第12話 エクストラクエストの準備

 準備が整ったと、人魚のメイドさんがオレたちを呼ぶ。

 メロに案内されて、宴会が始まった。



『勇☆恋』本編では実装されていなかった「刺身」が、食べられるとは。


「生のお魚って、こんなにおいしいんだね!」


 恐る恐る食べていたミラベルも、楽しそうだ。


 オレも刺し身の他に、カニなどもいただく。

 

 催しでは、イルカショーなどが展開される。


 ひとまず、人魚の島が大変なのはわかった。 

 ただ、今は楽しもう。


 島での楽しいひとときを再び取り戻すため、オレたちは戦うんだ。

 


 豪華な宴が終わり、本題へ。


「実は、海底洞窟の魔物に、海賊たちが汚染させられました」


 ゲーム本編での討伐イベント後、海賊たちは脱走したそうだ。


「汚染、って?」

 

「何者かの手引かはわかりませんが、とにかく海賊たちは逃げ延びたのです。それで、海底洞窟に逃げ込んだと」


 そこで、財宝に扮した何者かに、魂を売ったのだろうとのこと。


「それ以降、海賊たちはいくら退治しても、また再び蘇ってしまうのです」


 なるほどねえ。


 となると、またあの現象が起きるはず。


 おっと。来ましたよ、クエストログが。


* * * *


 

【エクストラクエスト:海底洞窟へ】


 海賊たちを復活させている魔物が、海底神殿に潜んでいます。

 この魔物さえ倒せば、クエスト達成になります。


 ただし、エンドコンテンツならではの難易度となっております。

 今までとは比較にならないボスが、あなたを待っているでしょう。

 


 なお、このイベントは、クリアしなくても構いません。

 船は手に入るため、次の大陸への冒険は可能です。

 しかし、ずっと滞在したままだと、また海賊が復活してしまい、海賊討伐クエストの受け直しとなります。

 次の目的地へ出発するなら、本日中に街へ戻ってください。それで、エクストラクエストを放棄したことになります。

 

 エクストラクエストを受けるなら、今日中に決定してください。


 受けますか?



* * * *


 

 オレの眼の前に、【YES】と【NO】というアイコンが表示された。


こんなの、決まってるじゃねえか!


「【YES】だ!」

 


 オレは、クエストを承諾した。


 眼の前に、海賊に困っている人魚がいるんだ。

 助けるに、決まってるじゃんよ。


 オレは、ミラベルとデートができたらそれでいいわけじゃない。


 こんな一大事を無視して先に進んだら、ミラベルも悲しむだろうが。

 ミラベルは、みんなに幸せになってもらいたいんだ。

 顔を見ていれば、そんなのすぐにわかる。

 

「ミラベル。危険な冒険になるぞ。なんだったら、オレ一人でクエストをこなしてくる」


 オレがいうと、ミラベルがオレの腕にしがみついてきた。服を掴んで、離さない。

 

「ダメだよ、ベップおじさん! わたしもついてくよ!」


「しかし、ここから先は、かなりヤバイ戦闘になるぜ」


「なら、余計にわたしが一緒に行くよ! おじさんの、力になりたい!」


 オレが言っても、ミラベルは効かなかった。


 仕方ない。連れて行くことにした。


「ただ、ここからはもう、初心者縛りとかはなしだ。全力でやる」


 今まで温存していた装備品も、フル稼働させる。

 

 今のミラベルのレベルは、一三ほど。

 ボスのレベルは、おそらくミラベルを軽く超えてくるだろう。


 だったら、周回プレイで集めてきたレジェンド装備で、ミラベルを固めるしかない。


「うわ。すっごい。べップおじさん、これってどうしたの?」


 ゴツゴツしたアイテム類を見て、ミラベルが目を丸くした。

 

「勇者との……お前さんの兄貴との冒険で手に入れてきた、貴重品だ」


 コイツを、ミラベルにつかってもらう。

 

「ちょっとガチ目のビルドになるぜ。いいか、ミラベル?」


「いいよ。人魚さんたちを助けよう」


 そうと決まれば、さっそく着込んでもらおう。



 その前に、運営に質問をさせてもらう。


 ログの横に、メッセージを送る欄があるから、そこに小声で話しかけた。


「質問なんだが、メロは死ぬキャラクターか? もし死亡するキャラなら、こちらで装備をガチガチにしないと」


 お、回答が返ってきたぞ。

 

[問題ありません。メロは初期装備のままでも、充分戦力となります。体力がゼロになっても、戦闘不能状態になるのみです。蘇生アイテムさえあれば、何度でも復活できます]


