ゲームの世界に転移して、攻略不可だった最推し「勇者の妹」と旅に出る!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 オレは、勇者の妹に恋をする。

第1話 恋愛SRPG世界に転移

『冒険いってらっしゃい、お兄ちゃん! ただし、ミィにおみやげ忘れないでね!』


 勇者の妹ミラベルが家まで出て、オレの操作する「勇者」に手を振る。

 ミラベルは、自分をミィと呼ぶ。


 小さくて細い。兄思いのいい妹だ。

 

 ショートボブの髪。

 ちんちくりんな背丈。

 控えめな胸。

 全体的に細身な体型。

「妹」という要素を、すべて兼ね備えている。


「ああ、かわいいなあ」


 コントローラを握りながら、オレはためいきをつく。


 

「なんで、このコが非攻略キャラなんだよ~」




 このゲーム『勇☆恋ゆうこい』は、恋愛要素のあるRPGだ。

 インディーズゲームであり、ゲーム会社のパッケージ販売はしていない。

 PCで遊ぶタイプのゲームサイトでの、ダウンロードのみでの販売だ。

 価格も最適で、容量もたいして食わない。

 知る人のみ知るゲームとして、愛されている。

 

 出てくるキャラクターは、女騎士、魔法使いのお姉さん、エルフの姫など。

 聞いたこともないマイナー会社のゲームなので、まだ名は売れていない。


 が、ユーザーのツボを突いた良作だと、オレは思う。


 大手のゲームは作り込まれすぎていて、やりたくない操作やイベントなどが盛りだくさんの場合がある。

 やたらボリュームがありすぎて、スキマ時間で遊びにくい場合とか。遊べる要素が多いのに、ムービーが長いゲームもある。


 このゲームは、プレイヤーがやりたいことしか詰まっていない。

 システムなどの拙い部分は多いが、もうちょっと作り込んだらいい感じのゲームにはなるはずだ。


……とまあ、上から目線すぎる感想はさておき。


「レビュー欄も、同じ意見が多いよね」


 ゲーム販売サイトのレビュー欄は、ネガティブな感想も含まれる。


 このゲームも、それに漏れず、批判的な感想が書き込まれていた。

 

 やはり、『どうして、妹を攻略できない!』といった感想が埋め尽くす。



 

 このゲームにおける影の人気キャラは、ミィこと勇者の妹ミラベルだ。


 外では澄ました顔で人々に対応する。パーティに対しても、礼儀正しい。

 が、それは仮の姿。

 兄である主人公と二人きりのときは、ここぞとばかりにべったりする。

 魔王討伐というしんどい任務に勇者はついているため、生きて帰れるかわからないからだろう。


 顔もスタイルも、攻略可能メンバーとは違う。


 脱ぐとすごい巨乳の女騎士、優しい感じのシスターなど、攻略対象キャラは、いかにも「萌えキャラ」な感じだ。


 対してミラベルは、抜群の存在感と地味キャラの要素を両方併せ持つ。

 

 設定を盛りすぎていない、かわいらしいキャラだ。

 古き良きゲームに出てくるような、無難な妹系である。


 ミラベルは、オレの最推しだ。


 だからこそ落としたかったのだが、彼女は攻略できない。

 やはり、「主人公の妹」というポジがネックになったのだろう。


「あー。別キャラを操作できたら、オレの推しにもアタックできるのになぁ」


 あくびをして時計を見ると、もういい時間になっていた。


 やばい。明日も仕事なのに。


 オレはPCを落として、眠りにつく。




 目覚めると、見知らぬ場所にいた。

 起き上がろうとして、腰を擦る。

 テーブルに突っ伏して寝ていたようで、腰が痛い。


「はっ、ここは!?」


 見たところ、酒場のようだが? 


 だが、人々の動きが止まっている。画面も、なんかモノクロだし。

 

「やっと起きたみたいね」

 

 白い妖精が、プカーンとオレの目の前に現れた。


 すべての時間が止まった空間に、彼女だけが動いている。



「ここは、どこなんだよ? お前は何もんだ?」


「慌てないで。蓮沼ハスヌマ 別府ベップ


「どうして、オレの名前を?」


「あんたを、探していたからよ。ここではあんたのことを、プレイヤー名の『ベップ』で呼ばせてもらうわ」


 オレを?


 何が起きているんだ?


 オレはただのサラリーマン、「蓮沼 別府」だ。

 こんな魔法使いみたいな、格好ではない。

 

「ゲームをやり込んだベップなら、ここがどこだかわかるでしょ?」

 


「ああ。『勇☆恋』の酒場だろ?」


 何度もプレイしたんだ。わからないはずがない。

 店のレイアウトだって、頭に入っている。

 ゲーム画面の表示が2Dから3Dになったところで、テーブルやカウンター配置などに間違いはない。


「私はピーディ。勇☆恋における、恋のキューピットよ。ゲームマスターの代理とも言えるわ」


「そのマスターさんが、オレになんの用だ?」


「ベップ、このゲームを愛しているあなたに、特典を用意したのよ。あなただけに、よ」


「オレだけの、特典だと?」


「このゲームに、永遠にいさせてあげる」


 おお。異世界転移! それも、ゲーム世界転移か。

 いいじゃん、いいじゃん。やってみたかったんだよな。


「ノリのいい人で、助かったわ。それと、もうひとつ」

 

「ん?」


 


「勇者の妹、ミラベルと交際できるようになったわ」


 


 ミラベルと、付き合える!


