第二章 勇者の妹、王国の姫と仲良くなる。
第5話 ダンジョン
次の街は、ムーアクロフトの城だ。
「ちゃんと許可を取れて。よかったな」
「うん。ベップおじさん。危ないことをしなければ、OKだって」
オレも一応、勇者の家族と話し合った。
その上で、ミラベルも交えて許可をもらっている。
黙って連れ出したりは、絶対にしない。
そこは、ちゃんとする。
後腐れができると、勇者に悪いからな。
「ただ、モンスターの質が変わるから、気をつけてくれ」
ムーアクロフトへ続く道に、ダンジョンがある。
はじまりの街から続く街道もあり、商人や貴族はそちらを通る。
だが、こちらは大きな山を迂回するので、五日もかかってしまう。
冒険者は、近道としてこのダンジョンを利用するのだ。
ここを使えば、二日ほどでムーアクロフトに辿り着ける。
とはいえ、街道なんて生やさしいものではない。
長い年月をかけて山が削れてできた、自然のダンジョンだ。
モンスターの巣であり、うかつに踏み込むと大ケガでは済まない。最悪、命を落とすだろう。
「進むぞ。気をつけよう」
「うん」
オレはカンテラを手に、先行する。
「モンスターが来るぞ!」
モグラ型のモンスターが、スコップを持って現れる。ご丁寧に「安全第一」と書かれたヘルメットも被っていた。
なにか、乗り物に乗っているが。
「うえええ。イモムシ!」
ミラベルが、不快感をあらわにした。
バカでかいイモムシに、モグラが乗っている。
「イモムシは、オレがやる。ミラベルは、モグラをたたけ!」
「ありがとう!」
ミラベルがくれたエンチャント指輪の効果で、ミラベルに二割増しのバフがかかった。
イモムシが丸まって、ミラベルに突進してくる。
玉転がしの要領で、モグラの魔物は器用にイモムシを誘導した。
「させるか!」
オレは氷魔法を、地面に張る。
突撃してくるイモムシを、転倒させた。
イモムシとモグラの分断に、成功する。
「今だ、行け!」
「【フレイム・ヒット】!」
炎属性の殴打を、モグラの腹に食らわせた。
頭にはヘルメットを被っているが、腹は無防備である。
弱点が、わかりやすい。
腹に一撃を喰らい、モグラモンスターは消滅した。
オレはイモムシを、そのまま凍らせて撃退する。
「ケガはしていないか?」
「大丈夫。でも」
「虫は苦手か?」
「そうかも。いつもにぃ……お兄ちゃんが取ってくれるから」
素が出てしまったのに気がついて、ミラベルが言葉を選ぶ。
「今更言い換えても、遅いと思うぞ」
「……えへへ」
その後、コウモリやオオトカゲなどを倒していく。
モンスターの素材も高く売れるので、アイテムボックスに。
さて。
正攻法なら、さっさと抜けたほうがいいのだが。
ミラベルに危険が及ぶことを考えたら、なおさら。
「どうする? 二日で目的地へ向かうか、あえて五日かけて鍛えるか」
ここを抜けられないようでは、ムーアクロフトを攻略できるとは思えない。
オレがそう説明すると、ミラベルもうなずいた。
「五日かけて特訓するよ。まだ、わかってないことも多いから」
「ミラベルは、がんばり屋さんだな」
「がんばって成果を出したら、もっといろんな人を助けられるでしょ?」
優しい子だ。
絶対に、死なせてたまるか。
この娘を失ったら、この世界が滅んでしまいそうだ。
「わかった。当分、ダンジョンにこもるぞ」
ならば、とっておきの場所がある。
オレは、正解の道をそれた。
「あれ、目的地って、そっちじゃないよね?」
「いい場所があるんだ。ついてきて」
ダンジョンの端っこに、小屋がある。
壁や周囲は結界が張られていて、魔物を寄せ付けない。
「土ばっかりのダンジョンに、家がある!」
「これが、【セーフハウス】だ。大昔の冒険者パーティが、避難所として作ったものだよ」
煙突だけではなく、空気穴もあるため、息苦しさもない。
「ただ、煙突は幅が狭いから、こちらから外へは出られないぞ」
オレは、煙突の奥をミラベルに見せた。
