第19話 中利様宅にて(一日前)

 「ただいまー」

中利様宅にて、いつものようにお茶を出していたソマだった。階段を上がってくる青年ロボットを見かけた。

「あ、あのどちら様ですか?」

「君こそ誰?」

「あ、リランかい。最近、よくくるじゃないか。でも、ソマとは初めてだったね」

「ソマ?ああ、あの時のデジャン派遣した時の人間か」

「あの時は、お世話になりました。無事に、うちのアンナは戻ってきました」リランの言葉で慌ててお礼を言う。この人が?頼もしい男っていうわけね。ソマを、青年にしたような端正な容姿の人間型AIロボットである。

「アンナ?ああ。別にお礼言われる筋合いはないよ。ちょうど、不審な事件を耳にしていたところだったからね。それに、今日はアマンに会いに来たんだよ」

「またかい。この間、断ったはずだろ。私は、1人が好きなんだよ。それに、フラとソマが時々きてくれるし」

「何、言ってるんだよ。人間っていうのは、寿命があるだろ。アマンだって何かあってからでは遅いだろう」

「また、人を年寄り扱いして」

「なら、せめて万能なAIメイドにしてくれ」

二人の会話についていけないソマだったが、リランの言葉に反応した。(私は、いらなくなるの⁈)


「あっ、あのお二人の関係は?」

「ああ。子供同然に育てたAIでね。最近、一緒に住もうとうるさいんだよ」中利様の目が言葉に反して、細くなる。

「そうなんですね。確かに、離れて住むと心配ですよね」

「そうだ。ソマも一緒に来るんだったら、リランの所へ行ってもいいけどね」

「えっ、えー」どうしてそうなるの?

「アマン、ソマさんは家族があるでしょう。私の所のフラ(専属のメイド)をやってもすぐ返されるし」

「そんなことはないよ。フラは仕事が早いし。他に、仕事があるらしいんだ。別に追い返しているわけじゃあないさ。そうだ、いいこと思いついたよ。ソマ、今より仕事増やせないかい?」

リランの言葉が、聞こえていないように勝手に話をすすめる。

「えっ⁈」

「私の曜日以外に、入れる日はいくらでもリランのところへ行ってほしいんだよ」「えっ、えっ⁈中利様宅ではないんですか」

「どうしてまた、私の所なんですか⁈ いつものアマンの気まぐれ発言が出たね」あきれたように、リランは言う。


「私は、日頃から気まぐれにものを言ったことはないさ。おまえは今、仕事で人間とロボットの間で苦労しているだろう。少しは、人間を内側から知ってもらおうと思ってね」

「そんなこと誰に聞いたんですか⁈ それに、いまさら何いってるんですか。私は、人間のあなたに育てられたんですよ。それで、十分じゃあないですか」

「人間には、いろんな性格があるんだよ。ソディ(副大統領)とも反発しあっているらしいじゃないか。現に、仕事以外では引きこもっているのだろう。フラが言っておった」

「また、フラはよけいなことを言ったんですね。雑多な任務が多いから、合間はそれを片付けたり休んだりしているだけですよ」端正な顔に、ちょっとした皺がよった。


「まあ。ソマを家で少しの間でも雇ったら、アマンがうちに来てくれるんだったらそれでもいいでしょう」

(‥‥えっ、そっちの流れにいくの?そんなこと勝手に決めないでよ。でも正直今は、マネとアンナが家にいるから、いくらでも仕事が増えるのはありがたいような‥)


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