第20話 ソマとフラ

ンネが冗談のように言った日から二日後、ソマはリンネ宅でひと月ばかり働くことになった。あまり気は進まないが、仕事が増えるのは嬉しいことだった。


(アンナのことで世話になったし、この際私情は押し殺して頑張ろう!)




リンネ宅は、上級エリアにあった。エリア自体が空中にポッカリと浮かぶ都市なのである。ドーム内には、約300世帯が暮らしていた。


二人乗り位の頑丈で特殊なエレベーターが、何機か地上に固定されていてその一つに乗る。


透明な周りの景色と一体化したエレベーター内の乗り心地は、感動と興奮が隠せない。ソマは中利様宅で少しは慣れてはいるのだが、その高さは比ではない。


周りの景色が、透明な壁で隔たりを感じさせないからだ。自分の身体が浮いたような錯覚をおこす。デジャンに乗った時ともまた違う快感を感じる。上空へと向かいながら、下層エリアのゴチャゴチャした平屋の家々は下方においやられる。中級エリアのドームまでも追いこして高層雲の上空で停まる。地上からは、5000mもの高さに到達する。時間にしてもさほどかからない。


エレベーター内の乗り降りは視点認証と個人番号によって、厳重に守られている。




◆◆◇◇◇●○○


到着地で、もう一人のメイドロボットのフラが待っていた。


「よ、よろしくお願いします、私は、ソマです」


「私はソラ。中利様宅でも時間がずれていて、会ったことがなかったっけ。よろしくね」気さくなフラは、私の緊張がほぐれるようにいろいろと話しかけてくれた。


リンネ宅につくと、マネが借りて来ていた絵本の中の宮殿のようだった。


豪華な造りで、家具やインテリアが今までソマの見たことがない造りのものだ。


玄関から入ると、入口近くにある豪華なソファセットにリンネはくつろいでいたが、リンネは私に向かって整った顔を向けた。




「今日は、フラについてまわってくれ。後は、時間がくるまで好きにしていいから。途中、顔は出すようにする」それだけ言うと、絨毯が敷き詰めてある幅の広い階段を上っていってしまった。


「あ、あの」戸惑いを隠せないソマだった。


「リンネ様はいつもああいう風なの。だから、気にしないでいいわよ。さっそく、掃除を始めましょう。この家は、他にもAI機能があるからとても楽よ。私にまかせて見ていてね」そういいながら、壁に向かっていくつかあるボタンを押したり上げたりする。


「あ、はい」恐縮しながら返事を返す。


ボタンを押したとたんに、いくつもの円形の掃除機ロボットが床を掃除してまわる。フラはその合間に、机や調度品等をきれいに拭いていく。階段や手すりも次々に綺麗にしていった。客間や、他の部屋もこなしていった。とはいえ、毎日のことなのだろう。ほとんど、埃も見当たらずきれいなのだが。


「わあ。すごいわ」わかってはいたものの、ソマは何もすることがなかった。申し訳なさそうに、彼女たちの邪魔をしないように雑巾を持ってついていった。


2時間は過ぎただろうか。ついてまわるだけで、人間のソマには結構な運動量だった。




「さあ、これで私の仕事は完了よ。私は他の所の仕事が入っているから、先に帰るわね」


「あ、あの私。何も役にたてなくてごめんなさい」


「ふふ。別に気にしなくていいのよ。きっとあなたはあなたのやるべきことが、そのうち見つかるわ」フラはそう言うと、色白の可愛い顔で笑った。


「⁈」ソマは、フラの言っている意味を理解しようとしたがわからなかった。

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