第26話 アイテム合成と、温泉イベント

 なんと、エデルがミラベルに交際を申し込んできた。

 マジか。そっちのケもあったとは。


「姫よ、お考え直しを。そもそもあなたの美少女好きが、この手の混乱を招いたと」


「わかっている。だからわたしは、夫も妻も大事にする姫騎士を目指したのだ」


 エデルは、かなりクセのあるヒロインだったようだ。


 さて。ミラベルは、どう出るだろう?


 お姫様から求婚されるなんて、めったに起きないイベントだしなあ。


「ごめんなさい」


 ミラベルは、きっぱりと断った。

 王族相手でも、ミラベルは考えを曲げない。


 そりゃあそうだ。魔王討伐に出た勇者の手助けを、人知れずやっているんだ。

 恋愛にうつつをぬかしているヒマは……。

 

「わたし、ベップおじさんが好きなんだ!」

 

 おお、ありがたい! 


「おじさんのお嫁さんになるから、エデルちゃんのお嫁さんにはなれません」 


 胸がジーンと、熱くなる。


 かつてミラベルが、ここまでストレートに愛を語ってくれたことがあっただろうか。

 戦闘のパーティとしか、思われていないんじゃないかって、何度も考えた。

 しかし、ミラベルはオレに好意を持ってくれていたのだ。

 

 だがこれで、オレは斬首ってことになったりしないよな?


「わかった。ではせめて、一緒にシバレリアの街を見て回ってくれないか? 街の近況なども知りたいし、キミを連れて歩きたい」


「それくらいなら、いいよ」


 おっ。やはりクエストログが出てきたな。


 

 


【デートイベント】


 エデル王女と、街を回りましょう。

 一晩かけて街を歩き、被害状況などを調べます。

 夜は、社交界デビューもしましょう。


 


 さすが王族とのイベントともなると、社交界などもあるのか。



 

 みんなで銀狼の背に乗って、シバレリアまで戻る。

 

 エデルの案内のもと、街を回ることになった。

 ドワーフたちは器用で、街が多少ぶっ壊されても自力で修繕している。


「ベップ、ミラベル。ありがとう。お礼として、二人に【アイテム合成】を教えよう」


 待ってました。


 二つの武器を持って、エデルが説明をする。


 オレの眼の前に、鍛冶用のログが出てきた。


 厳密には、鍛冶に使うセットが目の前に突然出てきた感じである。

 

「アイテムには、属性や特性がある。それを抜き出して、別のアイテムに移すイメージを」


 オレはアイテムのログが勝手に出てくるから、属性・特性を移動させるだけでいい。



 鍛冶のログにセットして、武器を叩く。

 特性を抽出したい武器を、破壊した。オレの場合は、店売りの杖である。

 武器の破片から、小さな青い石が出てくる。


「それが、要素だ。では次に、石を別の武器に移す」


 この場合、石と武器の上に置き、一緒に叩けばいいらしい。


「できた」

 

 オレは、ソードオフと杖を合成させて、より強い魔法弾を撃てるようにする。


 こういうのって、ゲームだと成功率とかがあるんだよなあ。

 だが【勇☆恋】は、絶対に成功するみたいだ。

 どこまでも、親切設計である。


 しかし、ミラベルって、どうやって想像するんだろう?


「大丈夫か、ミラベル?」


「平気。すぐにわかったよ」


 野生の勘みたいな感じで、ミラベルはスイスイっとアイテム合成を覚えてしまった。



「おじさん、見てこれ」


 ミラベルは、角笛とハンマーを合成させていた。

 他にも、金属ヨロイをキグルミと組み合わせる。

 オーバーオールを着たキグルミが、完成した。


「かわいさが激増ししたな!」


「わーい」


 ミラベルが、アイテム合成の成功に歓喜する。



 その後、社交界に招かれた。


 オレはダンスホールの隅で、ミラベルの着替えを待つ。

 白いタキシードを、何度も確認した。

 

 貴族の軍服風のエデルに手を引かれ、ミラベルがダンスホールの階段から降りてくる。

 

「おおお、キレイだ。ミラベル」


 髪を整え、ドレスに身を包んだミラベルが。

 天使どころか、女神とさえ思える。

 

「ベップおじさんも、めちゃかっこいいよぉ」


 ドレス姿のミラベルと、ダンスを踊った。


 オーケストラに合わせて踊るなんて初めてだったが、どうにかうまく踊ることができたようだ。


 こんな民間人が踊っていいものかと思っていたが、国を救った英雄として、オレたちは歓迎された。


 ダンスを終えて、エデルがオレたちを城の裏手に連れ出す。

 

「城の中に、温泉がある。そこに連れて行ってやろう」


「温泉かー。いいなー」


 異世界にも、温泉みたいな場所があるんだなぁ。



「あああ。生き返るなあ」


 さすが異世界の温泉ともなると、温かいだけではない。

 魔力がみるみる、回復していく。

 ずっと戦い詰めだったので、わずかな傷や痛みなどが残っていたようだ。

 身体が癒やされ、肩こりも解消されていった。


「おじさん……」


「うわ!」


 なんと、バスタオル一枚のミラベルが隣に!


「ここって、男湯だよな!?」


 看板を見て、たしかに男湯だと確認したはずだが。


「えっとね。ここは王族専用のお風呂らしくて、男女兼用なんだって」


 更衣室だけ、男女に分かれているらしい。


「エデルは、一緒じゃないのか?」


「向こうに入っている」


「そうか」


 なにかしゃべってないと、気まずいんだが。


 ミラベルの全身は、湯気でうまく見えなかった。

 これはむしろ、ありがたい。

 もし全身がバッチリ見えるようなら、オレは理性を保てるかどうか。


 ミラベルが、オレのすぐ側に浸かった。

 肩がピトッと、くっついている。

 

「エデルちゃんから聞いたんだけど、もう魔王の城は目の前なんだって」


「うむ……」


 もう、このエンドコンテンツも終わりなんだな……。


 

(第五章 完)

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