ロボット(AI含む)
クースケ
第1話 大切な命
(ふっー、疲れた)
仕事が終わって帰り路、さっきまで一緒にいた利用者様の顔が浮かぶ。メルナ 中利様である。昨今はお手伝を利用されるのは、一部の中級階級か上流階級の方に限られる。利用者様は人間であることもまた、ロボットであることもあるらしい。まだ人間にしかお務めしたことはないが。
私、蒼林 ソマはこの仕事についてやっと半年になる。中利様はとても頑固な方で表情が読み取りにくく、ときおりアンドロイドなのではないだろうかと思ってしまう。それでもほとんどがロボットに職を奪われてきた現在に、尚更私みたいな未熟者の人間を雇ってくれているのは数少ないだろう。本当にありがたいことだ。
それでも完璧な卵焼きが食べたいと言われた日には、29枚も卵を焼かされた。そんな贅沢品うちでは滅多に食べられるものではなかった。
「下手くそ。こんなに焼いてやっとこさ少しはまともになってきたんじゃないか。こんなんだから貧乏人は嫌なのよね」と、中利様に口癖のように言われるたびに正直ムッとはするが、失敗作の卵焼きは持ち帰って食べなと言ってくれたり、なんだかんだこの仕事をするようになって家計が助かるようになってきた。嫌われている? と思いながらも、はや半年間も務めさせてもらっている。本当にありがたいことだ。
私のいる下級エリアから彼女の住む中級エリアまでは、歩きで片道1時間30分以上はかかるのだが天候が制御されていないここから、雨の日も風の日も休むことなく通うことができた。
きっと、自分一人では続かなかっただろう。そんな時、年が離れた弟の顔が浮かぶ。そう、錬がいたからこそ続けてこられたと思う。
この下流地区では、時おり暴動が起きていた。それは上流エリアのものが仕掛けることもあれば、同じ下級エリア民が食いぶちを少しでも増やすために仲間に仕掛けることもあった。そんななか被害にあうのはいつも、自分たちのような非力な者たちである。
6年半前
暴動に巻き込まれて、私の両親と祖母が亡くなった。
(私1人生き残って、これからどうすればいいの?!)その時は放心状態になって、爆風の響き渡る場所から動けなかった。
その時、瓦礫の山から微かな赤ちゃんの鳴き声が聞こえていた。でも、もしかしたら空耳かもしれなかった。それでも私は咄嗟にその声のする方へと耳をすませながら、手当たり次第に瓦礫をどけてその音源へと向かっていた。
「オギャー、オギャー」間違いない。この方向であってる。か細い小さな鳴き声であるが近づくにつれて少しずつ赤ちゃんの声だと、確信できるようになっていた。
いざ目の前にたつと大きな瓦礫や鉄くずが、何層も重なった下の方から聞こえてくる。
(どうしよう。私一人では、とてもじゃないけどこれをどけることができない)途方にくれていた。でも、その幼い子を助けるには時間との勝負ということも分かっていた。
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