第2話 追加要素《エンドコンテンツ》
ミラベルは普段、おとなしめの少女である。
かといって、完全おしとやかってわけでもない。
前に出るときは、積極的になる。
とはいえ、無鉄砲アクティブってわけじゃない。
ちゃんと分別をわきまえ、兄を心配させないように、オレに相談してきたわけか。
そこがまた愛おしくて、たまらない。
まさに天使だ。
「ベップおじさん、どうしたの?」
「おっ。なんでもない」
いかん。またキモい顔になっていたか。
ここはゲーム世界って言っても、リアルなんだ。
気を引き締めないと。
「さっき、冒険がしたいって言っていたよな?」
「そうなんだよ。ベップおじさんに、わたしのコーチをしてもらいたいの。わたしだって、街の人のために役立ちたいよ」
ミラベルは、冒険者である兄の背中を、ずっと追いかけていた。
勇者である兄に、あこがれを抱いているんだろう。
魔物討伐で活躍する兄よりも、人助けをする兄を尊敬しているようだ。
かっこいいからではなく、誰かの役に立ちたいと。
ただ、おそらく勇者は許可しない。
外は危険だからな。
まだ、魔王を討伐できていないから。
「オレなら妹を守って、一緒に旅をするのに」って、どれだけ思っていたか。
純粋にオレは、ミィと冒険がしたいって思っている。
他のプレイヤーは、どう思っているか知らないが。
でも、いいのか? ミラベルを旅に出しても。
やっぱり、危険が伴うよな。
オレで、守りきれるだろうか?
「オレの世界では、『自宅警備員』ってのがいてな。家を守るってのも、ちゃんとした仕事なんだ。家を守るってのは、それだけで尊かったりするぞ」
さりげなく、自宅警護を推薦してみる。
「そうなの?」
「冒険者ばかりが、エラいってわけじゃない。キミのお母さんだって立派だろ?」
「うん。わたし、お母さん、大好きだよ!」
「それだけで、すばらしい」
だからちょくちょく、勇者も帰ってくるわけだし。
この家は、序盤の無料宿として、重宝する。といっても、後半以降は不思議な回復の泉で回復できるようになるから、立ち寄らなくなるけど。
後半になると、ここは金銭や不用品の預かり所としても機能するようになる。
全滅すると、所持金が半額になるし。
外が危険なのは、確かだ。
家にいるのが安全なのは、確証済みである。
どうすっかなー?
「ん?」
そう考えていると、オレの目の前にウインドウが立ち上がった。
【
【エンドコンテンツ: 勇☆恋 外伝】
我が世界における厳選なる審査の結果、あなたを特別に【勇☆恋】のリアル世界に招待しました。
テストプレイをしていただきます。
勇者の妹など、今まで攻略不可だったキャラを、攻略可能に。
新たに攻略可能になったキャラで、勇者一行とは別のルートを楽しもう!
なるほど。
つまりオレは、サンプルプレイヤーなわけね。
オレだけが、選ばれるとは。
とはいえ、問題点もありそう。
[ただし本人含め、ゲーム内で死んだキャラは蘇生不可]か。
勇者たちは神様から加護を受けているため、セーブポイントである教会から蘇生してやり直せる。
しかし、妹は勇者じゃない。だから、蘇生の恩恵はない、と。
所持金半分持ち越しも、アイテムや経験値の引き継ぎもなし。
一度死んだら、最初からやり直すことすらできない。
ハードコア……つまり、「死んだら終わり」ってわけだな。
割と、慎重な行動を求められそうだ。
ヒロインを大事にせよと、固く告げられているみたい。
だから、オレだったんだろうな。
他のプレイヤーなら、ムリに連れ出しそうだと判断したか。
あるいは、ムチャ振りをさせるか。
とまあ、オレが冒険を促さないと、始まらないってわけだ。
じゃあ……。
「わかった。コーチしてやる」
「ありがとう! やっぱり、ベップおじさんに相談してよかった!」
「ただし、この街近辺だけだよ。それ以上先に行くと、強いモンスターがいるからね」
このコンテンツは、比較的ユルめに難易度設定がされているようだ。
勇者たちみたいに、死んだら教会に戻ってくるってわけじゃないみたいだし。
うかつに死亡なんて、ありえない。
このベップおじに、任せとけってんだ。
「装備品を買いに行こう」
「うん!」
オレは所持金を確認し、装備品のショップへ。
「おう、ベップのダンナ。ミランダちゃんを連れているのか」
「こんにちはー。装備屋さん」
「今日もかわいいねえ」
超絶清楚な外面ミランダを見て、装備品を売っているドワーフがフニャフニャになる。
だよな。ミランダちゃんの笑顔は、国宝級だ。
だからこそ、いいもので守ってやらんと。
「ミランダに似合う装備は、ないか? 女の子でも振り回せる武器や、身軽なヨロイなんかを手配してもらいたい」
「なんでえ、ミランダちゃんが冒険するのかい? 危ないぜ」