ダンジョンの敵が怖くなって煙突を抜けようとしても、身体は入らない。
「宝箱もある。とってもいいのかな?」
部屋の隅に、木箱がある。宝箱だ。
「いいぜ。ダンジョンの宝箱は、一日経ったら中身が復活するからな」
開けた人物のレベルに応じて、中身も変わる。
ただし、効果は無限ではない。
一度開けた人間がもう一度開けると、空っぽでなる。
取った人間の記憶が、宝箱に残るようだ。
「革製のヨロイだ」
「身につけておいで」
とてて、と、ミラベルは別室に移動した。
オレはアイテムを引き継いではいるが、ミラベルに装備できるようなものは所持していない。あえて売り飛ばした。
ミラベルの安全を思えば、強力なアイテムで固めるのがセオリーだろう。
しかし、そんな戦いは全然おもしろくない。
なにより、装備に対するありがたみが薄れてしまう。
ミラベルの性格を見ても、うれしくないだろうと思った。
なので、一からアイテムを吟味してもらうことにしている。
「終わったよ」
天使が、着替えを終えたようだ。
ミラベルの防御力が、三ほど上がっている。
かわいさは、三.四割増ってところだろうか。
無骨な革ヨロイが、ミラベルが装備するとファンシーな見た目に変わったではないか。
どんな効果なんだろう?
他の装備と合わせると、ようやく防御力が二桁に達したところか。
重い武具を持てないミラベルなら、これくらいがちょうどいいのだろう。
今日はもう、休むことにする。
次の日から三日かけて、セーフハウスで特訓を行った。
とにかく、モンスターの撃退につぐ撃退を行う。
特に、苦手な虫系モンスターに慣れてもらった。
イモムシだけではなく、ムカデやサソリなんかもいた。
「あっちへいけー!」
棍棒をブンブンと振り回して、魔物を倒す。
「モンスターが、固くなってきた気がする」
「そろそろ、武器が心許なくなってきたな」
初期冒険者用の棍棒も、そろそろ卒業だな。
倒した魔物が、アイテムを落とした。
「おっ。いいものが出たぞっ」
モンスターからドロップしたのは、【バトルハンマー】である。
ハンマーと言っても、一言でいうとトンカチだ。
鉄製であり、ハンマーの中央部分に宝玉もはめ込める。
「しかもこれ、【穴付き】だ!」
「穴って?」
アイテムには、穴が空いているタイプがある。
この穴に魔法の宝石を入れて、さらに強化できるのだ。
「ただでさえバトルハンマーは高価なのに、さらに大当たりだぜ」
ミラベルは、アイテムの引き運が強い。
で、例のごとくミラベルが装備すると見た目がかわいくなった。
ピコピコハンマーのような、痛くなさそーなデザインに。
「出口だよ、ベップおじさん」
「おう……ん! ミラベル急ぐぞ!」
馬車が、野盗に襲われていた。
ヤギの角をはやした魔物が、貴族の馬車を襲撃している。
あんな敵、いたっけ?
「待て! このケンカ、オレが買うぜ」
オレは、貴族の馬車と野盗共の間に割って入った。
こういうイベントは、たしかやったことがあるな。
といっても、今のオレ、魔法職じゃん。
正面から野盗にケンカ売るとか、正気か?
まあいい。レベルは高いんだ。どうにかなるはず。
「おりゃああー」
ミラベルも、さっそく新兵器で暴れていた。
バトルハンマーの威力は、想像を超えている。一発で、ヤギ角の野盗を気絶させちまった。見た目からして、効果がなさそうだったが。
オレもやるか。
「【アースクロー】!」
範囲攻撃で、ヤギ野盗を串刺しにした。
「退け退けー!」
野盗たちが、逃げていく。
「危ないところを、ありがとうございました」
あれ、ここでのイベントで出会うのは、リリアーナ姫のはずだ。
「失礼ですが、ムーアクロフトの王女様ですよね?」
「そうよ。あたしはサクラーティ。第二王女よ」
オレが出会ったのは、もう一人の攻略不可対象だった。
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