第25話 悪夢 ソマとケラス

 子供の頃のソマは、畑でおじいちゃんとおばあちゃんと一緒にいた。


作物は、その日の天気に左右される。祖父母は天性の百姓だった。

その土からは、赤いニンジンやピーマンなど四季折々の作物が立派に育っていた。

「おじいちゃん、おばあちゃん今日もこんなに採れたよ」可愛い孫の言葉に二人は微笑む。

そして、ソマは小さな籠にたんまり入った作物を家の中に運んだ。


それから、壁を見つめ得意の逆立ちをはじめた。

「いっち、にい、さん」床に手をつき弾みをつけて壁に身体をあずける。ソマが夢中になっている遊び?だ。

「おやおや、ソマはホントに逆立ちが好きだね。これが終わったら、野菜を洗うのを手伝っておくれ」家の中に戻ってきたおばあちゃんは、目を細めて笑う。畑に残ったおじいちゃんは、いつも夕方近くまで仕事をしていた。

「はーい」


次の瞬間、辺りが暗くなった。そして、部屋の中からは小さな火がくすぶっていた。急なことで、慌てたソマはどうしたらいいのかわからなかった。おばあちゃんは、バケツに入れた水をその火へ撒いていた。そうこうしているうちにもあちこちに燻った小さな火は、獲物を飲み込んでは大きく燃え広がって炎となっていった。そして、ついにはおばあちゃんおじいちゃんまで飲み込んでいこうとする。


「うわあ」


「あ、あつい、助けてくれー」


炎に包まれて真っ黒の人間の形をしたものが、もがき苦しんでいる。


「いやあ。おじいちゃん、おばあちゃんー」ソマは煙にむせて苦しいが、思いきり二人に手を伸ばして叫んでいた。二人はもだえながら、やがて黒焦げになり床に倒れた。


「お、じい、ちゃん?お、ば、あちゃん?いや、いやあ」熱すぎて身体には近寄れなかったと同時に、放心状態で少しも動けなかった。


炎はソマのすぐ近くまで来ていた。


「あ、熱い」ソマは目の前で起こったことが信じられなかった。勢いをつけた炎は、次のターゲットに狙いを定めていた。炎はうねり、何色ものグラディションを見せつけソマを包み込んでいく。


「いやあー、あ、熱い。熱い」熱さに執着し何も考えられなかったが、意思に反して四肢が蠢いた。


「おい、何やっているんだ。もう、今日はこなくていいと言っただろう」


「えっ?」振り向くと、そこにはリンネがいた。


「さあ、お姫様抱っこをしてやるからもう来なくていいぞ」


「リンネ‥‥助けて」叫びながら必死にその腕にしがみつこうとした。



「おい、おい、大丈夫か」


「……」


「おい、ソマしっかりしろ」


「あ、た、助けてリンネ」叫んだ時にソマは我にかえった。


「ケ ラス⁈」目の前にいたのは、ケラスだった。


「おい、大丈夫か?怖い夢でもみたのか?随分うなされていたぞ」


「う、うん。火事の夢を見たの‥とても恐かった。でも、もう大丈夫だから」ソマは、無理に微笑む。


「そうか。でも、辛いときがあったらいつでも頼ってくれ。おれじゃあ、頼りにならないかもしれないけど‥‥それじゃあ。もう、行くわ」


「あの、ケラス」背中越しに声を掛ける。


「何?」


「しばらく眠れないと思うから、紅茶と絵本を持ってきてくれる?」


「うん、いいよ」(くそぉ。リンネって誰だよ。キリットか?)


しばらくして、ケラスは両手に紅茶と絵本を持ってきた。


「はい、どうぞ」紅茶と絵本をベット脇の台に置くと部屋を出て行こうとする。


「悪いけどケラス、しばらく、一緒にいてくれる?」


「ああ、いいけど。俺は、マネみたいに読み聞かせはできないぜ。文字が読めないんだ。AIなのにね」


(ああ、そうだった私ったら。そうだ!!)

「絵本を見て、適当に文章考えてくれない?本の内容は、大体覚えているから。お願い」


急にそんなことを言われて戸惑うケラスだが、いつものソマの思いやりからきていることを知っていて断れなかった。


「わかったよ。じゃあ、やってみるよ」ソマは、自分の小さなベットに座り、ケラスはソマの隣に座った。


「じゃあ。はじめるそ。三匹の子供の豚がいました。その、豚はそれぞれ服の好みが違いました」労働向けにつくられたロボットのため、ケラスは考えることをあまり求められなかった。字も、読めなかった。

ケラスの物語は、本文から大分はずれて、大笑いをさせた部分もあったが絵のおかげもあって、最後はなんとか内容通りに終わった。


「ありがとう。私が知ってるこの絵本が、とっても新鮮に聞こえた。文字なんて取るに足らないものだわ。いつもあなたのやさしさを感じているもの。

私が疲れた時は甘めの紅茶を入れてくれたり、落ち込んでいる時はハーブティーを入れてくれる。嫌味な口調の時は、わざと自分に目をむけさせて庇ってくれたりする。数えあげたらきりがないわ」


「はは、うれしいこと言ってくれるな。なら、俺の想いは伝わっているの?」お、俺は何いってるんだ!!


「えっ⁈‥‥。 想いって。あ、あのごめん」


「あ、いや。冗談だよ。冗談。やっぱり、男どもの部屋に戻るわ」足早に部屋から出て行った。


(お、思いって‥。ケラスが私に?そんなこと全然気がつかなかった‥‥)ほどよい香りのジンジャーティーを飲みながら、ケラスが持ってきたもう一つの眠り歌姫の絵本をソマはめくった。

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ロボット(AI含む) クースケ @kusuk

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