第4話 念願のデートイベント
その後、旅の途中で出てきたモンスターは、オレが倒していった。
「ベップさん。ミラベルちゃん、お疲れ様でした。魔石がこんなに」
「八割は、ミラベルが倒した分だ。換金を頼む」
「はい。お待ちを」
受付嬢は魔石を奥へ持っていき、質などをチェックする。
査定があるとか、なんか質屋みたいだな。
でもアイテムの売買なんかも、こんな感じなのかも。
「お待たせしました。こちらです。冒険者カードに、振り込みましたので」
冒険者証に、完金額が表示された。
金額は、通常の三割増しほどである。
想像以上の成果に、オレは舌を巻く。
「うわ。魔石が上質だったのか?」
「はい。たいていの魔石は歪なんですが、ミラベルさんが狩った魔物の魔石は、きれいな形でした」
実際、オレの魔石は安く買い叩かれた。いつも通りなので、文句なんて言わないが。
始まりの街なのに、こんなに稼いでいいものか。
「装備品を新調しても、まだお釣りが来るな」
「じゃあ、ベップおじさん。デートしよ」
ミラベルの口から、とんでもない発言が。
「デートって?」
「うん。あのデートだよ? 今日お世話になったお礼に、一緒に街を色々回ろうよ」
「オレの想像している通りの、デートで構わない?」
「そうそう。ちょっと街で遊ぶくらいなら、ごちそうするよ」
え、めちゃうれしいんだけど。
オレ、泣いていいか?
「ありがとう、ミラベル。でも、金はオレが用意するからいいよ。そのお金は、大事に取っておくといい」
今後、必要な装備品が出てくるかもしれない。
オレにだって、かなりの蓄えがある。
なんたって、このゲームを四周してるからな。
その分の経験値や金・アイテム類は、引き継いでいるのだ。
「わかった。でもデートはしようね」
「うん。じゃあ、おやすみ」
「あ、待って」
ミラベルが、オレを呼び止める。
「ちなみに、エッチなのはダメだよ。ゴメンね」
「ああ、気にしないで。じゃ、おやすみ」
その後、オレは自室で一休みをする。
この家も、周回プレイで手に入れたものだ。
……デートか。
入浴しながら、ため息をつく。
最高じゃん。
エッチなコトなんて、ないな。
他のプレイヤーならともかく、オレはそんな要求はしない。
勇者でプレイしていたときは、そんな兄妹イベントなんて皆無だったのに。
ずっと家の中で、おしゃべするだけだった。
無意味に話しかけたり、この子の2D立ち絵をず……っと眺めたり。
それだけで、オレは満足だった。
ようやく念願が叶って、街へ連れ出すことに成功したぞ。
翌朝、デートの待ち合わせ地点に。
待ち合わせ場所は、噴水のある中央広場だ。
それなりのいい服を来て、待ち合わせをする。
オレのアイテム欄には一応、【私服】もあるんだよな。
本ゲームは、街を歩くときに武器を持ち歩けない。
フレーバー的な要素かと思っていたが、ちゃんと理由があった。
こういうイベントのために、必要だったのか。
「おまたせ。ベップおじさん」
私服姿のミラベルが、噴水の広場まで走ってきた。
かわいすぎる! 天使が来たのかと思った。いや天使だろう。
邪なオレの心が、浄化されていく。
「どうしたの、ベップおじさん?」
身体をモジモジさせて、ミラベルが首をかしげた。
「なんでもない。似合ってるよ」
「ホント? ありがと」
ミニスカートで、ミラベルがくるりんと一回転する。
ああ、本物だ。
いつも立ち絵かドット絵でしか見られなかった、リアルなミラベルが。
ちゃんと、生きている。
「じゃあ、行こうか」
「うん。あ、そうだ」
ミラベルが、手を繋いできた。
「んっ!」
「今日はデートだもん。いいよね?」
「いいよ」
むしろ、もう離したくないっ!
その後、オレはショッピングをすることに。
出店のアクセサリを、ミラベルはずっと眺めている。
「これ、おじさんにいいんじゃない?」
ミラベルが選んでくれたのは、指輪だ。
「これね。バフの効果が上がるんだって」
「ホントだな」
鑑定してみると、エンチャントなどの魔力付与効果が【二%増】とある。
これはいい。
「ありがとう。大事にするよ」
「えへぇ」
ミラベルが、満足気に笑った。
しかし、プレゼントが指輪とは。
胸がドキッとするな。
「ミラベルには……」
「わたしは、いいかな。装備品を、たくさん買ってもらったし」
「そういうわけには、いかない。オレばかりもらっていてもなあ」
なにより、オレがあげたい。
「好きなものを、選んで」
「わかった。じゃあこれ!」
ミラベルが選んだのも、指輪じゃないか。しかも、おそろい色違い!
