第14話 推し変の誘い
魔王の娘だと?
そんなヤツいたっけ?
いや。最近になって、実装されたのかもしれない。
あるいは元々存在していたが、容量の都合で出せなかったか。
「【デッドフィールド】!」
オレに考える余裕すら与えず、イクスはオレとミラベルたちを断絶した。
「なにをした?」
「ベップ・ハスヌマ。あなたにお話があるの。取引しましょ」
取引だと?
オレは、障壁を破れないか試してみた。
叩いてみたり、肩で押してみる。
やはり、ビクともしない。
「いうこと聞かないと、まずいわよ。アンタのバフ魔法を、障壁魔法で遮断したの」
ミラベルの方を見ると、カメ型のボスに苦戦している。
ボスのカメは、攻撃こそ鈍重だ。が、防御に全振りをしているようで、一向にダメージが通らない。
メロが分析してくれているおかげで、ミラベルは善戦こそしている。しかし弱点がわかったとしても、攻撃がそこまで届かないようだ。
あれだけ強力な武装でガチガチにしても、裏ボス相手だとキツイか。
オレのバフさえ通れば……。
くそう。こんな事態は、予測していたはずなのに。
順調すぎて、油断したか。
しかし、この障壁はオレのレベルでも破れない。
なんらかの法則があるようだ。
「目的はなんだ?」
怪しげな瞳を、イクスはこちらに向けてきた。
「あなた、推し変しない?」
「どういうことだ?」
オレが尋ねると、イクスは鼻で笑う。
「察しが悪いわね。あたしに乗り換えないかって聞いてんの。あたしの下僕になったら、色々してあげなくもないわよ?」
これみよがしに、イクスはテーブルの上で足を組み替える。
「なぜ、オレなんだ?」
「あんたの補助魔法に、興味があるの。あれだけのバフを扱えるなら、勇者の活躍で劣勢に立たされている魔王軍も、巻き返すことができるわ」
得意げに、イクスは語りだす。
「……お前のほうだろ、察しが悪いのは。オレが推し変なんぞすると思うか?」
「秒で断ってきたわね」
意外というような表情を、イクスが見せた。
「どうしてオレが、お前なんかに推し変せねばならん?」
「ずいぶんと、はっきり言うわね?」
「当然だ。オレはミラベルしか興味がない。損得勘定だけで動いているやつに、オレはなびかないんだよ」
そもそもどうして、さっきみたいな勧誘方法でオレが落ちると思ったのか?
理解できない。
自分から「罠だ」と、教えているようなもんじゃないか。
「断っていいのかしら? あなたの大事な推しがピンチなのよ? あたしに鞍替えすれば、このフィールドを解いて、助かるのに」
「大丈夫だ。ミラベルしか勝たん」
確信を持って、オレは断言した。
「なぜ、そこまであの子を信頼できるの?」
「ミラベルは、オレの推しだからだ」
オレは障壁越しに、ミラベルの方へ向く。
「攻撃を受けるんだ! ミラベル!」
カメの攻略法を、大声で叫んだ。
「えーっ!? マジで言ってるの!?」
「多分、それしか方法がない!」
このイクスって女は、イジワルである。
それくらいの攻略法を、仕掛けているに違いない。
さっきからどうも、敵の動きが遅いと思っていた。
それに、ダメージの通らなさ。
これは、なにかあると思ったのだ。
「わざと攻撃を受けて、寸前でジャストガードだ!」
「ジャストガード……やってみるよ!」
カメが、ミラベルを踏み潰そうと足を振りおろした。
その絶妙なタイミングで、ミラベルはトンファーで防御する。
「今だ!」
「ジャストガード!」
ミラベルが、カメの大きな前足を弾き返した。
たったそれだけで、カメのモンスターがひっくり返る。
「よし! 畳み掛けろ、ミラベル!」
「はいっ! 【ピンクサンダー】!」
ミラベルは、角笛を吹いてパワーを集中させた。溜まった魔力をカメの腹に雷として叩き込む。
カメの怪物が、ミラベルの雷撃を受けて消滅した。
同時に、フィールドも消えてなくなる。
「どうして、あいつの攻略法がわかったの?」
