第22話 ウルフを改心させる、勇者の妹

 大型トラックばりにデカいウルフが、ひとりでに動く雪だるまに指示を送る。

 あのウルフの名は【銀狼】というらしい。


 雪だるまを解析すると、【雪の邪精】と出てきた。悪い精霊って分類でいいな。


 自走雪だるまが、体当たりで冒険者を負傷させた。さらに雪玉を作って投げつける。

 野良魔法使いの火球を、凍らせてしまった。


 凍った火球を砕き、雪玉が魔法使いの土手っ腹に直撃する。


 魔法使いは悶絶しながら、戦線を離脱した。

 

 ヤバイ。強いな。見た目は、害がなさそうだったが。


「いくよ。【ハートビート・鬼火バージョン】!」


 ミラベルが、ハート型の火球を雪の邪精に放った。

 しかも風魔法と合成して、分散させている。


【合成魔法】を、もう使いこなしているのか。

 自分のできることを瞬時に理解するのは、ミラベルのいいところだ。


 雪玉が、大量にハート型火球に殺到する。


 しかし、火球は雪玉をものともせず、邪精たちを焼いていった。ミラベルの愛は、雪をも溶かすのか?


 ミラベルの愛を受けて、雪だるまたちが満足げな顔で溶けていく。


 銀狼が、ミラベルを敵と認識したようだ。ミラベルだけに狙いを定め、突進。前足で、攻撃を繰り出す。


「おっと!」


 オレはミラベルを抱えて、側面へ跳躍した。


「お前さんの相手は、オレだ!」


 オレは、杖を構えた。


「ミラベルは引き続き、邪精をやってくれ。オレは、この銀狼とやらを倒す」


「お願い、ベップおじさん!」



 さて、いきますか。


「スキル合成は、ミラベルだけの特技じゃないんでね! 炎と土の合成! 【ファイア・アーム】!」


 土魔法で腕を作り出し、炎をまとわせる。

 炎の拳で、銀狼に殴りかかった。


 銀狼も、鋭い爪で応戦する。

 大型の腕の一撃で、火花が舞った。


 銀狼が、ブリザードのブレスを吐く。

 

「なんの。こっちも。氷と土の合成魔法。【ドームシールド】!」

 

 土を盛り上げて氷魔法をまとわりつかせ、「かまくら」を作り出す。


「このこの! 【ファイア・ストーム】!」


 鎌倉の中から炎の竜巻を起こし、ブリザードの隙間を縫って反撃に転じた。


 銀狼が、口を地面に叩きつける。


 土を咥えながら、首を持ち上げた。そのまま土で壁を作り出す。


「あっちも、合成魔法を使うのかよ!」


 あちらまで、かまくらを作りやがった。


 風魔法と氷魔法を合成させ、銀狼がスケートのようにこちらへ滑ってくる。後ろ足によるキックで、こちらのかまくらを砕いた。


「てんめ! 【ファイア・アーム】!」


 懐に飛び込んできたなら、土と炎の腕で掴んでやりましょ。


「トドメだ!」

 

 オレは杖を水平に持って、最大火力魔法を打ち込もうとした。

 

「待ってくれ!」


 が、シバレリアの兵士が、オレの肩を掴む。


「どうしたってんだ? 街のピンチだってのに!」


「あのオオカミは、姫騎士の大事にされていた幻獣なのだ!」


 クソが。どないせえっちゅうねん!


「うお!」


 銀狼が、オレの作った炎の腕を振りほどく。


 後ろ足を避けた際に、首輪が紫色に光ったのが見えた。

  

「ミラベル! ヤツの上に乗っかれないか?」

 

「できるよっ! その後、どうしたらいい?」


「ヤツの首輪を、引きちぎってくれ! オレが魔法で、首輪にダメージを入れる!」


「わかった! オオカミさん、おとなしくしててよね!」


 ミラベルが、銀狼の資格に回り込んだ。

 

 オレは、キョーコ直伝の【鬼火】を放つ。

 狙うのは、ヤツの目だ。

目潰しはしない。視界を奪うだけでいいのだ。


 ヒュンヒュンと飛び回る鬼火を、銀狼はうっとうしがる。


 そのスキに、ミラベルが銀狼の首に取りついた。


「うわわーっ!」


 銀狼の首輪に手をかけたミラベルは、ロデオのように振り回される。


「待ってろよ、ミラベル! すぐ終わらせる!」

 

 瞬時、鬼火を銀狼の首へ命中させた。一箇所のみを、集中的に焼く。


 ブチッ! と、首輪が外れた。


「今だ!」


「ハートビート!」


 外れた首輪へ向けて、ミラベルが、ハートの火炎弾を放つ。


 ミラベルの火炎によって、首輪は焼け落ちた。


 その瞬間、大量に発生していた邪精が、一瞬で溶けていなくなる。


 この邪精どもが、銀狼を操っていたのか。銀狼が、邪精を従えているんだと思ったぜ。


「大丈夫か、銀狼」


「おお、私は何を?」


 紫色だった目の色が、銀色になった。

 どうやら無事に、正気に戻ったようだ。


 この戦いでわかったことだが、ミラベルには浄化の力が宿っているようだな。だから、銀狼も正常に戻せたのだろう。

 

「私は姫騎士【エデル・ワイス】の従者、銀狼。そなたらが、私を解放してくれたのか。礼をいう」


「礼は、ミラベルに言いな」


 オレは、後ろにいるミラベルを指す。


「かたじけない。冒険者の少女よ」


「わたしは、ミラベル。銀狼さんは、困ってるんだよね?」


「うむ。主であるエデル・ワイスを、助け出さねば」


 

 本来なら、軽く小休止イベントがあるのだろう。しかし、先を急ぐのでは?



「とにかく、姫騎士【エデル・ワイス】とやらを、助けに行こうぜ」


「待つのだ。準備が必要だ。そなたたちにふさわしい装備を、調達しよう」


 なんと、店売りの商品を七割強化してくれるという。

 しかも、重量のペナルティもなし! 


 これなら、迷わず購入できる。

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