オレがオレンジ色で、ミラベルは水色だ。
ただミラベルの方は、【攻撃力+五】と書いてある。
「いいよね?」
「もちろんっ!」
安物だが、ミラベルは「うれしい!」と言ってくれた。
「ありがとう、ベップおじさん! わあああ」
指輪をじっと見つめながら、ミラベルはウットリしている。
だが、そんなムードも腹の虫によって阻まれた。
「えへへ。おなかすいちゃった」
「じゃあ、食事にしよう」
このゲームでの食事は、冒険者としての栄養補給だけじゃない。
なんたって、ベースは恋愛シミュレーションだ。
山の景観が拝めるおしゃれなカフェだとか、王宮に近いレストランとかが点在する。
その中から、素敵なお店をチョイスするのだ。
が、ミラベルはラーメン屋を選ぶ。
しかも、濃厚ガッツリ系を。
「一度、行ってみたかったんだぁ。女一人だと、入りづらくてさ」
豪快に、ミラベルは麺をすする。
うまそうに食うんだよなあ。
男勝りにガッツくミラベルも、またかわいい。
「もう少しムードのある店に、行くものだと思っていたが?」
オシャレなカフェだと、女子ばかりいるからガツガツ食べられないとか。
待たされるのも、あまり好きではないという。
「同じお食事デートだったら、公園で買い食いとかのほうがいいかな。今日はお天気もいいから、きっと気持ちいいよ。お話もしたい」
なるほど。それも一理ある。
「じゃあ、午後は公園に行って話そうか。そこで、ソフトクリームの屋台に寄ろう」
「賛成!」
草原のある市民公園で、ベンチに腰掛けた。
手には、屋台で買ったアイスクリームがある。
「王宮が近いと、守られてるって感じがしていいね」
ミラベルが、アイスを舐めた。
この街の平和な感じを、より一層感じられる。
「ああ。実際にオレたちを守ってくれているからな」
この街の王様は、人柄がいい。
というか、実際に会ったことがある。
勇者として会っただけだから、このアバターで会ってもオレだと認識しないだろうけどな。
「おじさん、アイス付いてるよ」
ミラベルが顔をグッと近づけて、オレの口元についたアイスを拭き取る。
おおおおお。
オレ、明日死ぬのでは?
ここに来れただけでも、一生分の運を使い果たしたと思っていたが。
「ありがとう、ミラベル」
「どういたしまして」
そういえば、話があるって言っていたな。
「オレになにか、相談に乗ってもらいたいのか?」
「うん。実はね、街の外に出たい」
オレは、黙り込む。
「街の外に出て、お兄ちゃんが見てきた世界を、わたしも見てみたいんだ。お兄ちゃんが守った世界を、この目に焼き付けたい」
いくら兄が街を救った後でも、なんらかの小さいトラブルがある。
ミラベルは、そう見越していた。
その小さい事件を自分が解決してあげれば、兄も寄り道せずに住むと考えているらしい。
たしかに、このゲームって結構な数のサブクエストがあるんだよな。
周回しないと、出てこないシナリオもあるし。
「まあ、お前さんの兄貴が救った街ばかりだからな。危ない旅には、ならないと思うが」
トラブルなら、他の冒険者に任せればいいと思う。
わざわざミラベルが、出向くことではない。
それでも。
「よし、街の外に出よう」
「いいの?」
「オレには、転移魔法がある。こっちには、いつでも帰ってこられるからな」
また、オレは危なくないダンジョンの知識もある。
道中でミラベルのトレーニングをしつつ、ダンジョンに潜ってもいい。
「ただし、ちゃんとおふくろさんから、許可をもらってくれ。兄貴にも、話をつけておくんだ。そろそろ、転送魔法で家に帰ってくる頃だろ?」
あいつなら、絶対に反対なんてしないだろう。
「うん! わかった!」
ミラベルを、家まで送った。
「じゃあね、ベップおじさん。今日はありがとう!」
「おう。おやすみ、ミラベル」
明日から、冒険がもっと楽しくなるぞ。
(第一章 完)
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