呆れた様子で、イクスがオレに問いかけた。
「なんとなくだ」
ボスってのは法則性があるもんだ。
完全なるチートキャラなんて、ゲームとしては成り立たないからな。
単に硬いだけとか、無敵時間が長すぎるだけとかのボスなんて、今どきは炎上するんだよ。
「よって、なんらかの攻略手段ってのは、用意されているもんだ」
「メタな推理ね。それにしても、あたしを殺して障壁を消すことだってできたのに」
「そんな発想には、至らなかったな」
考えもしなかった。
「……どうして、そうしなかったの?」
「お前は、ここのラスボスだろ? 『どうせ攻撃が通らないんだろうな』って、メタな推理をしただけだよ」
フン、と、イクスが鼻で笑う。
「大正解よ。あたしはエクストラ・ラストダンジョンで待っているわ。それまで、死んじゃったらダメよ」
「言ってろよ、メスガキ」
「ベップ。あたしを選ばなかったこと、いずれ後悔するわよ」
最後まで憎たらしい笑みを浮かべたまま、イクスがその場からいなくなる。
「ベップおじさん。さっきの女の子と、なにを話していたの?」
「何も。ナンパしてきたから、断っただけだよ」
「ダメだよ。知らない女の子についていったら」
「もちろん!」
オトナが子どもに諭すようなことを、ミラベルから言われた。
どっちがオトナなんだろうか。
海底洞窟のボスを倒して、宝石を手に入れた。
しかし、オレたちはこの宝石には手を付けない。呪いがかかっているからだ。
「この宝石を、カメの怪物が飲み込んでいたのですね」
禍々しく光る宝石を、メロは両手でそっと持ち上げる。
「持っても、大丈夫なのか?」
「平気です。人魚に、呪いは効きません」
メロが、宝石を台座に置く。さっきまでイクスが立っていた、台座である。
カメが体内で宝石を複製し、海賊はそれを手にした。
だから、ゾンビ化してしまったというわけか。
「呪いを、浄化します」
メロは、自分の角笛を用意した。宝石に向けて、笛を吹く。
あれだけ歪な光を放っていた宝石が、キラキラと光りだした。
「これで、宝石は本来の力を取り戻しました。これからは、海の守り神となることでしょう」
メロの発言と同時に、クエスト達成のログが。
人魚の島に、戻ってきた。
大量のイベント達成経験値をもらう。
オレは受け取った経験値を、すべてミラベルに注ぎ込んだ。
ミラベルが、大幅にレベルアップする。
さらに、島の近くにあるリゾート地に宿泊できるチケットをゲットした。
あと残っているのは、【メロとのデートイベント】である。
もらったこのチケットは本来、メロとのデートで使うようだ。
メロとミラベルといっしょに、コナンベルルの街を回る。
本格的に港町として再生した街は、活気に溢れている。
大量に、屋台も出ていた。
メロのドカ食いは、見ていて気持ちがいいまである。
「すごいね。あんな小さな体のどこに、入っていくんだろ?」
ただ呆然とメロを見守りながら、ミラベルも串焼きを口へ運ぶ。
続いて、リゾート地へ案内してもらった。
メロの手引で、コテージで休む。
快適すぎて、ずっとここに住んでいたいと思わされた。
たまには、のんびりするのもいい。
このゲームは本来RPGじゃなくて、恋愛シミュレーションだもんな。
女の子とのふれあいが、テーマなんだ。
しかし、そうも言っていられない。
「ベップおじさん。そろそろ行こうか」
数日リゾートを満喫したところで、ゾンビ海賊はもう出ないと確認できた。
「じゃあ、出発するか」
目的地は、東にあるヤマト国か、北にある雪山地帯シバルキアだ。
「どっちにする?」
「ヤマト国! 文明レベルが、おじさんの故郷に近いんでしょ?」
「いや、どうだろうな?」
異世界だし、ちょっと違うかも。
「でも行ってみたいな」
「よし。じゃあヤマト国へ向かうぞ」
(第三章 完)
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