ。その成果として上級エリアに住む大金持ちになったが体重は比例するように増えていき、心はいつも満たされない‥。


それなのに何故、おまえみたいなのがわざわざ作られたのかわからない。おまえを見てると嫌気がさすんだ。俺が、この時代に合うようにしてやるよ。へへへっ」男は不気味に笑うと、壁から中くらいのハサミ(それでも、30センチ程はあった)を手に取りニキュに向き合った。


「このハサミで贅肉を、切り落としてやるよ。そしたら、体も軽くなるし‥もっと、かわいくなるだろ?」


「じょ、じょーだんじゃない!!こんなこと、許されませんよ。らるさんや、他のゲストに暴露します!」ニキュは、頭が真っ白になっていた。それでも、このおかしな男から逃げなければという思いが強まった。


「アッハッハッハ、ばっかだなあ。まだ、わからないのかい。今、この部屋で起きたことは広間の大スクリーンで皆が鑑賞中だよ。皆、君がスリムになるのを早くまっているのさ」


「うっうそよ!!そんなこと、そんなはずはないわ」

(この男は、でたらめをいっている。逃げなければ‥)

ニキュはぽっちゃりとした腕を俊敏に動かして、ハサミを持っている男の腕に振り下ろした。


「いたたたた。何をするんだ。おまえらロボットは、人間に逆らってもいいのか?」腕を押さえながら、なおも男は床に落ちたハサミを拾おうとする。


「こ、こんな命令には従えません」太くて短い脚に力を込めて、背中を丸めた男を後から蹴り飛ばす。

(私だって、スリムな体はうらやましかった。シグナのような手足が長い顔の小さなかわいい女の娘を見ると、嫉妬したわ。でも今、この私の太くて短い手足が役にたつ時が来た。は、早くここから出なくては‥)ニキュは、急いで廊下へと出た。

が、数分もしない内に駆け付けた数体もの警備ロボットが目の前に現れた。


「人間に逆らうとはとんでもない」ニキュの抵抗もキビキビとした警備ロボットの動きには逆らえなかった。


「まっ、まって私は何も悪くないわ」


「詳しいことは、内臓システムで検証させてもらう。ニキュ394839停止」警備ロボットの規定コードの読み上げで、ニキュの機能は停止し廊下へ倒れ込む。その体を、警備ロボットのうちの一体が肩に担ぐ。


「ま、待てよ。これから、お楽しみのところだったんだぜ」部屋の中から、よろけながら太った男が出てきた。

「人間に危害を加えたロボットは規定により、処分します」


「だから、おれが処分するって言ってるだろう」


「処分とはどういうことですか? そんなことは、黙認できません。それは、規定違反ですよ。もしそういうことがおきたなら、あなたも連行しますが」


「い、いやあ。こいつが、すべて悪いんだ。俺は、そのお。今のは、ただ口がすべっただけだ」


「なら、もう行きますよ。あなたの相手をしている暇はありませんので」とそういいながら、ニキュは警備ロボットに連れていかれてしまった。


「ちぇ。おい、らるどうするんだよ。モニター越しに見ているんだろ。警備ロボットだなんて、冗談じゃない。俺まで、目をつけられたらどうしてくれるんだよ。それに今日までに支払った分ちっとも楽しんじゃいないんだぜ」


『102のゲスト様、大変申し訳ございません。警備ロボットに睨まれたら今後私どもとしましても、このイベントは続けられません。今日は、緊急事態として通常のイベントに戻します。いいえ、今日のところは撤退したほうがいいでしょう。今までと同じように。また再度開催の目安がついた時にニキュの代わりとしまして、こちらから何体かご用意させていただきますので、その中から好きなものを2体お選び下さい』らるの声は心とは裏腹に申し訳なさそうである。


(ちぇ、ただでさえ警備ロボットが作動するのは面倒なことなのに…ここの警備ロボットは、あらかじめ私たちの息がかかった者たちだから心配ないのだが。外部の警備ロボットが緊急に派遣されるという指令をもらった。ここは、急いでニキュのメモリを改ざんしなければ‥‥。他にもロボット達の残骸と拷問部屋の偽装、皆の移動等あらゆることをすべて短時間でこなさなければならない)


「やれやれ、何てついていないんだ。しかし、緊急派遣?とは。まさか誰かが密告した?いや、それは絶対にありえないはず! 上級エリアや中級エリア民とは、太いパイプで繋がっているのだから‥」らるは、先ほどのスクリーンいっぱいにうつされた残虐な場面を思い出しては薄い唇の口角をあげた。

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