 それは、願ってもないことだ。


 とはいえ、どうして?

 

「でも、そんな特典をオレにくれる理由は?」


 オレは、ただのリーマンだ。勇者なんかじゃない。

 

「あんたが、このゲームに文句を言わなかったからよ」


 自分より大きなジョッキを持ち上げて、ピーディーはエールを飲む。


 ああ。オレは書き込みしないタイプだからな。


 文句はあるけど、それは言ってもしょうがない。


「他のユーザーは、邪な考えの人が多かったわ。でも、あなたは違った。なので、あなたには『勇者の友だち』という、絶好のポジションを用意したの。まあ、姿形はモブの【ソーサラー】なんだけど」

 

 

 このゲームにおいて、主人公の姿形は様々に変えられる。


 武器主体の【ソードマン】。

 攻撃魔法寄りの【ウィザード】。

 回復系の【プリースト】。

 鍵開け・トラップ解除・補助魔法で仲間を助ける【ソーサラー】。


 といっても、最終的にどちらもオールラウンダーな魔法剣士に成長していく。

 物理をメインにするか、回復・魔法が主体になるかの違いだけ。

 攻略対象からの好感度も、ジョブによって上下する。

 戦闘スタイルごとに、誰に貢献するかが変化するからだ。


 選ばなかった方は、モブとして酒場に表示される。


「じゃあオレは、この世界だと『選ばれなかった方の勇者』ってわけだな?」


「ええ、神の啓示を受けなかった側の主人公となるわね」


 キョロキョロと、酒場を観察した。


【プリースト】と【ウィザード】が、酒場の隅で静かに飲んでいる。

 

 となると、この世界の勇者は、武器主体で戦う【ソードマン】らしい。


 ただし、マジで特別な力を得ていないから注意せよ、と言われた。

 まあ、そうだよな。


「あと、メイン攻略対象が、ミラベルだけになるから」


 他のキャラは、嫁にできないという。

 どれだけ好感度がどれだけ高くなろうとも。


「いいぜ。ハーレムルートなんて、望んでないからな」


「それとベップ、すごく大事なことを言うわよ。攻略対象とは、パーティを組めないから」


「わかった」


 このゲームの攻略対象は、どれもすばらしい。


 とはいえ、オレはこのゲームを遊び尽くした。

 攻略可能なキャラを相手にしても、驚きはないだろう。


 さらば、攻略対象たちよ。キミらは、勇者とよろしくやっておくれ。


「説明は以上よ。勇者はもう旅立っているから、ミラベルのお家に行ってみたら?」


「わかった。サンキュな」


「いい冒険ライフを」


 ピーディーが、空に上っていく。


「あ、そうだ。言い忘れていたけど。好感度は自分で上げるのよ」


 オレは、「ミラベルのよき相談相手」ってポジションから抜け出せていないとか。


「今のままだと、ただの相談役からステップアップできないからね」

  

「おっけー」


 そういって、ピーディーは酒場の天井を抜けて消えた。


 勇者の家は、酒場から近い。


 本当にゲーム世界なら、ここにミラベルがいるはず。

お金やアイテムも預けているから、ついでに引き出しておこう。

 

「ごめんください」


 オレは、勇者の家をノックする。


 2D画面だと屋根なしなんだよな、この家。カウンターが道と地続きだし。


「はーい」


 来た! 天使がいる!


 ミランダを間近で見ると、気を失いそうになるな。


 

 ああ。ずっと見ていたい。

 天使ミラベルは、オレのことを見上げて、笑顔を見せてくれた。

本当に、ほんっとうに、『勇☆恋』の世界に来たんだ!



「どうしたの? ベップおじさん」

 


 おじ……まあいいさ。おじと呼ばれるだけでも、OKである。

 追い出されるよりはマシだ。


 なにより、推しと直接会話できるだけでも、最高の気分だ!

 

「いやあ、アイテムと金を、引き出そうと思ってな」


「はい。よいしょ、っと」


 ミラベルが、オレのアイテムと金をカウンターにドスンと置く。

 結構、稼いだな。このゲームを何周もしているから、アイテムの数も半端ではない。


「ありがとうミラベル」


「いえいえ。今日、お母さんがお買い物に行ってて、いないんだよね」

 

 しかし、オレは気になることがあった。

 ミラベルの表情が、沈んでいる。

 オレが気持ち悪い顔を近づけているせいか、と一瞬思った。

 が、どうも違うようである。


 ミラベルはときどき、虚空を見上げているかのような顔に。

 

「どうしたんだ、ミィ。浮かない顔をして?」


「あのね。こっち来て」


 ミラベルはオレを、家のリビングに招いた。

 椅子に座らせ、お茶を用意する。


 最初から、相談に乗ってもらおうと思っていたかのように、準備がいい。


 オレの対面に、ミラベルが座った。

 

「ミラベル。話って?」


 オレが尋ねると、ミラベルが立ち上がる。

 

「わたしね、冒険がしたいの」


 出た。勇者の妹にとって、重大なことが。


 実はミラベルは、「冒険に出たい」という夢を持っていた。

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