第25話 国家転覆を図るおっさんに、アツアツおでんを

「ヒハハハ。なにをほざくかと思えば。魔王の側近の中でも屈指の実力を誇る、この妖術師をひいい!?」


「しゃべらせねえよ」


 のんきにくっちゃべっていた妖術師に、ソードオフを放つ。

 ちなみにイリュージョンの魔法によって、砲身が「ちくわ」、マガジンが「大根」、持ち手が「はんぺん」の形をとっている。弾丸は、小さい「がんもどき」だ。


 相手には、障壁でガードされた。

 が、それでも敵のシールドにはヒビが。

 こちらの魔力に合わせて、ソードオフの威力も増すようだ。

  

 この世界に来て、初めて本気でブチのめしたい相手が出てきた。


「凄い音がしたよ、ベップおじさん!」


「今のが、銃だ。ドワーフの技術の粋を結集して作られた。魔力を弾丸として撃ち出す武器だよ。こっちは任せろ、ミラベル」


「はい。オオカミさん、おねがい」


 銀狼が「御意」と、ミラベルを自分の背中に乗せた。ミラベルの速度では、エデル・ワイスの動きについていけない。ナイスな作戦だと思う。

 今までジャストガード以外に回避行動をしていなかったミラベルが、まともに戦えるようになっている。

 エデルの剣戟をすりぬけ、おでん型のハンマーで殴りかかった。


 圧倒的に劣勢だったのが、ようやく五分といったところか。


 こっちだって、負けていない。

 妖術師の杖を、ソードオフ・ショットガンでへし折る。


「なんと珍妙な武器を! 若造が、この歴戦の妖術師に歯向かうなど!」


「黙れ。姫様の後ろ盾がなかったら、なにもできねえくせによ」


「そちらこそほざけ!」


 妖術師が、本性を表した。骨ばった、悪魔の姿を取る。腕と足がなく、手の平だけが浮いている。こちらの世界観に合わせて、多少はファンシーさを残しているようだ。だが、邪悪さのほうが勝る。

 これも妖術かと思ったが、こちらが本体らしい。


「わが名は、妖術師のリッチ! お主は我が秘術によって傀儡になどしてやらぬ! 永遠に闇をさまようがいい!」


「うるせえよ。おでんの餌食になりやがれ」


 相手が人間じゃないならば、ぶっ飛ばしても問題なかろう。

 容赦なく、おでんを打ち込む。


 浮いている手をクルクルと回して、リッチがより強力なバリアを張った。


 がんもどきが、弾き飛ばされる。


 ダメージが通らないどころか、コイツを攻撃するだけムダか?


「すばらしかろう! これが魔王様よりたまわった力だ!」


「バカ言え。ただ、通せんぼさせるだけの力をもらっただけじゃねえか! なんの自慢にもならねえよ!」


 ミラベルは力を与えられても、自分でアレンジを試みる。探究心が強い。

 ただ力をもらってイキっているだけの魔物とは、頭の構造が違う。


「黙れ若造が! 魔王様の偉大さも知らずに、能書きだけを!」


「能書きだけかどうか、試してみな!」


 ソードオフに、合成魔法をプラスする。


「ウインド・カッター!」


「バカめ! マジックシールド!」


 リッチが再び手をクルクルさせて、魔法を弾く。


「バカは、テメエだ!」


 障壁に弾かれた魔法が、エデルの背中にヒットした。


「ありがと、おじさん! えーい!」


 そのスキに、ミラベルがエデルに一撃を加える。


 こんにゃくで突きを喰らい、エデルが怯んだ。


 ようやく、エデルにまともなダメージが通る。


「ぐおお! イカン!」


 エデルの魔法修復のために、リッチの魔力が吸われていった。


 やはりか。

 初撃でおかしいと思った。


 妖術師が、ヨロイにパワーを与えているんじゃない。


 ヨロイのほうが、妖術師を魔力タンクにしてやがる。


 もし妖術師が本当にエデルを操っていても、それこそ遠くから指揮をしていればいい。


 なのにコイツは、わざわざ至近距離まで出向いてきた。

 攻撃されるリスクを、背負いながら。

 

 つまり、リッチの本体は、あのヨロイだ。

  

「銀狼、リッチはこの際、無視だ! エデルだけに焦点を絞る!」

 

「御意!」



 銀狼が、爪でエデルに攻撃をしかけた。


 緑色の剣閃を放ち、銀狼を遠ざけようとする。


 ミラベルが、銀狼の背中からダイブ。エデルへ飛びかかった。


 再び、剣閃を放とうとする。

 側面から、オレが銃撃でハルバートを撃ち落とす。


「姫よ、正気に戻り給え!」


 銀狼が、エデルの横っ面をひっぱたく。


 エデルが被っていた仮面がわずかに砕け、顔から離れていった。


「ぶっつぶせ、ミラベル!」


「はい! このおお! エデルちゃんから離れろーっ!」


 必殺おでん攻撃で、ミラベルは仮面を砕いた。


「ダメ押しのハートビート!」


 ハート型の火球も、ミラベルは仮面に叩きつける。


「おおおおおおお魔王様あぁぁあああああ!?」


 妖術師リッチが、断末魔の叫びを上げる。

 

 エデルを包んでいたヨロイが、古くなった土壁のようにボロボロと剥がれ落ちた。


「どうにか、倒せたのか?」


 オレの脳内に、ファンファーレが鳴り響く。



【クエスト達成!】


 おめでとうございます。

 王女エデル・ワイスの呪いも解けて、クエストを達成しました。  



 よし、クリアはできたようだ。


「うう。ボクは、いったい?」


 男装のドワーフ麗人が、そこにいた。

 ショートカットで、ボーイッシュな感じである。


「おお、エデル王女よ。ご無事で」


 エデル王女の前に、銀狼が腰を下ろす。

 色々と、事情を説明した。


「そうか。やはり大臣が。ボクは大臣の不正を暴こうとしたが、近づきすぎたようだ。いいように操られてしまうとは」


 エデル王女は、オレとミラベルに礼をいう。

  

「ミラベルといったな。どうだろう? ボクと結婚してくれ」


 ええーっ!? 

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