第15話 目覚め

 交代の時間になり、あらかじめ開始時間より早めにセットしていた体内アラームでアンナは目を覚ました。

そして、レストルームへ行く。ロボットなので排泄物はないのだが鏡の取り付けられた奥まった一角で、いつものように人工で出来たショートの髪を整え押し込んだ眼球がずれていないかチェックをするためである。


その時、廊下をバタバタと慌ただしく走る音がした。

(廊下を走るなんて、いったい誰よ?うるさいわね!)


「よし、ひとまずここでいいだろう」と男はレストルームのドアを開けゴミ箱に、何やらたくさんのゴミを慌ただしく捨てると急いで出て行った。


(一体何なのよ、騒々しい。それにここは女子トイレだし、ゴミ捨ては私たちメイドの仕事なのに‥)なんだか、気になってゴミ箱を開けてみる。


(こ、これって)たくさんの人工の髪の毛やら、目玉、そして編み込んだ帽子や靴。どれも汚れていたりつぶれていたり、衣服や帽子等も穴が開いてボロボロになっていた。

(こ、これって。いったい、な、なにが、、あった‥の?)アンナは、自然と零れる涙が制御できなかった。どれも、アンナにとって馴染みがあるものだったから‥。



◆●◆●□○○◆●◆●□○○◆●◆●□○○


 ソマと錬はメイド達が休んでいる部屋にたどり着いた。

メイド達は次々と目を覚ましていたが、見渡してみるとアンナはいない。


「アンナだったら、レストルームじゃないかな。いつも、こまめにチェックしてるから」少し色黒のメイドが教えてくれた。


ソマは錬を残して、レストルームへ行った。

ドアを開け、呼びかけながら見渡す。


「アンナ。アンナ。ああ、そこにいたのね。いったいどうしたの⁉」奥まった部屋の角の床に座り込んでいるアンナが見えた。


「ソマ?どうして、ここに?」

アンナの周りには、たくさんのゴミ?が散らばっていた。


「泊まり込みの仕事なんて、初めてでしょ?心配で、錬と尋ねてきたのよ。いっ、いったいどうしたのアンナ⁉」ソマは近づくにつれて、ゴミの中身に頭やら、腕やら、手首やらといったものがあることに気付いた。しかも、それらはいびつな形でどれも原型をとどめていなかった。

そして、アンナの顔は涙でグチャグチャになっていた。


「ソマ‼ わっ、わたし意味がわからないの。どうして、どうしてこんな‥こんなことに‥」

抱きついてきたアンナをなだめながら、ひとまず先ほどの休憩室へと連れてきた。

そして、すぐに錬にデジャンを連れて来てもらう。


◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇


その後、駆け付けたデジャンはレストルームの押収品のことを本部へ連絡を入れる。

そして再び会場へ戻った頃には、らるやゲスト共々、もぬけの殻となっていた。もちろん、部屋と言う部屋を本部から合流したデジャンと時間をかけ細かく調べた。


当然ながら、らるという人物像も偽名であり、この家もアンナがメイドに入った数日前に即席に建てられた無許可の家だった。ゲストの名前も居場所も何一つわからずじまい。それと、先に来ていたデジャンの二人も一緒に姿を消していた。


ただ、今までと違うことは現場⁉に侵入できたということ。

メイド達の原型をとどめぬ残骸から見て。間違いなく、暴行、殺害されたという事実。信じられないが、それが見世物にされたらしいということ。


◆●◆●◆●◆●◆●◆●


前半部のメイド5体のうち、生き残ったのは一体だけだった。

肝心な生き証人である、ニキュの証言も曖昧なことが多かった。

彼女の話では、大イベントでは、即興で劇をやったと言っている。らるが、ゲストやメイドに台本を配って観客が一体になってすばらしかったと。うつろな顔で空をみていたニキュはそう答えていた。


そんなばかな。どこをどうしたら、即興の劇からあのゴミの山のロボットの残骸になるのか‥。

デジャンは、ニキュは間違いなく記憶を上書きされたとみていた。。その記憶は、ニキュにとっては真実の記憶だった。なので、それ以上は追及することはできなかった。


後半部のメイド達の話は、皆一環されていた。

らるという、男の家での中級、上級エリア民達とのパーティ。自分達、障害ロボットでも自信がもてたと口をそろえていう。


そしてデジャンは真実を知ってもらうためと、また同じ事件に巻き込まれないために押収したメイド達の残骸を皆に見てもらった。


目の前の変わり果てた同僚をみた、彼女たちの口からは

「らるは、だまされているのかも。そんなこと、信じられない‼」

「らるは、見捨てられた私たちに仕事をくれたのよ」

「そうよ。それも、高時給の。らるは、そんな人じゃないわ」

「何かの間違いよ。きっと‥‥ちゃんと、調べてくれる?」皆、らるを擁護した言葉しか出てこなかった。


「‥‥」ただ一人。アンナだけは、目の前の残骸と彼女たちの思い出から抜け出せなかった。




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