 フムフム。

 

[ただしミラベルは、体力がゼロになると死亡扱いになります。ご注意を] 



 OKだ。

 じゃあ、ミラベルの装備だけを充実させればいいんだな。


 おそらく、メロも次回作での攻略対象なんだろう。

 メロを攻略対象にしたら、メロが死んだら消滅するってわけか。


 二人分の装備も、あるっちゃあるんだがな。

 

 よし。方針は決まった。


 補助魔法を効果的に活用してもらうため、メロには知力が上がる装備を。


 ミラベルは、全体的にユニーク以上の装備でガチガチにしてやろう。


「えっと。頭は【叫ぶ兜】でいくか」


 鹿の頭を模した兜を、ミラベルにかぶせた。

 これは、弱い魔物を追い払う効果あり。


「胸部は【不死鳥の胸当て】を」


 常に体力を回復させるユニークアイテムだ。


 手には【燃え盛る氷】という手甲を。上腕だけを覆うプロテクターなので、指輪をはめた状態でも装着できる。右手に炎属性の、左手には氷属性のエンチャントがかかっているスグレモノ。


 足はユニークの上の等級、レジェンダリ装備を。


「これは【影ぬいの具足】っつってな。ダメージ床が無効になるんだ」

 

 うん。素晴らしく固くなった。

 レベルによる装備制限のあるアイテムなだけあって、性能もバッチリだ。

 これならラスダンどころか、エクストラダンジョンでも乗り越えていけるだろう。

 

 だが、見た目が絶望的である。


「なんだか、禍々しいね」


「そうなんだよなあ」


 見た目からして、ネタ装備だ。


 冒険に出るだけなら申し分ないが、ちょっと街は歩けない。

 


 いかに「始まりの街」にいたドワーフおっさんのセンスが、オレと丸かぶりしていたか!

 彼は装備の外見において、神がかっていたからなぁ。


 そんな、外見でお悩みのあなたに!

 


「周回プレイの特典といえば、この【イリュージョン・ツール】だろ」


 オレはミラベルの中指に、指輪をはめた。


 指輪の爪には、まだ宝石がはまっていない。


「イリュージョンって、なに?」


「全身の外見を変更するツールだ。装備品の性能そのままに、見た目だけを変更するってアイテムだよ」


 周回クリアするたびに、様々なバージョンが手に入る。


 手に入れたときは、「これって、なんに使うんだよ」って思っていた。

 なるほど、このためだったのか。

 てっきり、ネタを楽しむフレーバーアイテムなんだと思っていたが。


 えっと……【バイキング・レイジ】は、違うな。こっちが海賊になってどうするんだ。

【死者の呼び声】も違う。ネクロマンサーになって魔物と一緒に冒険とかは、ソロ狩りでやるわい。


「あった。これだ。【旅立ちの勇者】シリーズ! これこそ、ミラベルにとって大事なアイテムだ」


 オレはいろんな着せ替え機能の中から、一つに絞り込む。


「これって、どうなるの?」


「まあ見てろって」

 


 オレはミラベルの指輪に、魔法石をはめ込んだ。

 

「おお、バッチリじゃん!」

  

ミラベルの見た目が、女勇者のそれになった。

 ヨロイの腰部分は、ミニスカになっている。


 うん。最高だな。


「すごい! お兄ちゃんの装備みたい!」

 

「そうなんだよ。見た目だけだが、勇者の女バージョンに変えられるんだよ」



 これ、かなり当たりのフレーバーアイテムなのでは?


 

「あとは武器なんだが」


 オレが持ってる武器を装備するには、ミラベルのレベルが足りない。


「こちらをお使いください」


 メロが、母親から譲り受けたという。

 巻き貝のようなアイテムで、バトルハンマーよりやや長い。

 随所に、穴が空いている。

 見た目は金管楽器のフルートみたいだが、穴の感じからして縦笛とかオカリナに近い。


「これはまさか、【海の主の角笛】か?」


「そうです。母がぜひにと」


 海の主の化石から作られたという、角笛状のステッキだ。


 吹いて杖に魔力を流し込むことで、物理攻撃効果がアップする。

 またマジックアイテムとしても、魔法攻撃力増強効果が高い。


 コイツ、未実装のレジェンダリーアイテムじゃねえか!

 データだけ存在していて、「出てこねえ」って客が騒いでサイトが炎上したんだよなあ。


 それが今、ミラベルだけの手に。

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