「オレも、そう言ったんだけどな。この街だって、平和ってわけじゃない。いつ、何が襲ってくるかわからん。だから、今のうちに自衛手段を、と思ってな」
オレ一人で、ミランダを守りきれないかもしれない。
よく考えたら、勇者はまだ魔王討伐をなし得ていないんだ。
それまで、この街は魔王の送り込んだ魔物の脅威にさらされている。
「だよな! なら、とっておきのがあるぜ。ほらよ」
ドワーフが、軽めの棍棒を、カウンターに置く。
続けて、旅人用の外套を用意した。
「ソードマンの初期装備だ。木星の剣でもいいかなって思ったが、最初はこんなもんだろ」
棍棒なら、あとで鉄製の先端を付けられる。
斧を取り付けても、OKだ。
魔法使いタイプになりたいなら、宝玉を付ければいい。
外套は……ネコミミポンチョか。
「あんた、よくわかってんじゃねえか!」
「あたぼうよ! つってもよお、これを売りに来たのが、おっさんばっかのパーティでな。ドロップしたものの使い道がねえってんで、オイラのところに回ってきたわけよ」
「まさか、こんなところで運命の出会いをするとは!」
「だよなあ! ガハハ!」
オレとドワーフ装備屋で、意気投合した。
ミランダはその様子を、首を傾げてみている。
おっと。オレだけ楽しんでいてはダメなんだ。
「冒険者登録に行くぞ」
ドワーフのおっさんとは仲良くなれそうだな。
「気をつけるんだぜ」
「ありがとう。じゃあな」
ギルドに向かうため、ドワーフおっさんと別れる。
続いて、冒険者ギルドへ。
といっても、さっきオレがいた酒場なんだが。
どこぞの異世界転生ものみたいに、イキリ絡んでくる輩はいない。
ミランダのかわいさが、そんな不敵なヤツラを遠ざけているのだ。
みんな、かわいすぎるミランダを遠目で見ている。
だよな。オレだって転移者じゃなかったら、あの中に混じっていたかもしれない。
「いらっしゃい。ミランダちゃん」
エルフの受付嬢が、ミランダにあいさつをした。
「ミランダの冒険者登録を、願いたい」
オレが言うと、受付嬢が驚く。
「まあ。ミランダちゃん、冒険者になりたいのね?」
受付嬢に質問されて、ミランダは「うん」と答える。
「がんばってね」
簡単な書類を作成て、晴れてミランダは冒険者デビューした。
「次は、ビルド構成だ」
「びるど?」
「どんなタイプの冒険者になりたいか、だな」
前衛ならソードマン、後衛ならウィザードか、ソーサラーといった感じである。
「うーん。魔法少女!」
そうくると思った。よくマンガを読んでるもんな。
かわいすぎる。
「じゃあミランダは、バトルで勝つ系より、困った人を助ける系の冒険者になりたいんだな?」
「そうだね。どっちかっていうと、そっちかな」
「よし。魔法少女なら、【バトルメイジ】狙いだな」
ビルド構成的には、「近接戦闘もできる、魔法使い」となった。
魔法使いの比重が高い。
これで近接戦闘の比重を上げて「魔法も使える戦士」になると、「ニンジャ」になる。
ニンジャ姿のミランダか。めちゃかわいすぎるな。ネコミミニンジャで、全然忍んでないんだよ。
「おじさん、どうしたの? やけに、ニヤニヤしてるけど」
「ああ、気のせいだ」
オレは、依頼書を見るフリをした。
【薬草採取】か。最初のクエストとしては、いいじゃないか。
「よし。じゃあ、ステータスをどの割合で上げていくか、決めてもらう」
「はい。ベップおじさん」
「うーん。お兄ちゃんって言ってもらえないだろうか?」
ゲームだと、すぐに言ってくれる。まあ、オレが「お兄ちゃん」を操作するわけだから、当然なんだが。
「えー? ミィのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだよ?」
ミラベルが、首を傾げる。
ですよねー。そこはブレないんだな。
ミラベルは、兄と二人きりのときは、自分を「ミィ」と呼ぶ。
兄にだけ見せる態度を見せてくれただけ、よしとするか。
気を取り直して、ステータス振りの割合を決めることに。
「肉体に三割、魔力五割、敏捷性には二割、振ってみてくれ。これが【バトルメイジ】の基準値になる」
「はい」
ステータス表を確認しながら、ミラベルがステータスを振る。
レベルが上がると、この割合でステータスが上がっていくのだ。
ちなみにオレは【ソーサラー】なので、肉体は二、魔法が五、敏捷性は三の割合で上げている。
以前話した【ニンジャ】だと、肉体:三、魔法:三:敏捷性が四の割合だ。
【ウィザード】なんかは魔法ステータス割合が八で、『純魔』……純粋魔法使いとも呼ばれる。
「できたよ」
「よし」
この割合はギルドカードを介して、ギルドに伝わった。
「さて、街の外に行って、魔物退治と行くか」
さっき見つけた依頼書を手に、魔物討伐へ。
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